北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:UH-X次期多用途ヘリコプターを考える⑦ AW-101余裕ある機体規模

2014-05-14 23:50:55 | 先端軍事テクノロジー

◆大型すぎるが海上自衛隊の運用基盤を強化
 UH-X,国内に運用基盤がある航空機を挙げて行く末に出てくる、少々大きいですが、その候補の一つとして挙げたい航空機はAW-101です。非常に大きな機体ですが、その分汎用性が大きい。
  Img_1244 AW-101は海上自衛隊の掃海輸送ヘリコプターMCH-101として10機が導入されると共に局地観測支援用の砕氷艦艦載機としてCH-101が2機取得、更に将来的には3機体制の構築が見込まれています。空虚重量10.5t、最大搭載量5.443t、兵員30~35名を輸送可能で、航続距離 1370kmと、極めて大きな飛行能力を有します。また、三発機であるため洋上の安定飛行能力が大きく、島嶼部防衛や国際平和維持活動に際する長距離輸送などにも資すると共に、輸送能力のもう一つの要素として後部にカーゴハッチを有し、小型車両であれば自走搬入は可能です。
Eimg_4416 ただ、AW-101はノックダウン生産方式を採ったため予備部品が常に枯渇している状況など換えあ海上自衛隊の評判は芳しくありません、非常に悪いといっても良いほど。元々三発機として高出力の機体という鳴り物入りで導入されたMH-53掃海ヘリコプターの稼働率が芳しくなかったため、米国製機はこれまでだ、と、欧州機を採用した、これがMCH-101名のですが、稼働率は輪を掛けて、という水準とも伝えられ、これは部隊慣熟度の向上により将来的に補えるのか、補給対英を根本から見直さなければならないかは、現時点で判然としません。
 Hbimg_8000 一方、AW-101は開発国イギリスにおいてはマーリンHC.3として輸送用に配備され、アフガニスタン作戦などで機体の搭載能力の高さやエンジン出力の余裕などから来る高山地帯での飛行性能の比較的高かった点と共に、評価は上々です。興味深いのはイギリスがアメリカより取得したCH-47D輸送ヘリコプターで、6機をかなりの費用とともに取得したものの、通信系統などの不一致から他の機体との整合性が取れず、数年間倉庫に放置した、という事例がありました、CH-47Dは我が国のCH-47JA相当の機体で、この機体はどの部隊でも悪い話は聞きません、すると、直輸入機本来の仕様、ということになるのでしょうか。
Img_1371h  警視庁航空隊も採用していますので、評価が散々、という印象は薄いのですが、逆に低評価の最大の要員が稼働率にあり、この稼働率の低い要員が部品不足にあるとするならば、陸上自衛隊が方面航空隊と一部旅団ヘリコプター隊へAW-101を配備し、そのためのライセンス生産の態勢を国内に構築することが、そのまま運用基盤構築にもつながるわけですから、全体として、大きな問題とはならないかもしれません。ただ、繰り返しますが大型機ですので、例えば配備するにしても方面ヘリコプター隊の二個飛行隊のうち片方のみ充足、というのが限界でしょうか。
Img_2213_1  方面ヘリコプター隊や一部旅団のヘリコプター隊多用途ヘリコプター飛行隊へ比較的大型の多用途ヘリコプターを装備させ、師団飛行隊と旅団飛行隊に方面隊の連絡ヘリコプターは別の比較的小型の多用途ヘリコプターを配備させる、EC-225の提案でも挙げた方式ですが、この手法がAW-101についても仮に導入するのであれば当てはまると考えます。特にAW-101はEC-225と比較しても機体規模が大型で、更にエンジン数では三発機、UH-1Jと単純に比較すれば三倍のエンジンを搭載しているわけですから、これは元々師団飛行隊への配備は考えられないでしょう。
Uimg_0060  川崎重工方式UH-Xが開発に着手し試作機と量産機に実用機が部隊使用認可を受け完成するまでの期間、その繋ぎとして導入する、視点としてはやはりこの視点に特化します。ただ、AW-101は海上自衛隊でCH-101と呼称されているほどですから、UH-Xとしては大型であることも確かです。従って、方面ヘリコプター隊や一部旅団のヘリコプター隊多用途ヘリコプター飛行隊への配備は、一部旅団のヘリコプター隊多用途ヘリコプター飛行隊にはそのまま8機を配備するとして、方面ヘリコプター隊の場合はUH-1J/Hを運用する現在の編成下で第1飛行隊と第2飛行隊へ分かれているうち、一個飛行隊に充当する程度が望ましいと考えます。
Nimg_6228  AW-101は、方面航空隊の一個飛行隊へ8機を導入し、5個方面隊で40機を取得する、とします。この場合、残る一個飛行隊には川崎重工方式UH-Xを配備し、実質ハイローミックスを行う、という形になるでしょうか。それではEC-225の提案と今回のAW-101の提案ですが、何処を評価点とするか、それは川崎重工方式UH-Xの開発期間による、とします。川崎重工方式UH-Xの開発は雁に開始したとして中期防二期程度分を必要とするのであれば、方面航空隊の全てにEC-225を配備するという前提で80機を取得するという選択肢を、そして中期防一期分で完成する技術的目処があるならば、AW-101にて方面航空隊の半分を置き換えればよい。
Nimg_7997 大型すぎるのではないか、という視点はあるかもしれませんが、例えば米海兵隊などでは空中機動の主力はUH-1Yのような機体ではなくCH-46かその後継機であるMV-22により展開されています。また、AW-101はMV-22の開発が長期化した際に暫定機として導入する候補の一つに挙げられた機体で、海兵隊は一時大統領輸送専用ヘリコプターマリーンワンとしてAW-101をVH-101として制式化したほどです。もっとも28機の導入計画はNBC防護性能やEMP対策に防弾改修などで高騰に高騰を重ね、28機が100億ドルを要すると試算されたことから、こちらは流れましたが、ね。
Img_9624  この点で、ノックダウン生産が川崎重工で実施されているという点も含めたうえで、V-107輸送ヘリコプターのように考えられないか、と。V-107は当初計画で陸上自衛隊の空中機動能力強化が考えられた際、陸上自衛隊航空集団案としてその計画が検討されると共に実に600機もの多数の装備計画が立てられ、幸か不幸か石油危機により実現には至りませんでしたが、方面隊隷下の方面航空隊へも一個連隊の人員を空輸できる程度のV-107を装備するという提案は為されていた、と伝えられます。中型ヘリコプターといいますか、多用途ヘリコプターとしては大型とされる機体であっても、装備する検討は過去に在ったわけですので、再度検討されては良いのではないでしょうか。
Iimg_1367  もちろん弊害は無い訳ではありません。米海兵隊の場合、海兵隊の空中機動とは洋上の強襲揚陸艦から陸上の拠点までの空輸に重点が置かれ、求められるのは超低空飛行能力です。反面、陸上自衛隊のヘリコプターは河川上や路上に地皺等に沿って見通し線下を飛ぶ匍匐飛行が求められているため、大型になればなるほど、匍匐飛行を展開できる経路への限界が大きくなりどうしても高度を取らなければならなくなりますし、LZ,つまり着陸地点もヘリコプターが大型であれば相応に開けた地形、機体と共に展開する人員も多くなるので機体規模以上に地形制約が加わります。
Afimg_2875  すると、川崎重工方式UH-Xとハイローミックスし、匍匐飛行などの状況下では川崎重工方式UH-Xが人員輸送を展開しAW-101は車両や重装備輸送を展開する、その他の場合や管理輸送などの場合においてはAW-101は優れた空輸能力を展開する、というものとなるでしょうか。他方で、空輸能力全般は特に搭載量の面で優れている機体ですので、選択肢としてはそこまで突飛なものではありませんし、海上自衛隊でも運用されている機体であるため、その運用基盤を構築し稼動率を高く維持させるという意味を含め、選択肢の一つとして考えられるでしょう。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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8 コメント

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以前の記事でも指摘させていただきましたが、UH-X... (PAN)
2014-05-15 01:29:05
以前の記事でも指摘させていただきましたが、UH-Xに求められたサイズや性能には、それなりに意味があります。そこを無視して、なぜ大型輸送ヘリをUH-X候補とするのか、理解に苦しみます。
ご自身が記事の中で書かれている大型ゆえの弊害は、決定的なものでしょう。貴殿の論法が成り立つなら、CH-47JAを増やしてもいいわけですが、現実にはそうはならないでしょう?
大型輸送ヘリがなぜUH-1の任務を引き継げないのか、そちらの視点から再考されてはいかがでしょうか?

また、CH-101の価格で、いったい何機を揃えることが可能だとお思いでしょうか?能力が3倍だから値段も3倍、数は1/3でかまわない、というのであれば、もうお話になりません。
少なくとも陸自は必要数を揃えることを第1と考えています。だからこそ、国産案ではなく、適正価格で調達できる既存機の輸入/ラ国案が浮上してきたのではないでしょうか?


UH-Xは、UH-1Hの除籍が進む中で多用途ヘリコプター... (はるな)
2014-05-15 12:50:45
UH-Xは、UH-1Hの除籍が進む中で多用途ヘリコプター調達数を維持する上でその選定よりも調達開始と配備開始が切迫している問題です

機種としては理想的な機体が多々あるのは事実ですが、既に自衛隊で運用されており、且つ増備が可能な選択肢、としてEC-225に続いてAW-101を提示しました

UH-60JA増備の選択肢の一つ、EC-225も選択肢の一つ、NH-90も選択肢の一つ、AW-101も選択肢の一つ、一応結論ではなく“⑦”という数字の通り連続掲載しているものですので、選択肢を提示しているだけのもの

大きすぎる、とのご指摘ですが、それは当方も幾度も本文中で触れている内容で、大きすぎるが、選定し決定し取り急ぎ多用途ヘリコプターの数を維持する上では、こうした選択肢もある、と提示しつつ、あくまで本命のUH-Xの開発までの繋ぎ、という本分の内容を踏まえて再読していただければ幸い

高すぎる、という指摘ですが、海上自衛隊のCH-101納入費用は生産初期の体制で最も高騰している時期のUH-60JAと同程度に抑えられていますので、UH-60JAの増勢よりは選択肢として挙げられるかもしれません、が、UH-60JAの価格高騰は少量長期生産とUH-60J生産終了後のJA型生産維持の反動ですので、一概に言えない事も確かです

AW-101、これは、ないだろ、と思われること必至でしたが、一応国内の運用基盤を考えますと、もう一つ手元に相応にMCH-101の写真がありましたので副次的な要素ではありますが、“UH-X次期多用途ヘリコプターを考える”、というテーマ上、あつかったわけです

次回はCH-53やMV-22とMi-26等、さすがに提案しませんが、数回に分け、数機種掲載します、結論の回は別に掲載しますので、それまで、一つ一つ御面倒でも反論やご意見など頂ければ、と思います
はるな様 (PAN)
2014-05-15 18:35:29
はるな様

AW-101はないだろと思いつつ、すでに運用実績のある機体なので机上にあげたとのこと、ならば頭から否定するものではありません。

ただMCH-101は海自の輸送/掃海大型ヘリとして採用されていますが、果たして機種選定が正しかったのか、今となっては疑問の残る機体ですね。個人的には現在導入されている機体は掃海用として残し、急務の輸送ヘリについては、運用ノウハウもあるCH-47JAにローター折りたたみ機能を付加するなどしてもいいのではと思います。
もっとも汎用護衛艦に降りられないというデメリットもありますが。

さて話を戻してUH-Xですが、予算の問題さえなければ以前にご提案していたUH-60Kがいいのでしょうが、いかんせんお値段高すぎで数が揃えられません。
すでに川崎重工は、純国産案を見送り、エアバスヘリコプターと組んでBK117/EC145ベースに4.5tクラスに改良した機体を提案するようだとの話もあります。
また他に候補になりそうなのはベル412、AW169、シコルスキーS76あたりだとのことです。

ぜひこのあたりの機種についても、このシリーズで考察してみてください。
はるなさま (ドナルド)
2014-05-16 00:11:46
はるなさま

1:AW139はやや大型の案として、やや小型案のBK117改と並んで、最有力だと思うのですが、いかがでしょうか?

2:やや大型と言えば、S-92も駆動系がUH-60のそれの発展系なので、メンテナンスの観点から有力では?(私は好きな機体ではないですが)

3:さらに言えば、UH-1Jの更なる魔改造もあり得るかと。AH-1Sも改造できるし(個人的にはお勧めしませんが、川重UH-Xの再開よりは良いかと)

私はUH-Xそのものに懐疑的です。5t級のヘリを主力輸送ヘリとして使っている国は、世界中どこにもないからです。これまでは、UH-1Jが(航続力さえ我慢すれば)極めてコストパフォーマンスがよいので、成り立ってきた話だと理解しています。

#ただし、"新"川重UH-Xが(一部で噂のある)BK117ベースの改良型だとすると、魅力的なので、心が揺れます(笑)。

輸送ヘリにするなら、AW139規模(6.4t)は最低限必要でしょう。例えばUH-1J(4.8t) x16 を AW139(6.4t) x8 で置き換えても、長距離での総合的な輸送力"だけ"なら勝ちます。総積載量は2/3強だが巡航速度(おそらく上昇速度なども)が3/2倍なので相殺され、極めつけは、航続力が2倍もある。これであれば、AW139軍用型の価格が、UH-1Jの2倍=24億円であっても、成り立つ話になります(AW139の民間型は15-6億円のようです)。

一方で、機体数が大事なら、LUHに移行すべきです。5tは(コスト的に)過剰で、3.5-4tで輸送力は十分で、安価なので数も稼げます。要はBK117そのもので良い(評判もよい準国産機ですし)。


PANさま。「陸自は必要数を揃えることを第1と考えています」とのことですが、それは軽輸送や救難などのLUH用途のためでしょうか?輸送力が目的であれば、なぜ日本だけが5t級の機体に"こだわる"のか分からないので。。。
PAN 様 (はるな)
2014-05-16 00:49:30
PAN 様

>他に候補になりそうなのは

ワクワク感を演出するために、敢えて機種名を曖昧にしていたのに・・・(苦笑)

ベル412かAW169、AS-365とUH72拡大型、他にあんな例やこんな例を掲載準備中です
ドナルド 様 (はるな)
2014-05-16 00:50:45
ドナルド 様

>私は好きな機体ではないですが

熱く語りたいのですが、写真が殆どありません(泣)

木更津でみた事しかないですし・・・

>さらに言えば

延命の検討は行って然るべきと思いますし、富士重工にゴメンナサイする案も検討するべきか、とも
>はるな様 (PAN)
2014-05-16 06:59:01
>はるな様
>敢えて機種名を曖昧にしていたのに・・・(苦笑)

これは失礼しました。当該記事、楽しみにしています。

>ドナルド様
>なぜ日本だけが5t級の機体に"こだわる"のか分からないので。。。

5tクラスってのは、国産での開発を進めるために捻り出した要求と言われてますね。特にラコタを買わずにすむ言い訳として設定した数値だとも。
その側面も否定できませんが、一方で元々はUH-60JAで揃えるつもりであったわけです。
そういう意味では、確かにラコタクラスでは若干不足しているかと。特にキャビンスペースのサイズはもうちょっと欲しいところでしょう。

今回の既存品導入へ方針を転換するにあたり、要求性能を若干下げたようですね。
僕も個人的には、BK117ベースの改良型に機体しています。この機体が良好で選定された場合は、川重の半国産のような扱いになりそうですし。あとはこれがどれくらいのお値段になるかしだいですね。

初めて投稿するものです。 (軍事素人)
2014-05-17 17:07:16
初めて投稿するものです。
冒頭で、[AW-101はノックダウン生産方式を採ったため予備部品が常に枯渇している状況など換えあ海上自衛隊の評判は芳しくありません、非常に悪いといっても良いほど。]とはるな様は記述されています。
しかし私が読んだ菊池雅之氏の本では、初号機は完成品輸入、2号機はノックダウン生産、3号機以降はライセンス生産になると記述されていました。
調達方法が変更になったいていたのなら私の勉強不足で申し訳ありません。しかしライセンス生産であれば、少なくとも、稼働率はMH-53Eより、向上するのでは?と私は考えます。

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