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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

軍事検証:ガールズ&パンツァー【5】 戦車部隊は下士官の部隊、戦車はチーム戦車長は指揮官

2016-01-20 23:31:59 | 映画
■戦車部隊は下士官の部隊
 戦車部隊は下士官の部隊、本日は戦車長を取り巻く様々な責務と任務についての難しさを挙げてみます。

 ガールズ&パンツァーではそこまで描かれていませんが、戦車部隊は下士官の部隊と呼ばれ、特に自衛隊行事等で戦車の観閲行進を見ますと、戦車連隊が大量の戦車を出した場合でも複数戦車大隊が駐屯する駐屯地でも、車長に陸士の方は見えません、OBの方には陸士の方がいた、という話ですが、よく聞けば陸軍士官学校出身者とのことでした。それだけ戦車長の養成は難しい。戦車の戦闘距離ですが、ガールズ&パンツァーの世界では長射程の高初速戦車砲を装備する車両が出てきますので、現用戦車程大きくなくとも戦闘照準1500mで攻撃を仕掛けてくる事例は当然あります、戦闘距離900m程度が現実的な交戦距離となるでしょうが、砲手は京都駅に立つ距離ならば北は東本願寺北方の代ゼミ周辺に西方向では梅小路機関車博物館付近までと東側では鴨川の対岸京阪本線を越えた付近まで警戒しなければならないでしょう。

 更に陸上戦闘において戦車は最高度の打撃力と機動力に防御力を備えた装備ですのであらゆる装備から狙われる装備です、戦車長はこれら脅威から戦車を防護しつつ、攻撃や防御の必要な判断を下さなければなりません、戦車部隊は下士官の部隊、と表現される事がありますが、これは戦闘単位である戦車の戦車長に求められる判断力の大きさを意味するのかもしれません。ガールズ&パンツァーの世界観、現役戦車乗りや機甲指揮官の方の中で難色を示す方の背景には、戦車長を養成するのにくじ引きやノリで決められるほど戦車戦闘は甘くない、というものがあるのかもしれません。

 戦闘照準、戦車戦闘において目標までの距離を正確に測量することは待伏せる状態ならば兎も角、レーザー測距装置が無い時代には戦車が動きながら測距することは現実的には無理です、やって成功した、という話は聞かないでもありませんが、オフロードを走行中の自動車で丁寧に毛筆の手紙を記す程度の困難さがあります、そこで戦車長が地形などと目標を元に平均的な戦闘距離を戦闘が始まる前に画定しておき、砲弾も初速から徹甲弾か対戦車榴弾かを決め、諸元を予め計算しておく方法があります。ただ、この場合は、戦車が機動する範囲から、相手の交戦距離、そして機動力と双方の戦術を見積り、判断しなければなりません、地形を読む、とは簡単そうに聞こえるものですが、地形と彼我の戦術、実際に相手がどのように動くかの見積も彼我の装備と戦術体系の差異から非常に難しいものがあります。

 戦車部隊は下士官の部隊、戦車長の任務は戦車というチームの戦闘指揮ですが、戦車が小隊規模で行動する事が基本です、戦車が一両一両分散して運用するという状況は斥候や機械化歩兵部隊と連携する際や交差点など治安警備任務等ではあるのですが、対戦車戦闘では小隊行動が基本となります、自衛隊の場合は小隊長は幹部自衛官が充てられまして小隊長の技量がどの程度あるのかを小隊のベテランになる古参の小隊陸曹が補佐するのですが、戦車長は戦車小隊の戦車単位の戦車長の一人として、今度は戦車部隊としての連携に対応できるよう指揮できなければなりません。

 有利そうな地形を見つけた場合でも小隊行動と合致して展開する必要がありますし、隣の車両と離隔距離が広がり過ぎますと各個撃破される可能性が出てきますし、凝集しすぎて離隔距離が小さくなりますと一度の攻撃で付随被害を受ける可能性があります、この当たりを判断して視野を広く持つ必要がありますし、自分の戦車だけの動きを把握し掌握すればよいというものではありません、ガールズ&パンツァーは勿論さまざまな作品と幾つかの戦車映画、例えば近年のフューリー等では画面の絵のために戦車が凝集しすぎる部分がありますが、ここにも首をかしげる部分があります、とある著名な軍事評論家の方の表現をそのまま使いますと、そもそも戦車戦というのは基本お互いが見えない状態で戦うからね、と云われました。

 ガールズ&パンツァーの世界観では戦車道という協議のための戦車が戦闘用の戦車とは別に存在しているという世界観ですので、歩兵や砲兵、砲兵に関しては劇場版での扱い等で差異が生じつつあるようですが、実際の戦車では歩兵の近接戦闘の範囲に戦車を入れないという運用上の留意点がありますし、また戦車単体では戦闘任務を遂行できませんので戦車と歩兵の連携や砲兵との前進観測との連携などが戦車長の任務、戦車小隊長の任務に含まれてきます、この諸兵科協同という任務も非常に難しい。

 先任戦車長の任務は意外と多岐に及びます、例えば小隊において小隊長が指揮を執れない状況に陥った場合には指揮を継承し部隊を掌握しなければならず、その為には地形の見通しとその上の中隊規模の部隊運用や他の諸部隊との連携も視野に含め、その上で部隊が任務遂行可能なよう指揮を両立させなければなりません、戦闘に補給と上級指揮官の指示を仰ごうにも無線機を多用すれば傍受されるのは常識で併せてさらに多用すれば標定され位置を暴露します、非常に複雑ではありますが、戦闘とは人と人が所属する社会単位である国家の極限状態の終末点において生じるものであり、その一分野である以上複雑となる事はある意味当然ともいえるでしょう。


北大路機関:はるな くらま
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