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榛名防衛備忘録:第一機械化大隊と普通科連隊、機械化大隊を基幹の師団と旅団を考える

2013-11-12 23:33:40 | 防衛・安全保障

◆戦車と普通科部隊の関係
 第一機械化大隊、大隊本部、第一普通科中隊、第二普通科中隊、戦車中隊、非常にコンパクトな編成の部隊ですが、打撃力と機動力の面で理想な部隊である、という事を前回紹介しました。
Fimg_6347 ここで思い出すのはこのコンパクトで小回りの利く部隊を基幹編成として師団を創設できないか、という事です。もともと陸上自衛隊は師団制度を導入する前に米軍の歩兵師団を軽装備化した編成の管区隊を地域防衛の主力としていましたが、その後の部隊愛編で誕生したのが小型師団を基幹とするもので、陸上自衛隊の普通科中隊を基幹とした小規模な人員を以て編成される普通科連隊、これを基幹部隊としたのが現在の元となった師団編制です。師団の人員数は少ないままですので、それならば機械化大隊を配備して機動力と打撃力を確保できないか、と。
Img_4407 ペントミック師団、陸上自衛隊の師団のモデルはこれです。ペントミック師団は米軍が1950年代に核戦争時代を想定し、部隊を小型化し集合分散を迅速化した際の名称ですが、陸上自衛隊が1962年に従来の管区隊編成から師団編制を導入し、戦略単位である管区隊が数の面で師団数へ大きく増強された際、併せて管区隊時代は戦車中隊を含め10個以上の中隊が所属していたものを普通科連隊へ改編、連隊の人員規模を限りなく縮小し、現在の編成とした際、米軍のペントミック師団のように部隊単位を小型化し、小回りを採った、と説明されたものがあります。
Mimg_6455 このペントミック師団の中枢要素は、一個師団を歩兵中隊基幹の五個歩兵連隊,大隊規模と揶揄される連隊を基幹として、更にM-113装甲車などで高度に機械化することで、従来の歩兵大隊を基本とする歩兵連隊を基幹としていた歩兵師団と同等の広範囲に五個連隊が展開した場合でも集合を迅速に行える、というものでした。結局、大隊を欠く編制は連隊長が把握しなければならない中隊の数が多くなりすぎ、師団の下に旅団を置いて、その下に大隊を置く、というROAD編制に取って代られることとなりましたが。
Simg_2185 陸上自衛隊がペントミック師団編制を採るには、まず、装甲車が根本的に足りませんでした。60式装甲車を導入する予算は陸王自衛隊が数百機規模で導入することを計画したV-107輸送ヘリコプターやホーク地対空ミサイルの整備費用に持って行かれ、結局、集合分散の迅速化ではなく、少ない予算と人員で必要な師団数を確保するために採った苦肉の策ではないか、とも思えてくるのですけれども。そしてペントミックのペンは五角形を示すpentagonの意味で、五個連隊を創設する必要があり、この時点で自衛隊の編成は無理がありました。
Img_3395 しかし今日に、機械化大隊という編制を見たうえで考えますと、一個師団を五個機械化大隊で充足させ、戦車と装甲車により迅速に集合と分散を行う方式を採ってみてはどうか、という考えも一瞬浮かびました。五個機械化大隊を基幹編成とするペントミック師団の概念で、ペントミックのトミックはatomicのトミックを加えた造語ですので、核戦争時代に集合と分散を迅速化する目的として、名称ほど核戦争の脅威が無い時代ではありますが、機動力が求められている時代ではあります。部隊は小型であれば、緊急展開に際し空輸するにも海上輸送にも都合がいい。
Simg_1342 ところが、この論理には大きな問題がありました。それは機械化大隊は所詮、大隊であり連隊の代わりとはならない最大の理由として、本部管理中隊を欠いているところにあります。旅団普通科連隊が普通科大隊ではない理由はこの本部管理中隊にあります。本部管理中隊は偵察に当たる情報小隊、上級部隊と連隊をつなぐ通信小隊、隷下部隊の負傷者搬送に当たる衛生小隊、陣地構築などを一定規模で行う施設作業小隊、そして車両と装備の整備や維持を行う補給小隊があり、これらを欠いては単なる中隊の寄せ集め、部隊の独自能力を発揮できません。
Fimg_5457 本部管理中隊の位置づけは重要で、施設作業任務や通信機能など、文字通り独立して部隊行動を行うのか他の部隊の一部となするの加賀さ輸される部隊機能の根幹を伝えるものとなっていまして、例えば対馬警備隊が隷下に一個中隊を持つのみで一方面の警備任務に当たれるのは本部管理中隊を有しているためですし、第5戦車大隊などは一時期戦車中隊数を削減しつつも戦車隊へ増強されたのは本部管理中隊を大隊本部から拡充させることで小振りであっても部隊としての運用能力を整備したからでした。
Cimg_79670 連隊という編制には連隊の意味がある。こう考えますと、本部管理中隊を置き普通科連隊とした上で、増強型情報小隊という位置づけで軽装甲機動車の中隊を置き、その分本部管理中隊の重迫撃砲小隊を二個小隊編成とし、ここに機械化大隊を置く編制として、本部管理中隊、軽装甲中隊、機械化大隊、という編制を師団連隊の編成としてはどうか、という考えはあり得るかもしれません。まあ、気合化大隊だけで独立運用するのか、連隊編成を採るのかは、運用上の、特に戦闘団を編成するのか否かに関わる問題になってくるのですが。
Yimg_7529 大隊基幹の連隊を目指し、本部管理中隊に軽装甲中隊と二個機械化大隊、無理はあるかもしれませんが、こうした方策もありえるかもしれない、とも考えました。部隊を二分化する意図は、と問われそうですが、即応性を考えた場合、一定の意味はあるように考えるところ。有事の際には軽装甲中隊が迅速に展開し情報収集と共に軽機関銃や軽対戦車誘導弾による防御戦闘を展開、軽いため輸送機での多方面への応援にも対応し、機械化大隊は従来普通科連隊よりも車両数の面で軽装備であり輸送艦での広域展開も可能となる。
Eimg_4530 軽装甲機動車の中隊を追加したのは、本部管理中隊と機械化大隊という編制に加えて、一個小銃班を二両に分乗させ、火力拠点を分散化させるという軽装甲機動車の運用形態が、即応体制を維持する場合、即座に動かす事の出来る車両数が多くなるという利点があり、災害派遣や着上陸等状況を問わず出動する際には、装甲車よりも小回りが利くスカウトカーとしての情報収集が可能です。目標に会敵する不意遭遇に際しても最小限の防御力と対戦車ミサイルや機銃により一定以下の水準の目標ならば撃破できるため、情報小隊を強化したような運用が可能、ということ。
Himg_0855 部隊は装備する装甲車両の能力を最大限活用します。機械化大隊の前進に先んじて軽装甲中隊が機動力を活かして前進し、情報収集を行う、軽装甲機動車の小回りと部隊の分散運用の能力を最大限生かし、抵抗線に遭遇した際には迂回路を模索、敵主力と遭遇した際には機械化大隊の展開まで目標の攻撃を回避しつつ待機し、機械化大隊の展開と共に軽装甲中隊は携帯対戦車誘導弾の機動運用による対装甲戦闘を展開する、もしくはさらに後方へ迂回し、敵の補給路を遮断する、というものが考えられるでしょう。
Img_0339 この編成は戦略展開能力の高さも特色の一つとして提示できます。軽装甲機動車の機動力と分散運用による即応部隊の立ち上がりの早さはもちろんですが、基盤的防衛力化、動的防衛力か、という議論ではありませんが、これは協同転地演習や災害派遣において、重要となる要素で、加えて、一個大隊の機動展開を念頭とする海上輸送力の常備と即応体制の維持、一個中隊の空輸能力の即応体制維持を、統合運用に際し、防衛省自衛隊の方針として明確に求めることが出来ます。現状の編成では各普通科連隊に微妙な編成の相違があり、これが少々複雑でした。
Img_2662 空輸展開の場合は軽装甲中隊は、火消し部隊というべき空中機動部隊と任務をかなりの部分で連動できます、それは即応性の高さに他なりません。軽装甲機動車だけであればC-2輸送機の貨物室は16×4×4mなので同時に3両と乗員を空輸可能、軽装甲機動車は全長4.4mと全幅2.02mですので両脇には左右共に1m近い空間余剰を確保でき延べ7機のC-2輸送機により一個中隊21両を輸送できます。もちろん、本部車両などで1t半トラックや3t半トラックがありますので、この限りではないのですが、空輸展開に強い。
Gimg_8616 洋上展開の場合、機械化大隊は輸送艦おおすみ型の場合、戦車14両を艦内格納庫に収容可能、装甲車はエレベータにより上甲板に搭載可能ですので、28両の装甲車を上甲板に置くことは少々厳しそうですが、搭載するLCACの甲板上も利用すれば、LCACは米海兵隊がLAV-25を同時に四両を同時輸送していますので、ここまで配置すれば、身動きは採りにくいですが、一隻で一個大隊、可能かもしれません。一応、輸送艦をもう一隻手配して、補給車両など後続の車両を揚陸させなければ海岸線を揚陸部隊は出れませんが。
Mimg_4413 このように、機械化大隊は海上輸送能力ての適合性が高く、軽装甲中隊は空輸展開能力が高いため、有事の際に統合任務部隊が編成される際には、第一線師団へ他方面区の機械化大隊が陸路か海路で展開し、軽装甲部隊が空輸展開により迅速に第一線隣接地域へ展開できます。普通科連隊をそのまま展開するよりは、戦略展開能力が高いといえるでしょう。何よりも必要な地域に必要部隊なだけの部隊が輸送艦と輸送機で即座に展開するのですから我が国へ領土的野心を抱く勢力には物凄い脅威となります。
Img_3760 そしてもう一つ、この方式の採用は戦術基幹単位の増加が利点として挙げられます。一個師団は五個小型連隊か、三個普通科連隊六個機械化大隊基幹、一個旅団は三個大隊基幹を提示していますので、師団の戦略単位としての任務を遂行する上で必要な作戦を展開するという重厚さは維持されますが、戦術基幹単位は大隊の数が多くなり、中隊の独立蘊奥が可能となることで作戦単位が単純計算で特に師団で多くなりますので、例えば島嶼部防衛などで離島に部隊を展開させる場合、多くの島々へ配置できる、ということ。
Img_1476 二つの機械化大隊を隷下に置く師団普通科連隊編成とした案を採用した際には、協同転地による増援派遣を求められた際には一個大隊を展開させ、残る一個大隊により管区内の警戒を高めることが出来、派遣を受けた連隊管区では即座に大隊を編入し、三単位編成として三個機械化大隊を機動運用させることが出来ますし、増援を受ける前の即応体制であっても二個機械化大隊に軽装甲中隊で相当歪ながら三単位運用は不可能ではありません。可能ならば三個大隊慰安を望むのですが、それでは流石に連隊の規模が大きくなり過ぎてしまいます。
Img_2865 もっとも、大隊編制を置いてしまってはペントミック師団編制の重要な部分である連隊の下に中隊が置かれる、という重要な部分の意味が無くなってしまっているので、米軍の半世紀近く導入して失敗した編成をそのまま応用する無理さ加減を痛感すると共に、単に五単位編成という部分だけを採用しただけで、結局ペントミック師団編制というものと、ここで提示されているものは、五単位の部隊をこの記事に手k号するように都合よく代入した結果の片手落ちではないか、と批判されるかもしれませんが、これは、まあ、その、ね。
Jimg_2564 一個大隊基幹の連隊により五単位師団を編成する場合には、師団管区を甲師団に準じた四管区に分け、一個連隊を師団直轄として留置しておけば、他管区への協同転地が必要となった際には、師団管区の警戒態勢を強めつつ、即座に一個連隊を派出可能です。そして更に増派を求められた際には、方面混成団の即応予備自衛官に召集を掛け、師団管区の留守部隊としたうえで、師団規模の展開を行うことが可能となります。部隊を駐屯させる基盤的防衛力か、機動運用を念頭とする動的防衛力か、という議論もありますが、この中間を担うのはこうした編成、と考えるところ。と、まあここまで書いたところで、もう少し本文は続きます。

北大路機関:はるな

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はるなさま (ドナルド)
2013-11-13 01:25:18
はるなさま

機械化混成大隊は結構好きなので、コメントさせてください。(しかし、以下を読んで見ると、かなり批判的になってしまっていて申し訳ありません。。。)

> 一個師団を五個機械化大隊で充足

これは普通は「(大型の)旅団」と呼ばれる部隊です。(他国なら軍団を指揮する)中将指揮の師団が、4000名規模だなんてあり得ません。「恥ずかしい」です(気分の問題で済みませんが)。

> 本部管理中隊、軽装甲中隊、機械化大隊、という編制を師団連隊の編成としてはどうか

私なら、「普通に」「本部管理中隊+軽装甲偵察中隊+機械化大隊2~3個」で、連隊とします。なぜ規模を小さくするのでしょうか?即応性を考えても、若い少佐や中佐が、中隊/大隊戦闘群を率いて、ばりばり動き回れば良いだけかと。。「戦闘団を編成」と、連隊vs大隊は、本来関係ないものです。諸外国では、大隊基幹のCombat Teamを普通に編成して戦っています。自衛隊の士官だけが、他国と比べて著しく無能とは思えません。

海上輸送等の機動展開に関しても、現状の輸送力から考えて、機械化「大隊」が輸送単位としてよいのは良いとして、普通科大隊 or 連隊とあわせて輸送すれば良いだけです。「必要な地域に必要部隊なだけの部隊が輸送艦と輸送機で即座に展開する」ことは良いと思いますが、それと、おっしゃる機械化「連隊」編成とあまり関係がないように思います。

「大隊規模の連隊」5個で「師団」を編成する、というくだりが、私には理解できません。なぜこれを旅団と呼ばないのですか?師団と旅団で、兵站や情報力などに差があるとされますが、その差を埋めれば良いだけ。つまり、はるなさんのいう「大隊規模の連隊」を2佐に指揮させて「大隊」と呼び、「師団」を将補に指揮させて「旅団」と呼べば、世界的に見てごく普通の編成であり、全く問題ないかと。。。

「連隊」「師団」「大佐」「中将」という「名称」を大安売りし、人件費が増える上に高齢化して体力や攻撃的な精神に欠ける前線指揮官だらけになる。損ばかりで益が全くないと思います。

戦車定数の削減が現実味を帯び(個人的にはそこそこ納得しています)、「少人数重装備の混成機械化大隊700名ほどで、師団普通科連隊1100名を代替する」という話はなさそうですが、混成機械化部隊を常設しておくことの戦術的な価値は高いと思います。

一方で、旅団規模の部隊を「師団」、あるいは大隊を「連隊」と言って誤摩化したりする「幹部ポストを守る官僚主義」が、今後の陸自再編成の議論でまた出てくるかもしれないので、敢えてコメントさせていただきました。
大変個人的考えですがモジューラーフォースのよう... (Unknown)
2013-11-13 21:22:04
大変個人的考えですがモジューラーフォースのように3000~4000の旅団ですべて統一してしまうなど根本から変えてしまった方がいいと思ってます。
正直ペントミックはいいものだと思いますが、改革せずにいまだに冷戦時代の構成のままなのがまずいのではないかと。

専門的な知見はないですが冷戦も終結し、残存性と取り回しの良いペントミックの小型師団でも、今の時代に必要とされる臨機応変さにはついていけないのではないかと。
またその編成についても歩兵旅団、機械化歩兵旅団、機甲旅団と部隊の専門性を上げて数旅団で同じ一定範囲をカバーまたは師団を構成するような編成にしてほしいなと考えています。
これは冷戦終結で本土決戦がほとんど考えられなくなったことで、海外に展開させることに適した部隊編成の方が利点が多いて思うからです。
均一に部隊を置いて粘る戦術はあまり意味をなさないうえ、海外展開ではペントミックだと連隊構成なので兵力の抽出は簡単ですが、大部隊となると支障を来さざる負えないと思います。

フランスの場合はあまりわかりませんが国土的にペントミックでもいいと思うし、海外展開でもペントミックと連隊の性質をうまく使い分けていると思います。
なにより時代に合わせて改革しているということもあり最適化した上でペントミックを維持しているのですから納得です。

まあ、素人の考察ですが。

はるなさんの案ですがそっちの方向に持っていくことも自然だと思います。
でもそれってドナルドさんの言うようにれっきとした旅団であって師団ではないと思います。
名称は別に大した問題じゃないと思いますが、戦力やモノの見方として見誤ったらまずいかなーと思います。

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