■第三次大戦回避へ国連の責務
21世紀初めて招集されたESS国連総会緊急会合にて141か国賛成35か国棄権5か国反対という圧倒的多数でロシア非難決議が採択されました。

ウクライナへのロシア軍侵攻、安保理決議はロシア拒否権で行使できず、ESSが招集された。今回のESSは今世紀では初めて召集されたESSであることに意味があります。何故ならば前回第10回国連総会特別会合は決議にいたらず、その前の第9回国連総会特別会合では、授権決議という概念がまだ無かった為です。この概念は、安保理決議678号が有名だ。

授権決議、安保理決議678号、湾岸戦争を国際法上正当化する際に用いられたもので、安全保障理事会はイラク軍のクウェート侵攻という国際の平和と安全への緊急事態に対し中東諸国や欧米諸国の有志連合に対して、必要なあらゆる措置を行使する権限を授与するというもので、安保理決議に権限の授与をしめす授権決議という概念が誕生した瞬間でした。
■今次ESS決議と安保理決議678号の再解釈
湾岸戦争で初めて示された国連から加盟国への“授権”という概念について。

多国籍軍編成へ。実はこの安保理決議に際して、当時のソビエト連邦ゴルバチョフ大統領は国連軍の編成を提案しています、授権決議ではなく第二次国連軍を編成し、国連の正当性を付与するというものでした。いうまでもなく第一次国連軍とは朝鮮戦争を契機に編成された史上初の国連軍、朝鮮国連軍です。ただ、このソ連の提案は意外な暗礁に乗ります。

軍事参謀委員会。ゴルバチョフ大統領の提唱は、ブッシュ大統領の反論により頓挫します、それは国連憲章七章47条に明記された国連軍事参謀委員会の問題です。MSC国連軍事参謀委員会は国連軍の指揮にあたるのですが、作戦立案では朝鮮国連軍以来一度も召集されておらず、危急存亡というイラクのクウェート侵攻に国連の指揮系統は成り立つのか、と。

ESSに視点を戻します。そもそもESSとは、国連総会の権限に"国際の平和と安全"は含まれず、安全保障理事会の専管事項であることが国連憲章五章に明記されていますが、イギリスとフランスがイスラエルとともにエジプトに侵攻し、イスラエル支援へソ連が核攻撃を示唆したスエズ危機に際して、安保理が拒否権により機能不随に陥ったことが契機です。

スエズ危機。核戦争の一歩手前という危険な状態に際して、ESSは安全保障理事会が召集、拒否権の無い国連総会において国連防護軍派遣が決定し、スエズ危機が核戦争へと拡大する際どい危機を回避させました。そしてPKOという任務の重要性が認識された瞬間でもありました。PKOそのものは第一次中東戦争や翌年の第一次印パ戦争でも編成されました。
■過去のESS決議とスエズ国連防護軍派遣
ESS国連総会緊急特別会合はかつて国連軍が編成出来ない状況でPKOを派遣しました。

PKO,そもそも国連には朝鮮国連軍の例にあるように国連軍を編成することができますが、国連軍は国連決議の履行を国連憲章により明記された執行部隊です。ただ、国連憲章には加盟国の国連支援義務があり、つまり拡大解釈するならば世界中の軍隊を国連指揮下動員できる、極めて高い正当性と正統性を有するために、その編成は高い法的障壁があります。

PKOは、平和執行ではなく、停戦監視という安保理決議ではなくとも総会の権限により派遣できる、停戦監視を国連の名の下で行い、停戦状態が破綻した場合には安保理に改めて国際の平和と安全に関する緊急事態が発生したことを報告するための組織として生まれた制度ですが、スエズ危機では国連軍の代替としての機能も求められることとなりました。

国連の平和執行、国連軍が国連憲章で編成に制限があるために、しかし国際の平和と安全へ責任を持つ国連では、PKOが多用されることとなります。安保理決議は国連憲章により強制力がありますが、これを国連憲章七章措置といい、国連総会決議については国連憲章六章措置であることから、PKOはこの頃6.5章措置とも呼ばれていました。当時は、です。

ESSは国連防護軍をスエズ地区に派遣し、侵攻したイギリスフランスイスラエル軍の撤退を監視することで、ソ連による核攻撃に代える現状復帰を機能させ、世界は1956年に第三次世界大戦の危機を脱したのでした。しかし、この当時の認識ではやはりESSに法的拘束力は認めておらず、また国連防護軍も交戦国の受け入れ合意があってのものという事情が。
■NATOとロシア,KFORコソボ派遣の実例
国連防護軍という視点を示しましたが今回も可能かと云えば一筋縄ではゆきません。

ウクライナ戦争、今回は国連防護軍派遣が必要です、そうしなければ撤収をロシア軍が合意した場合でも、何年も時間をかけ撤収し、その間に占領の既成事実化を行う懸念があるのです。しかし問題は、スエズ危機のようにロシア軍が国連防護軍派遣を受け入れるのかという視点と、現在侵攻しているロシア軍を国連防護軍へ入れる要求の可能性があり得る。

避けなければならないのは現在侵攻しているロシア軍が国連防護軍として、国連の大義名分を借りてウクライナを侵略することです。考えすぎといわあれるかもしれませんが、1998年コソボ紛争に際してはロシア軍が同様の、PKO任務はNATO主体のKFORコソボ治安維持部隊に包括化されている中でNATO指揮下にないロシア軍が進駐した事例があった。

ロシア軍撤退を国連の法的拘束力とともに行わせる必要がある、すると本論原点の、ESS決議は安保理決議と同様の法的拘束力を有するのか、ということです。過去の事例ではESS決議は法的拘束力を保たない、模範解答としてはその通りでしょう。しかし、過去のESS決議では授権決議という概念が無く、安保理決議678号の概念を応用し初めて可能となる。

ESSは国連総会手続き規則にその召集根拠が明示されており、安全保障理事会が召集手続きを行うこととなっています。この召集手続きは安保理決議ではないため、常任理事国は拒否権を行使できず純粋な多数決により議決を行います。問題はここで授権決議が成り立つのか、ということです。成り立つならば、ESSが安保理の機能を代替することになる。
■これは安保理決議を代行する決議か?
ESS国連総会緊急会合決議は招集そのものを安保理の授権決議と理解できるのか。

授権決議なのか。これは安保理が機能不随に陥ったからこそ安保理を代行する決議をESSに授権した、こう理解するならば、通常の総会決議とは異なり総会が採択したESS決議は安保理決議としての意味を為します。もちろんこれは乱用されるならば将来に国連安保理の常任理事国はESS招集で、今までほど拒否権の乱発は行えなくなる諸刃の剣なのですが。

強制力を有する、こう考えるならば国連加盟国であり安全保障常任理事国であるロシアは非難決議とともにウクライナ領域外への退去を行う、国連加盟国としての義務が生じます。また強制力を有する、安保理決議の代替と理解するならば、国連防護軍の派遣によりロシア軍撤退を監視する事も可能となります。こう拡大解釈するかは今後の国連外交に掛かる。

国連防護軍。さて、ロシア非難決議が採択されたわけですが、続く問題は第二次国連防護軍を派遣できるのか、ということとなります。ロシア軍の戦車部隊に立ち向かうのですから、少なくとも各国は戦車大隊規模の部隊を中心に歩兵中隊と砲兵中隊を含む戦闘団単位で派遣させなければ、ロシア軍の反撃に対抗することはできません。派遣国の負担も凄い。

PKO部隊を派遣できないのか、こう反論があるかもしれません。しかし、国連憲章6.5章措置としてPKO部隊が派遣されたのは、過去の話なのですね。PKOは大きく転換しました。UNOSOM-2国連第二次ソマリア任務、1992年にPKOは冷戦後の国際情勢変化を受け停戦監視以上の任務を実施しました。平和維持から平和執行へ、当時のガリ事務総長が。

平和執行、もちろん、PKOがすべて平和的かといえば、国連コンゴ任務ではPKO部隊のコンゴ派遣に現地のカタンガ傭兵団が激しく抵抗し攻撃機まで繰り出してきたため、PKOに派遣されたスウェーデン軍が戦闘機を派遣し、史上初の国連PKO戦闘機部隊が攻撃機を撃退するなど、激しい戦闘がおこなわれた事例はあるも、あくまで任務は停戦監視だ。
■PKO国連平和維持活動の歴史的変容
PKO派遣と一言でいうものですがPKOそのものも幾度も大転換を経てきました。

ガリ事務総長は、1991年湾岸戦争において国連は授権決議という、権限を附託することしかできなかったことで考えを改め、PKOに国連軍並の権限を付与させる施策をとりました、平和維持ではなく平和執行、平和を乱す事案にはPKOが武力鎮圧するとして、戦車までも加盟国に派遣を要請しています。ただ、これは大損害を出して、大失敗に終わります。

UNTAC国連カンボジア任務、PKOはここで再度の大転換を行います、UNTACといえば自衛隊が初めて派遣されたPKO任務ですのでPKOといえばUNTAC、こう思われるかもしれませんが、UNTACからは平和執行でも停戦監視でもなく、国家再建、新しい任務が付与されたのですね。故に日本でPKOといえば施設科部隊や後方支援という印象が強まった。

第三世代PKOと呼ばれた、平和維持は停戦監視に留まらず国家再建をもPKOがふくむ、ノーベル平和賞を受賞したヨハンガルトゥング博士の提唱した人間の安全保障、自己実現が阻害されない社会という概念を、PKOがインフラやシステムを含めた国家再建に関与することで行使しようという、平和執行に換わる国連の平和維持への主導権というもの。

人間の安全保障というものは、現代の"SDGs"概念への原点というもので、第三世代PKOはモザンビークやルワンダなど、冷戦後の混乱と呼ばれた一群の内戦からの復興において、いわば安全保障への国連の関与という面では大きな前進となりました。一方で、それではこのPKOを今回派遣できない理由というものは、その後での深刻な問題があるのです。

UNMISET国連東ティモール支援団、自衛隊も派遣された2002年のPKOですが、このPKO任務から、本来は国連総会が派遣していたPKOを、より平和履行を確実とするために安保理決議を根拠として派遣するようになりました、2002年となれば東西冷戦後でソ連崩壊から10年でロシアがNATOオブザーバー国となっていた時代、拒否権公使もない。

平和履行とは、要するに平和執行ほど厳しい措置ではないが平和維持に安保理決議の強制力を付与した概念といえます。ただ、この方式のPKOを今回、ウクライナに派遣しようとした場合、安保理決議ではやはり、ロシアが拒否権を行使する可能性があるのですね。すると、ESSではロシア非難決議とともに、この決議を根拠として活用する必要が出てくる。
■国連は"国際の平和と安全"へ原点回帰と行動を
国連の現在の機能は限られていますが核戦争の危機を傍観する事もまた義務の放棄です。

核戦争の危機。実際に考えますと国連の役割は非常に大きいのです、それはESSによりPKOを派遣した1956年スエズ危機に匹敵する第三次世界大戦の危機であり、国際の平和と安全を任務とする国連は、今動かなければ単なる世界政治家談笑サロンニューヨークビルに留まってしまいます。しかし、ESSは、21世紀には安保理を代行し得る解釈が立つ。

国家間関係の慣行と履行、国際法とは変容するものであり、これは国家間関係の慣行が履行される事により国際関係に影響を及ぼすものが国際法です、するとESS決議が法的拘束力を持つという、慣行が成立ち履行される事により規範性を持つ、この点で法源は日本における国内法とは概念が異なる理解が必要です。もっともその法源は自然には生まれない。

世界危機。国連は上記の通りESSを転換させる必要があります、何故ならば、現状を放置すれば第三次世界大戦へ発展する可能性が、ベラルーシのウクライナ派兵により高まっています、それはベラルーシ軍がウクライナポーランド国境方面へ派遣され、ポーランド付近に戦闘が拡大する可能性が高く、実際、ベラルーシ軍はウクライナ西部へ集結している。

ロシア軍へのNATO攻撃よりもベラルーシ軍攻撃は障壁が低い。また、ポーランドとベラルーシの国際関係は緊張があり、更にポーランドウクライナ国境からEU欧州連合を含めた軍事援助物資が搬入されており、この地域へ策源地攻撃が行われるならば、ポーランドはNATO加盟国、ロシアとNATOの限定衝突、続く全面衝突、大戦へと繋がりかねません。

国連防護軍派遣、決断する必要があります。何故ならば、時間と共にウクライナでのロシア占領地区が広がるという事よりも、時間と共にロシア軍の損害が拡大していることで、これはロシア陸軍や空挺軍の75%が派遣されている今回のウクライナ侵攻でロシア軍は大損害を受けるという事は、ロシア陸軍と空挺軍が立ち直れない大損害を受ける事と同義だ。

国連は時間が無い、ロシア軍の損耗が大きくなり、そしてウクライナ大都市へのロシア軍包囲や占領地域の拡大が一日一時間ごとに拡大するだけ、ロシア軍撤退は難しくなる、そして停戦監視と兵力引き離しの監視部隊編成にも時間が掛かり、その時間が進む程に第三次世界大戦への危機が迫ります。国連はこのESS決議を無駄にしない、次の行動が求められるのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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21世紀初めて招集されたESS国連総会緊急会合にて141か国賛成35か国棄権5か国反対という圧倒的多数でロシア非難決議が採択されました。

ウクライナへのロシア軍侵攻、安保理決議はロシア拒否権で行使できず、ESSが招集された。今回のESSは今世紀では初めて召集されたESSであることに意味があります。何故ならば前回第10回国連総会特別会合は決議にいたらず、その前の第9回国連総会特別会合では、授権決議という概念がまだ無かった為です。この概念は、安保理決議678号が有名だ。

授権決議、安保理決議678号、湾岸戦争を国際法上正当化する際に用いられたもので、安全保障理事会はイラク軍のクウェート侵攻という国際の平和と安全への緊急事態に対し中東諸国や欧米諸国の有志連合に対して、必要なあらゆる措置を行使する権限を授与するというもので、安保理決議に権限の授与をしめす授権決議という概念が誕生した瞬間でした。
■今次ESS決議と安保理決議678号の再解釈
湾岸戦争で初めて示された国連から加盟国への“授権”という概念について。

多国籍軍編成へ。実はこの安保理決議に際して、当時のソビエト連邦ゴルバチョフ大統領は国連軍の編成を提案しています、授権決議ではなく第二次国連軍を編成し、国連の正当性を付与するというものでした。いうまでもなく第一次国連軍とは朝鮮戦争を契機に編成された史上初の国連軍、朝鮮国連軍です。ただ、このソ連の提案は意外な暗礁に乗ります。

軍事参謀委員会。ゴルバチョフ大統領の提唱は、ブッシュ大統領の反論により頓挫します、それは国連憲章七章47条に明記された国連軍事参謀委員会の問題です。MSC国連軍事参謀委員会は国連軍の指揮にあたるのですが、作戦立案では朝鮮国連軍以来一度も召集されておらず、危急存亡というイラクのクウェート侵攻に国連の指揮系統は成り立つのか、と。

ESSに視点を戻します。そもそもESSとは、国連総会の権限に"国際の平和と安全"は含まれず、安全保障理事会の専管事項であることが国連憲章五章に明記されていますが、イギリスとフランスがイスラエルとともにエジプトに侵攻し、イスラエル支援へソ連が核攻撃を示唆したスエズ危機に際して、安保理が拒否権により機能不随に陥ったことが契機です。

スエズ危機。核戦争の一歩手前という危険な状態に際して、ESSは安全保障理事会が召集、拒否権の無い国連総会において国連防護軍派遣が決定し、スエズ危機が核戦争へと拡大する際どい危機を回避させました。そしてPKOという任務の重要性が認識された瞬間でもありました。PKOそのものは第一次中東戦争や翌年の第一次印パ戦争でも編成されました。
■過去のESS決議とスエズ国連防護軍派遣
ESS国連総会緊急特別会合はかつて国連軍が編成出来ない状況でPKOを派遣しました。

PKO,そもそも国連には朝鮮国連軍の例にあるように国連軍を編成することができますが、国連軍は国連決議の履行を国連憲章により明記された執行部隊です。ただ、国連憲章には加盟国の国連支援義務があり、つまり拡大解釈するならば世界中の軍隊を国連指揮下動員できる、極めて高い正当性と正統性を有するために、その編成は高い法的障壁があります。

PKOは、平和執行ではなく、停戦監視という安保理決議ではなくとも総会の権限により派遣できる、停戦監視を国連の名の下で行い、停戦状態が破綻した場合には安保理に改めて国際の平和と安全に関する緊急事態が発生したことを報告するための組織として生まれた制度ですが、スエズ危機では国連軍の代替としての機能も求められることとなりました。

国連の平和執行、国連軍が国連憲章で編成に制限があるために、しかし国際の平和と安全へ責任を持つ国連では、PKOが多用されることとなります。安保理決議は国連憲章により強制力がありますが、これを国連憲章七章措置といい、国連総会決議については国連憲章六章措置であることから、PKOはこの頃6.5章措置とも呼ばれていました。当時は、です。

ESSは国連防護軍をスエズ地区に派遣し、侵攻したイギリスフランスイスラエル軍の撤退を監視することで、ソ連による核攻撃に代える現状復帰を機能させ、世界は1956年に第三次世界大戦の危機を脱したのでした。しかし、この当時の認識ではやはりESSに法的拘束力は認めておらず、また国連防護軍も交戦国の受け入れ合意があってのものという事情が。
■NATOとロシア,KFORコソボ派遣の実例
国連防護軍という視点を示しましたが今回も可能かと云えば一筋縄ではゆきません。

ウクライナ戦争、今回は国連防護軍派遣が必要です、そうしなければ撤収をロシア軍が合意した場合でも、何年も時間をかけ撤収し、その間に占領の既成事実化を行う懸念があるのです。しかし問題は、スエズ危機のようにロシア軍が国連防護軍派遣を受け入れるのかという視点と、現在侵攻しているロシア軍を国連防護軍へ入れる要求の可能性があり得る。

避けなければならないのは現在侵攻しているロシア軍が国連防護軍として、国連の大義名分を借りてウクライナを侵略することです。考えすぎといわあれるかもしれませんが、1998年コソボ紛争に際してはロシア軍が同様の、PKO任務はNATO主体のKFORコソボ治安維持部隊に包括化されている中でNATO指揮下にないロシア軍が進駐した事例があった。

ロシア軍撤退を国連の法的拘束力とともに行わせる必要がある、すると本論原点の、ESS決議は安保理決議と同様の法的拘束力を有するのか、ということです。過去の事例ではESS決議は法的拘束力を保たない、模範解答としてはその通りでしょう。しかし、過去のESS決議では授権決議という概念が無く、安保理決議678号の概念を応用し初めて可能となる。

ESSは国連総会手続き規則にその召集根拠が明示されており、安全保障理事会が召集手続きを行うこととなっています。この召集手続きは安保理決議ではないため、常任理事国は拒否権を行使できず純粋な多数決により議決を行います。問題はここで授権決議が成り立つのか、ということです。成り立つならば、ESSが安保理の機能を代替することになる。
■これは安保理決議を代行する決議か?
ESS国連総会緊急会合決議は招集そのものを安保理の授権決議と理解できるのか。

授権決議なのか。これは安保理が機能不随に陥ったからこそ安保理を代行する決議をESSに授権した、こう理解するならば、通常の総会決議とは異なり総会が採択したESS決議は安保理決議としての意味を為します。もちろんこれは乱用されるならば将来に国連安保理の常任理事国はESS招集で、今までほど拒否権の乱発は行えなくなる諸刃の剣なのですが。

強制力を有する、こう考えるならば国連加盟国であり安全保障常任理事国であるロシアは非難決議とともにウクライナ領域外への退去を行う、国連加盟国としての義務が生じます。また強制力を有する、安保理決議の代替と理解するならば、国連防護軍の派遣によりロシア軍撤退を監視する事も可能となります。こう拡大解釈するかは今後の国連外交に掛かる。

国連防護軍。さて、ロシア非難決議が採択されたわけですが、続く問題は第二次国連防護軍を派遣できるのか、ということとなります。ロシア軍の戦車部隊に立ち向かうのですから、少なくとも各国は戦車大隊規模の部隊を中心に歩兵中隊と砲兵中隊を含む戦闘団単位で派遣させなければ、ロシア軍の反撃に対抗することはできません。派遣国の負担も凄い。

PKO部隊を派遣できないのか、こう反論があるかもしれません。しかし、国連憲章6.5章措置としてPKO部隊が派遣されたのは、過去の話なのですね。PKOは大きく転換しました。UNOSOM-2国連第二次ソマリア任務、1992年にPKOは冷戦後の国際情勢変化を受け停戦監視以上の任務を実施しました。平和維持から平和執行へ、当時のガリ事務総長が。

平和執行、もちろん、PKOがすべて平和的かといえば、国連コンゴ任務ではPKO部隊のコンゴ派遣に現地のカタンガ傭兵団が激しく抵抗し攻撃機まで繰り出してきたため、PKOに派遣されたスウェーデン軍が戦闘機を派遣し、史上初の国連PKO戦闘機部隊が攻撃機を撃退するなど、激しい戦闘がおこなわれた事例はあるも、あくまで任務は停戦監視だ。
■PKO国連平和維持活動の歴史的変容
PKO派遣と一言でいうものですがPKOそのものも幾度も大転換を経てきました。

ガリ事務総長は、1991年湾岸戦争において国連は授権決議という、権限を附託することしかできなかったことで考えを改め、PKOに国連軍並の権限を付与させる施策をとりました、平和維持ではなく平和執行、平和を乱す事案にはPKOが武力鎮圧するとして、戦車までも加盟国に派遣を要請しています。ただ、これは大損害を出して、大失敗に終わります。

UNTAC国連カンボジア任務、PKOはここで再度の大転換を行います、UNTACといえば自衛隊が初めて派遣されたPKO任務ですのでPKOといえばUNTAC、こう思われるかもしれませんが、UNTACからは平和執行でも停戦監視でもなく、国家再建、新しい任務が付与されたのですね。故に日本でPKOといえば施設科部隊や後方支援という印象が強まった。

第三世代PKOと呼ばれた、平和維持は停戦監視に留まらず国家再建をもPKOがふくむ、ノーベル平和賞を受賞したヨハンガルトゥング博士の提唱した人間の安全保障、自己実現が阻害されない社会という概念を、PKOがインフラやシステムを含めた国家再建に関与することで行使しようという、平和執行に換わる国連の平和維持への主導権というもの。

人間の安全保障というものは、現代の"SDGs"概念への原点というもので、第三世代PKOはモザンビークやルワンダなど、冷戦後の混乱と呼ばれた一群の内戦からの復興において、いわば安全保障への国連の関与という面では大きな前進となりました。一方で、それではこのPKOを今回派遣できない理由というものは、その後での深刻な問題があるのです。

UNMISET国連東ティモール支援団、自衛隊も派遣された2002年のPKOですが、このPKO任務から、本来は国連総会が派遣していたPKOを、より平和履行を確実とするために安保理決議を根拠として派遣するようになりました、2002年となれば東西冷戦後でソ連崩壊から10年でロシアがNATOオブザーバー国となっていた時代、拒否権公使もない。

平和履行とは、要するに平和執行ほど厳しい措置ではないが平和維持に安保理決議の強制力を付与した概念といえます。ただ、この方式のPKOを今回、ウクライナに派遣しようとした場合、安保理決議ではやはり、ロシアが拒否権を行使する可能性があるのですね。すると、ESSではロシア非難決議とともに、この決議を根拠として活用する必要が出てくる。
■国連は"国際の平和と安全"へ原点回帰と行動を
国連の現在の機能は限られていますが核戦争の危機を傍観する事もまた義務の放棄です。

核戦争の危機。実際に考えますと国連の役割は非常に大きいのです、それはESSによりPKOを派遣した1956年スエズ危機に匹敵する第三次世界大戦の危機であり、国際の平和と安全を任務とする国連は、今動かなければ単なる世界政治家談笑サロンニューヨークビルに留まってしまいます。しかし、ESSは、21世紀には安保理を代行し得る解釈が立つ。

国家間関係の慣行と履行、国際法とは変容するものであり、これは国家間関係の慣行が履行される事により国際関係に影響を及ぼすものが国際法です、するとESS決議が法的拘束力を持つという、慣行が成立ち履行される事により規範性を持つ、この点で法源は日本における国内法とは概念が異なる理解が必要です。もっともその法源は自然には生まれない。

世界危機。国連は上記の通りESSを転換させる必要があります、何故ならば、現状を放置すれば第三次世界大戦へ発展する可能性が、ベラルーシのウクライナ派兵により高まっています、それはベラルーシ軍がウクライナポーランド国境方面へ派遣され、ポーランド付近に戦闘が拡大する可能性が高く、実際、ベラルーシ軍はウクライナ西部へ集結している。

ロシア軍へのNATO攻撃よりもベラルーシ軍攻撃は障壁が低い。また、ポーランドとベラルーシの国際関係は緊張があり、更にポーランドウクライナ国境からEU欧州連合を含めた軍事援助物資が搬入されており、この地域へ策源地攻撃が行われるならば、ポーランドはNATO加盟国、ロシアとNATOの限定衝突、続く全面衝突、大戦へと繋がりかねません。

国連防護軍派遣、決断する必要があります。何故ならば、時間と共にウクライナでのロシア占領地区が広がるという事よりも、時間と共にロシア軍の損害が拡大していることで、これはロシア陸軍や空挺軍の75%が派遣されている今回のウクライナ侵攻でロシア軍は大損害を受けるという事は、ロシア陸軍と空挺軍が立ち直れない大損害を受ける事と同義だ。

国連は時間が無い、ロシア軍の損耗が大きくなり、そしてウクライナ大都市へのロシア軍包囲や占領地域の拡大が一日一時間ごとに拡大するだけ、ロシア軍撤退は難しくなる、そして停戦監視と兵力引き離しの監視部隊編成にも時間が掛かり、その時間が進む程に第三次世界大戦への危機が迫ります。国連はこのESS決議を無駄にしない、次の行動が求められるのです。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)