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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】イギリス:チャレンジャー3戦車とBGOAA戦闘群,新空母プリンスオブウェールズ

2021-06-08 20:05:41 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回はイギリス特集です。チャレンジャー3戦車の話題を筆頭に日本の防衛政策や90式戦車の改修を含め参考となる点も多いでしょう。

 イギリス陸軍は新たにチャレンジャー3主力戦車の導入を開始する、国防省が5月7日に発表しました。チャレンジャー3は現行のチャレンジャー2主力戦車の近代化改修型にあたり、2027年までに初号車を陸軍第一線部隊へ配備させる方針です。新規製造ではありませんが、全廃の可能性さえあったチャレンジャー戦車は2040年まで運用が続けられる事に。

 チャレンジャー3への改修は、148両が対象となります。改修点は第一に主砲です、弾薬生産が終了しチャレンジャー2の寿命の論拠となっていた120mmライフル砲はL-55/120mm滑腔砲へ換装、分離式弾薬も通常の砲弾へ転換します。第二にエンジン及び懸架装置の換装でイギリス戦車は伝統的に防御と攻撃を重視し機動力の優先度が低く、此処は強化へ。

 改修はもう一つ、防御力についてモジュラー装甲への換装とアクティヴ防御装置の追加が構想されています。改修費用には8億ポンドが想定、一両当たり540万ポンドで邦貨換算では一両当たり8億2000万円の改修費用となります。現在のチャレンジャー2戦車は227両が維持されていますが、改修対象となる148両以外の戦車については発表がありません。
■BGOAA複合地上戦闘群計画
 日本には軽量戦闘車両システム計画や中止となった近接戦闘車計画がありますがイギリスのBGOAA複合地上戦闘群は日本の将来戦闘計画の参考ともなりましょう。

 イギリスのDSTL国防科学技術研究所は2030年代に実用化するBGOAA複合地上戦闘群計画の構成要素と将来展望を発表しました。イギリスはチャレンジャー戦車の改良を決定したばかりですが、2050年代をにらむ将来装備体系としては1980年代の基本設計は必ずしも相応しくは無く、BGOAA複合地上戦闘群は複数の無人戦闘車両により構成される。

 BGOAA複合地上戦闘群はDSTL国防科学技術研究所によれば、CISD近接自衛戦闘能力、MCCO長距離近接戦闘監視能力、CCAAW近接戦闘対装甲兵器運用能力、等を基本とし、具体的には車両間データリンクにより競合地域へ進出し監視及び先鋒としての戦闘を担うと共に、敵機甲部隊への対処も想定しており、2023年ごろに計画を具現化するとのこと。
■BGOAAとボクサー&AJAX
 日本では装軌式共通車体の開発が評価試験段階となっていますがイギリスではまだ導入の始っていない装備をもBGOAA計画へ応用するという。

 イギリスのDSTL国防科学技術研究所が進める将来装備BGOAA複合地上戦闘群計画について、DSTLは既存装備体系の有効活用と新型無人車輛の統合運用を模索しているようです。具体的にはイギリス陸軍が運用を開始したAJAX装甲偵察車の派生型、そしてFV-432後継として導入決定したボクサー装輪装甲車の車体を応用する計画等がこれにあたります。

 ボクサー装輪装甲車は、共通車体を用いたモジュール構造を採用しておりVLS方式でミサイルを搭載した場合射程10km程度の新型ブライムストーンミサイル16発を搭載可能という。ただ、ロッキードマーティン社によれば交戦距離が10kmであれば装甲車に搭載する必要はなく、MAN-SVトラックに50セルものミサイルを大量搭載する案を提示しました。

 AJAX応用車輛については、車上にそのまま8発のミサイルを搭載する案、無人先頭車両はタレス社が既に提案しており、アンテナポールマストに複合センサーを搭載し武装としてRWS遠隔操作銃搭とジャベリン対戦車ミサイル2発を搭載した六輪装輪装甲車の将来軽量車輛概念図が発表されています。DSTLは費用とリスクを慎重に見極めようとしています。
■スピアフィッシュMOD1魚雷
 スピアフィッシュMOD1は海上自衛隊の潜水艦にも欲しい新型魚雷です、物凄い速度を誇るホーミング魚雷ですからね。

 イギリス海軍は改良型のスピアフィッシュMOD1長魚雷のアスチュート級原潜からの運用試験を完了しました。試験に当ったのは原子力潜水艦オーディシャス、アスチュート級原潜の4番艦で2020年就役しました。今回の試験はバハマのアンドロス島に在るAUTEC大西洋海洋評価センターにおいて実施、運用最大深度での実魚雷発射試験を実施しました。

 スピアフィッシュMOD1長魚雷は1992年に開発されたスピアフィッシュ長魚雷の改良型で、80ノットと実用化されている魚雷では当時世界最速となっています。最速の座はロシアのシクヴァール魚雷が200ノットを発揮しますがこれはホーミング装置の無い直進用魚雷であり、誘導可能な現用魚雷では今なおスピアフィッシュ長魚雷の80ノットが最速です。
■新空母プリンスオブウェールズ
 海上自衛隊はヘリコプター搭載護衛艦として全通飛行甲板型護衛艦の数を揃えましたが遠征主体のイギリス海軍ではこうした選択肢もあるもよう。

 イギリス国防省は5月6日、新空母プリンスオブウェールズが初の海上公試へ出航したと発表しました。空母プリンスオブウェールズはクイーンエリザベス級航空母艦の二番艦です。建造を担当するBAEシステムズ社はブロック工法により建造され完成していた船体にSI共通インフラストラクチャーネットワークを搭載、システムが完成したとのこと。

 クイーンエリザベス級航空母艦は基準排水量45000t、満載排水量67800t、全長284mの航空母艦で乗員は679名、司令部要員と航空要員を併せ1600名が乗艦、最大の特色は世界初の第五世代戦闘機専用設計を採っている点でF-35B戦闘機を最大40機と各種ヘリコプター8機、合計で48機を搭載します。発進は甲板上スキージャンプ台による短距離発艦を行う。

 プリンスオブウェールズは2011年5月26日に起工、2017年に進水式を迎えており2019年に竣工式を迎えています。イギリス海軍では竣工式とともに初度作戦能力を獲得するまで公試が継続される建造方式を採用しています。建造費用は31億ポンド、近く初度作戦能力を獲得の際にはイギリス海軍は2隻の空母によるローテーション運用が可能となります。
■テジャスmk2戦闘機へ協力
 航空自衛隊将来戦闘機へのイギリスの技術協力が一時模索されました、テンペスト計画の延長線上の話題です。

 イギリス政府はインドが開発するテジャスmk2戦闘機へ技術協力する方針を発表しました。これは5月に行われた英印電話首脳会談においてイギリスのボリスジョンソン首相と印度のナレンドラモディ首相との間で交わされたインド太平洋地域での安全保障協力強化の一環として示されたもので、この他に情報共有や艦艇用エンジン開発でも協力を進める。

 テジャスmk2戦闘機は、インドが長年の期間を掛けて開発したナット軽攻撃機後継機計画で、余りに長期開発された為に完成しないのではないかと危ぶまれていた航空機です。イギリスはロールスロイス社による戦闘機用エンジン開発や、操縦システム開発支援など、ユーロファイター計画での知見をインドの国産戦闘機改良型の短期開発へ活かすという。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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