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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

四月一日防衛論集:日本における核の議論-禁忌を脱し現実的な安保論として向き合う必要性,日韓関係と韓国の議論

2023-04-01 14:40:00 | 北大路機関特別企画
■四月一日特集
 新年防衛論集ならぬ新年度防衛論集として今回は非常に踏み込んだ話題を考えてみましょう。

 四月一日という事で、普段はなかなか踏み込めない領域の話題について少し考えたいと思います。踏み込めない領域、いろいろあるのですが一種禁忌として避けてきました話題は、核兵器の話題です。具体的には、昨年の安全保障関連三文書改訂に明記された、反撃能力整備が、五年十年単位は兎も角として四半世紀後、どう展開するのか、という点です。

 核武装、日本がというよりも、日本は非核政策を国是として掲げつつ、しかし原則論を出ない範疇でのみ論じつづけた事は、結果的に世界政治の、敢えて国際政治という表現を避けるのですが、相関関係における位置づけを曖昧とするとともに、核兵器というものを正面から向き合わねばならない状況に陥った場合の論理基準さえ曖昧としているのでは、と。

 ニュークリアシェアリング、わたしは政治家の矜持を考えさせられた点として昨年、暗殺されました安倍元総理が、ロシア軍ウクライナ侵攻とこれに伴うロシアによる世界への核恫喝に対して、是非は兎も角検討の必要性を示した、ということです。これは反撃能力の整備が、核兵器国であり大量の弾道弾を持つ中国へ反撃の際、避けられぬ視点ともなる。

 核保有国へ通常戦力により攻撃を行った事例はあります、もっとも例に挙げられる1982年フォークランド紛争ではアルゼンチンはイギリスの核による報復の可能性に怖じずフォークランドへ侵攻している、いや1990年湾岸戦争では核保有国とされるイスラエルに対してイラクが弾道弾を発射しています、当然イスラエルの核報復が有り得たにもかかわらず。

 しかし、これが余り参考にならないのは云うまでもありません、フォークランド紛争は限定戦争でありアルゼンチン軍が長躯ロンドンまで侵攻する可能性は絶無でした、湾岸戦争の事例ではイラク軍は化学兵器を相当数保有しており、イランイラク戦争ではアフワズミサイル攻撃などで実際に使用、大量破壊兵器同士の抑止力、恐怖の均衡があったのだから。

 反撃能力、相手が戦争の意志を以て日本へ攻撃を行う以上、反撃能力をまったく不要と反論する事は無く、兵器集積所や港湾や爆撃機基地などに何らかの措置を加える必要はあるでしょう。しかし、日本は戦車や戦闘ヘリコプター、輸送機と火砲やロケットシステムに掃海艇など、かなりのリソースを全廃乃至削減し反撃能力を整備する方針を示しています。

 有事の際の反撃能力は、必然的に他に講じる手段がなくなる事を意味するのですから、相当数を飽和攻撃により撃ちこまねばなりません、すると相手が戦術核による反撃を示唆した場合に、これに対応出来る抑止力は何が有るのか、となる。すると将来、ニュークリアシェアリングによる核抑止力というものが求められる状況もでてくるのかもしれません。

 B-61核爆弾、一方でニュークリアシェアリングは今後十年間で大きな意味の変容を遂げる可能性があります、具体的には従来のニュークリアシェアリングは、自国領域内での核兵器使用が前提でした、つまり冷戦時代であれば西ドイツがNATOの作戦体系の中で使用するというもの、若しくは在韓米軍が韓国国内での核地雷を使用する、というようなもの。

 F-35戦闘機の時代、NATOでは一般的なニュークリアシェアリングの手段として用いられる自由落下方式のB-61核爆弾について、トーネード攻撃機やF-16戦闘機での使用が想定された一方、今後一気に増大するF-35戦闘機はステルス性を活かし、冷戦時代にF-117戦闘機のような機体でなければ到達できなかった地域まで進出できる事を意味するのです。

 戦車と戦闘ヘリコプターを軸とした従来型の専守防衛枠組を再構築し、スタンドオフ兵器のような反撃能力はF-15戦闘機の戦闘爆撃機化や輸送機への搭載と護衛艦や潜水艦からのトマホーク運用に限り、やはり日本は時代遅れと云われても伝統的な専守防衛に固執すべきではないか、しかしそれ以外ならば政治家は核の議論から逃げるべきではないと思う。

 核兵器の問題はもう一つ、韓国の問題があります。こんな話題は四月一日でなければ論じられないものなのですが、韓国が仮に核兵器開発を進める場合、日本は黙示的に支持するのか賛同するのか、逆にインドやパキスタンの核開発の際のような経済制裁を行うのか。唐突と思われるかもしれませんが、今韓国は北朝鮮からの度を越した圧力下にあります。

 韓国世論では核兵器の必要性を示す回答が年々増えており、ここにはアメリカ軍が1992年に撤退させた核兵器の前方展開やニュークリアシェアリングというものも含まれますし、また一歩進んで韓国が独自に核兵器を開発する必要性への理解と支持も存在しています。これは“すでに核兵器を保有し恫喝に用いる北朝鮮”への一つの覚悟なのかもしれない。

 ソウル近郊に一発核攻撃を受けるだけで韓国の防衛は破たんまではいかないにしても、極めて厳しい状況に陥ります。韓国軍はK-2戦車やK-21装甲戦闘車にK-9自走砲とNBC防護能力の高い装備で高度に機械化されているものの、機甲部隊の核兵器への強みは集合と分散の迅速化であり、軍事境界線から50kmというソウルは展開場所が限られるのです。

 独自の核兵器を保有するならば、北朝鮮が韓国には核攻撃を行わないのかもしれない、こうした相互確証破壊の朝鮮半島版のような視点が生まれる事も理解できるのです。バイデン政権は朝鮮半島へニュークリアシェアリングの可能性を2023年に正式に否定していますが、これは恰も朝鮮戦争前夜、アメリカ軍の韓国軍への重火器供与拒否を思い起こさせる。

 韓国が、他に選択肢があるとすれば亡国、という覚悟で核開発を表明した場合、日本は支持するのか黙認に留めるのか、それとも経済制裁を行うのか。核兵器に関する議論は日本では禁忌とされ続けているだけに、一歩として進みません、ただ逆に、核の議論を忌避したとしても核の脅威は現実であり、北朝鮮の核武装は最早不可逆的となったのが現実だ。

 核攻撃の覚悟、もう一つは日本として、核抑止の概念を具現化する施策について無視し続けるならば、日本の反核運動と反核世論の支持は、何発の核攻撃まで耐えられるのかという視座も必要なのかもしれません。わたしは核保有には反対であり、それは核兵器を保有した場合、核爆発が起った際に何処に反撃するかの早期警戒システムの問題がある故です。

 早期警戒システムを整備しなければ、誤って違う国へ報復攻撃を行った事で次の核戦争を誘発する恐れがあります、しかし全地球規模の早期警戒システムや潜水艦発射弾道弾などへの警戒監視体制には荷が重すぎる、例えば大西洋から潜水艦発射弾道弾が発射された場合の監視体制は、日本には現実的に不可能です。他方で核の脅威が有る事も確かという。

 禁忌とされ続けた核兵器の視点、核シェルター整備という代案がありますので消極的ですが、こうした選択肢によりお茶を濁すのが最適解と考える一方、単なる経済制裁では核保有国の核武装解除は不可能であり、海上封鎖位は必要です、しかしそれさえ非現実的な難しさがあるため、現実と向かうには、核兵器の是非まで遡り向き合う必要を感じるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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