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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】MQ-9後継機計画始動と無人僚機ロイヤルウイングマン,ペトリオットの躍進

2020-12-07 20:01:35 | インポート
■週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は無人航空機全般と地対空ミサイルについての最新情報を。無人機は今後どのように有人機を支援するように運用されてゆくのでしょうか。

 ゼネラルアトミック社はUASステルス型次世代無人航空機システムとして、現在米軍を中心に運用されるMQ-9リーパー無人攻撃機の後継機構想を9月末に発表しました。UASステルス型次世代無人航空機システムは2030年代の実用化を目指しており、機体形状に大胆なステルス性を取り入れた上でMQ-9よりも長時間の滞空時間を付与する構想という。

 国防総省が6月に示した情報要求RFIに応えたUASステルス型次世代無人航空機システムが目指す点は、その名の通りの高度なステルス性の付与で、従来の無人機がドローン、即ち標的機、その名の通り広域防空ミサイルや広域防空艦、また戦闘機等の脅威に対して、非常に大きな脆弱性を有していた点であり、ステルス性により位置の暴露を回避します。

 UASステルス型次世代無人航空機システムは秘匿性を活かしたISR警戒監視能力や偵察能力を有する点は示していますが、9月末の発表においてはMQ-9が任務として有した打撃力の付与については明言されていません。しかし潜在的にMQ-9の武器システムを応用するともされ、アメリカとその友好国は遠くない将来、新しい航空戦術を開拓する事でしょう。
■ロイヤルウイングマン前進
 先日地上誘導路移動試験に進みましたロイヤルウイングマンの話題です。

 オーストラリア空軍向けに開発が進む新世代無人機、無人僚機フライングウイングマン構想についてボーイング社はオーストラリアクイーンズランド州に現地工場建設を開始する方針を示した。これはボーイングオーストラリアのブレンダンネルソン社長が10月に発表したもので、クイーンズランド州のボーイングオーストラリア施設を拡大し建設する。

 クイーンズランド州のボーイングオーストラリア施設ではオーストラリア空軍が運用するF/A-18F戦闘機やE-7A早期警戒機、将来的に導入が見こまれるF-35戦闘機の定期整備施設として機能しており、無人僚機フライングウイングマンが発注の場合にはここで生産する事を示唆している、裏返せばまだオーストラリア政府より発注は無い事も示している。
■MQ-8用コブラ偵察システム
 自衛隊も護衛艦搭載用に導入するMQ-8についてアメリカが開発を進める新しいセンサーの話題です。

 アメリカのアレットアソシエイツ社はMQ-8無人ヘリコプターに搭載するコブラ沿岸偵察システムの開発に冠してアメリカ政府より1800万ドルの追加契約を結びました。コブラ沿岸偵察システムはパッシブマルチスペクトルセンサーであるAN/DVS-1戦術監視装置と連接し沿岸障害物等の情報を収集するもので、1990年代より継続的に実施されているもの。

 コブラ沿岸偵察システムの企図するものは、沿岸部に敷設された水際地雷や機雷原、地雷原や防御陣地等を高解像度マルチスペクトルイメージングデジタル画像装置の情報から分析し、水陸両用作戦に際しての敵防御陣地を偵察部隊による水路進入に匹敵する精度で解明するもので、海軍インディペンデンス級及びフリーダム級沿海域戦闘艦より運用します。
■トルコ軍S-400を増強か
 アメリカとF-35戦闘機を巡る係争の要因となったロシア版ペトリオットの話題です。

 トルコ政府は9月、現在導入を進めているロシア製S-400トリウームフ/SA-21 グラウラー地対空ミサイルシステム、その第二次調達計画について、予算面の二国間折衝を開始したと発表した。第一次契約では25億ドル規模の契約となっているが、第二次契約では初度費用等を省略し、より有利な契約を考えているとされる。S-400は政治問題化している。

 S-400は射程400kmという自由主義圏のペトリオットミサイルをはるかに凌駕する射程を有しており、デジタル改良型のレーダー索敵能力は500km以遠に達するとされている。NATO加盟国であるトルコだが、世俗主義を進めるエルドアン政権はトルコのEU欧州連合加盟申請が国内制度の違いから通らない事を快く思わず、ロシアへの接近を続けている。

 S-400はNATOの防空システムに接続する事が防空情報のロシア側への流失懸念が払拭できず、ここがトルコとNATOの不協和音を奏でている、またS-400配備を理由に防空システムとの接続が情報漏洩に繋がるとの危惧からアメリカ政府はトルコが調達するF-35戦闘機の引き渡しを拒否しており、第二次調達計画が進められる事は溝を深める事と成ろう。
■ルーマニアがペトリオット選定
 ルーマニア軍の次期地対空ミサイル選定について、旧ソ連製装備から西側の装備の方へ大きく舵を切るようです。

 ルーマニアのココラエチュカ国防大臣の発言として、ルーマニア軍次期地対空ミサイル選定はアメリカ製ペトリオットに決定したとのことです、これは9月17日に同国のバルカンインサイト紙が報じたもので、ロシア製地対空ミサイルと中国製地対空ミサイルへの信頼性が低いとして、同じNATO陣営のアメリカ製ミサイルが選定されたとのこと。

 ペトリオットミサイルは2022年より3個射撃中隊所要が順次配備され、現在配備されている旧ソ連製2K12/SA-6ゲインフル地対空ミサイルを置き換える。過去にソ連製SA-2ガイドラインミサイルをアメリカ製ホークに置換えた。ルーマニア軍はNATO加盟後に国防重視政策を執り国防費は2007年6億ドルを2008年に28億ドルへ増額した事でも知られる。
■スイス軍もペトリオット選定
 永世中立国スイス、空軍の運用に規模の制約があるスイス軍は新たにアメリカ製長距離地対空ミサイルを導入するもよう。

 スイス軍が進める戦域防空ミサイル計画について、アメリカ国務省はアメリカ製ペトリオットミサイル5セットの供与を決定した、十月初旬に発表した。スイス軍へ供与されるペトリオットミサイルはMPQ-65レーダー5基とMSQ-132指揮装置5基及びM-903ミサイル発射装置17基、そしてMIN-104Eミサイル本体は70発を有償供与するとのこと。

 ペトリオットミサイル取得には22億ドルが提示されたとされ、スイス軍への配備に際してはアメリカのレイセオン社とロッキードマーティン社が技術支援に当る。供与されるペトリオットシステムの内、少なくとも1基はPAC-3-MSEの運用能力を有しており、これによりスイス軍は短距離弾道弾や准中距離弾道弾に対する有効な迎撃手段をもつこととなる。
■イギリスの対無人機システム
 CIWSを広範に配備するとか、無人機への新しい領域における脅威増大は各国が多く課題に直面している所ではありますが。

 イギリス空軍は9月初旬、評価試験を実施していたORCUS対無人機基地防護システムが初度作戦能力を獲得したと発表しました。これは光学カメラ方式複合監視装置、無線周波数標定装置、ドップラーレーダーシステム、指向性電波妨害装置、及び管制装置より構成され、管制装置以外は全て三脚上に設置され迅速に展開できる点が特徴とされています。

 無人機、特に民生型ドローンによる飛行妨害や航空機精密装置への体当たり攻撃はドローン入手の容易さと安さも加わり、近年無視できない脅威となっており、2018年と2019年にはガトウィック空港とヒースロー空港が所属不明の無人機により飛行航路が妨害され、長時間旅客機が発着できない事態がありました、ORCUSは識別し無力化が可能となります。
■アイアンドームアメリカ到着
 アイアンドームは将来的に新しい戦域防空システムの基本形となり得るのでしょうか。

 イスラエル国防省は同国のラファエル社が9月30日、アメリカへ実証実験用へ有償供与されるアイアンドームミサイル防空システム最初のユニットの納入した、年内に2個目のユニットが納入され射撃統制装置2基と発射装置12基及び指揮統制装置2基とミサイル120発が納入されるが、ミサイル制御のソースコードはイスラエル政府が提供拒否している。

 アイアンドームミサイル防空システムは短射程用であるが、アメリカ国防省は7月に陸軍が運用する弾道ミサイル迎撃用THAADにアイアンドームを連接させ、弾道ミサイル以外への迎撃へ応用する協定をイスラエルアメリカ間で締結している。ただIBCS統合防空指揮統制システムの一体化にはソースコード供与が必須、先ず、ミサイルだけ導入したかたち。
■徘徊式弾薬を無人配送車が輸送
 徘徊式弾薬、目標がどこかに存在するが判明しない場合に発射後の数十分間を滞空して索敵し続ける装備です。

 イスラエルの無人航空機メーカーUビジョンエアー社は10月、新型の自走式無人徘徊弾薬運搬装置を発表しました。これはエストニアの自動運搬車メーカーミルレムロボティクス社と共同開発したもので、目標を探すべく滞空し索敵の後に高付加価値目標へ突入する自爆型無人機としても知られる滞空式弾薬をロボットにより競合地域へ浸透させるもの。

 自走式無人徘徊弾薬運搬装置はTHeMIS宅配用AI人工知能搭載運搬車の技術が応用され、不整地突破可能なゴム履帯型を採用、HERO120徘徊指揮弾薬かHERO400EC徘徊式弾薬を6基搭載し、競合地域まで進出し発進させる。HERO120は滞空時間が120分あり、HE弾頭により自爆攻撃を行います。HERO400ECは滞空時間が短いのですが対戦車用です。

 目標情報の選定には現段階ではAIにより脅威目標を自動選別するのか、伝送した目標情報を元に後方司令部が攻撃の可否を判断するかについては発表されていませんが、概して便利な徘徊式弾薬は戦闘行動半径を大きくすれば一発当たりの単価が上昇し、実戦に使い難いものとしてしまいます。THeMISとHERO120の組み合わせはまさに一石を投じました。
■ヴェトナムMiG-21無人機化
 自衛隊もかつて用途廃止となったF-104を無人機に改造し標的機としていたものですね。

 ヴェトナム空軍では最新戦闘機の導入により用途廃止となったMiG-21戦闘機の一部について無人航空機UAVへの改修を計画している。ヴェトナム空軍は経済発展意図も無いロシアよりSu-27戦闘機やSu-30戦闘機の導入を順調に進めており、既に80機が配備されている。これに伴いヴェトナム戦争時代より現役であったMiG-21戦闘機は現役を引退した。

 S-300地対空ミサイルを導入したヴェトナムは標的機を必要としているが、MiG-21戦闘機について無人機UAVへ改修する計画はアメリカ空軍のQF-16無人標的機の技術を参考にヴェトナム独自技術により実施される見通しであるが、ヴェトナム空軍ではこの無人MIG-21を標的機として用いるだけではなく、無人攻撃機として運用する事も想定している。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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