北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱検討開始へ 基幹防衛力の再検討と緊縮財政の両立

2009-01-02 23:39:10 | 防衛・安全保障

■新防衛大綱へ進路をとれ!

 間もなく新しい防衛大綱に関する検討が有識者を交えて政府部内において開始される。今回はこの問題について考えてみたい。

Sdfimg_2853  新しい防衛大綱では、潜水艦脅威の拡散や島嶼部防衛の観点からの対潜能力の強化や領空警備の観点からの要撃機勢力の再検討や弾道弾迎撃のための情報収集衛星や早期警戒衛星の配備などが計画されているとも聞く。具体的には冷戦後大きく縮減された自衛隊正面装備のうち、護衛艦と戦闘機の勢力について再検討すると考えられている。

Sdfimg_9487  しかしながら、要撃機については、その基幹となるべきF-4後継機である次期戦闘機F-Xの選定が思うように進まず、結果的に戦闘機の部隊数と抑止力の算定が曖昧なものとなってしまう。稼働率の観点からF-22は要撃機として用いるF-Xには適しておらず、これを諦めるのか、それとも稼働率や調達価格を度外視して選定するかが未定の今日、大綱の改訂は時期尚早なようにも思う。

Sdfimg_7142  護衛艦定数の上方修正を介しての対潜能力の向上については、護衛艦の数よりも、現状の満載排水量6000㌧を超える“たかなみ”型と、それに続く満載排水量では7000㌧近い次期汎用護衛艦の建造計画など、大型と高性能、多機能化を目指し兼て建造費の増大を続ける護衛艦を建造するのか、満載排水量で5000㌧前後の護衛艦として建造費の抑制を目指すかも重ねて検討するべき課題だろう。

Sdfimg_0028  他方で、忘れてはならないのは、弾道ミサイル防衛だ。新しい装備体系ということで調達すれば終了というわけではなく、整備・改修・更新という循環とそれにともなう費用負担が必要となる。もちろん、核兵器による威圧に対して防御力を限定的といえども有することは、非核という国是と国際関係における選択肢を増やすこととなるのだが、その分の費用は莫大だ。現在の射程が20km未満のペトリオットPAC-3と、イージス艦の長射程のスタンダードSM-3では機能としては不完全であり、将来的には地上発射方式で射程が大きいTHAADのような装備も必要となるかもしれず、その際にも費用が必要となる。

Sdfimg_6861  もうひとつ、それは米軍再編に伴う費用の日本負担部分である。そもそも、米軍再編はグローバルな視点で見れば、米本土以外の拠点を集約し、少数の戦略拠点に再編、それ以外は米本土に駐留させ、装備体系を機動性の高いものと改めることでポテンシャルを維持させるものであるのだが、日本は基地機能集約の交渉では後手に回ったようで、横田、横須賀、嘉手納程度に集約させるべき機能は散開したまま、加えてグアムへの移駐費用なども日本が負担するなど不利なものとなっているが、この負担は防衛費にのしかかる。

Sdfimg_0161_1  護衛艦、戦闘機に加えてもともとあった弾道ミサイル防衛と米軍再編に伴う費用負担、必要な費用は増大するのだが、防衛費は経済情勢に鑑みれば抑制される傾向にあろう。すると、費用の捻出は、陸上自衛隊への削減要求、具体的には師団の旅団縮小や戦車、火砲の縮減を求める論調が出てくる可能性が高い。事実、弾道ミサイル防衛への費用は先の防衛大綱改訂では戦車、火砲数の縮減により担われた。

Sdfimg_4299  ただし、考えなければならないのは、部隊数を削減した場合、これは直接武力侵攻から災害派遣まで言えることであるが、機動力の向上により部隊の集合離散を迅速化し、機械化により火力行使能力の向上と生存性を高める必要性が出てくるため、単に減らせば費用を縮減できるかといえば、その保障はないことを忘れてはならない。

Sdfimg_8598  もうひとつ付け加えるならば、戦車や火砲の縮減には限界があるということである。現在の定数は戦車600、火砲600.これをさらに削減すれば量産と開発のコストを含めた装備品単価が上昇し、定数は大きく削減したものの調達数の削減は僅かにしか影響しないということもあり得る。かつての戦車900と火砲900に戻すということも考えた上で検討するべき命題であり、慎重なコスト計算が求められる。

Sdfimg_8991_1  例えば、護衛艦や装甲車両の長寿命化を念頭に置いた設計や、近代化改修を練り込むことによる国内生産基盤のライン維持、基幹防衛力の優先度の明示、などを組み込み、計算する必要がでてくる。これも単純なコスト見積もりではなく、防衛以外の視点も盛り込み、検討してゆく必要がある。

Sdfimg_9598  他方で、視点を変えれば、防衛大綱は基幹部隊数や装備品の定数を明示しているだけであり、装備品の質や稼働率などは盛り込まれていない。これとは別に、防衛大綱は政策面での概括的な方針を示すにとどめ、中期防衛力整備計画に装備品や基幹部隊数の明示を行うという方法で代え、柔軟に防衛力を必要水準に整備する、という方策もありえるのではないだろうか。

HARUNA

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