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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】フィリピン軍近代化,サイクロン級哨戒艇-シャルタグ級哨戒艇-ヘルメス900無人偵察機

2021-06-15 20:20:33 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 今回の防衛情報はフィリピン軍の近代化について最新の情報を紹介しましょう、島嶼部防衛などの面で安価に防衛力整備を進める興味深い視点が多い。

 フィリピン軍は増大する中国軍海洋進出やミンダナオ島の武装勢力活性化等を前に軍事力近代化を進めています。フィリピン軍は韓国からのFA-50軽戦闘機の導入やアメリカ沿岸警備隊からのハミルトン級カッターの導入など近代化を進めています。そして更にイスラエルからの新型軽戦車導入やTOWミサイル、155mm榴弾砲導入等を進めています。 

 フィリピン軍の近代化についてはこれまでも防衛情報として紹介しましたが、現在フィリピンは南沙諸島の自国排他的経済水域内での環礁への中国漁船団大量係留問題で中国と新たな係争が生じつつあり、一方でフィリピン財政は慢性的な危機状態にあり国防費の上限は厳しい。こうした状況下でのフィリピン軍近代化について、最新の情報を纏めました。
■サイクロン級哨戒艇3隻導入計画
 サイクロン級哨戒艇はアメリカ海軍の特殊作戦支援用などに活躍する哨戒艇です。日本のミサイル艇ほど強力ではありませんが大きさは同程度のもの。

 フィリピン国防省はアメリカより取得するサイクロン級哨戒艇3隻の早期受領をアメリカに要望しました。中国による海洋進出により自国環礁への占拠状態が常態化し、更に新たにサンゴ礁へ中国船団が長期間遊弋する状況を受け、フィリピンは海軍力強化を急いでいますが、財政上の問題から中古艦を買い漁らざるを得ません、サイクロン級もその一つ。

 サイクロン級はアメリカ海軍が沿岸作戦用に1993年より14隻を建造したもので満載排水量は334t、武装に25mm機関砲2門を搭載しています。フィリピン海軍では一番艇がマリアーノアルバレスとしてフィリピンにて再就役しており今回更にアメリカ海軍より除籍されたゼファー、シャマル、トルネード、この3隻をフィリピンは導入を希望しています。

 フィリピン海軍は一時期、海上自衛隊の退役護衛艦や欧州製退役フリゲイト等の無償譲渡を各国へ要請していた時期がありますが、日欧には中型であってもフィリピンには経験の無い大型水上戦闘艦となります、この為に慎重に運用を分析し且つ維持し等を計算した結果、いずれも実現に至っていません。先ずは哨戒艇から、地道な海軍力整備がすすみます。
■TRIGON海上火力支援システム
 イスラエルより艦艇導入や防衛装備導入を進めるフィリピンにも関係ある情報です。

 イスラエルのエルビットシステムズ社は中型小型水上戦闘艦用にTRIGON海上火力支援システムを開発しました。TRIGON海上火力支援システムは射程150km、CEP半数命中界は10mとなっており、弾頭重量は120kg、コルベットクラスや小型フリゲイトに搭載可能で、艦砲を持たない水上戦闘艦へ海上からの対地攻撃能力を付与させるというものです。

 TRIGON海上火力支援システムは六連装発射装置に搭載され、保守整備等を簡略化した設計となっています。このTRIGON海上火力支援システムの発想は過去にイスラエルが初の対艦ミサイルガブリエルを開発した当時、127mm艦砲を持たない小型哨戒艇へ駆逐艦並の打撃力を付与させる観点から開発された点と似ており、大型艦並の打撃力を付与します。
■シャルタグ級哨戒艇導入
 フィリピン海軍はイギリスより香港警備用のピーコック級コルベットを導入していますがミサイル艇を増強するもよう。

 フィリピン海軍は2022年からイスラエルよりミサイル搭載のシャルタグ級哨戒艇導入を開始します。フィリピンに売却されるシャルタグ級には射程25kmのスパイクNLOSミサイルが搭載され、哨戒艇以上の見通し線外の攻撃能力を有しており、フィリピン海軍ではミンダナオ島での治安作戦、潜在的に中国からの緊張増大海域への抑止力として用います。

 シャルタグ級は満載排水量72tで全長24.8mと吃水1.2m、MTU12V-396TEディーゼルエンジン2基とウォータージェット2基を搭載し最高速力は50ノットに達し、スラエルでは沿岸部での対テロ作戦に用いられていると共に、赤道ギニア、ナイジェリア、セネガル、スリランカ、アルゼンチン、アゼルバイジャン、キプロス、ルーマニアに輸出されました。

 フィリピン海軍は8隻から9隻のシャルタグ級を導入する計画で、2022年からは先ず3隻が導入、この取得費用は100億ペソといいこれは米貨換算で5億0300万ドルにあたります。日本では護衛艦もがみ型一隻に匹敵する費用で、イスラエルではスパイクNLOSと25mm機関砲タイフーンRWSを一体化させたFAIC-M武器システムを搭載し売却するもよう。
■ヘルメス900無人偵察機
 フィリピンは日本よりTC-90練習機を導入し対潜哨戒機として運用していますがなかなかP-3Cを運用できる水準には至らず、近年は無人機導入にも精力的です。

 イスラエルのエルビットシステムズ社が3月2日に発表したヘルメス900無人偵察機の東南アジア某国への3億ドルに上る売却計画はフィリピンに行われる可能性が出てきました。同社が売却相手国は既にヘルメス450を運用中だとしており、フィリピンは2020年9月に既に配備されているヘルメス450の増強とヘルメス900導入計画を発表しています。

 ヘルメス900は固定翼無人機で全幅15m、30時間から36時間に及ぶ滞空が可能、300kgまでのペイロードを有し、合成開口レーダーやEO複合光学センサーを搭載し最高速度は220km/h、巡航速度は112km/hであり滞空高度は9000m、実用上昇限度は9100mであり、ブラジル、チリ、コロンビア、カナダ、アイスランド、メキシコ等が運用しています。
■アカシュ中距離地対空ミサイル
 フィリピンの課題は防空能力や警戒監視能力の不足、そういうよりも欠如というべき状況ですが流石に改善されるのでしょうか。

 インドはアカシュ中距離地対空ミサイルについてヴェトナム、フィリピン、アラブ首長国連邦が輸出に関心を示していると発表しました。アカシュは2020年12月に評価試験を完了したミサイルです。インド政府は国内製造業振興への輸出強化策として工業製品の中でも兵器輸出を真剣に進める計画で、アカシュ中距離地対空ミサイルもこれに含まれます。

 アカシュ地対空ミサイルは射程30km、有効射高は18000mであり、ラジャンドラAESAレーダーと3連装発射装置4基で一個射撃中隊を構成、射撃指揮装置は64目標を同時追尾可能であり、12目標と同時交戦が可能、各種装備は自走化されています。なお、関心を示している国の中でフィリピンは現在、携帯式以外の地対空ミサイルを保有していません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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