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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

軍事検証:ガールズ&パンツァー【1】 自衛隊機甲科隊員の支持意見と不支持意見の背景考察

2016-01-16 22:15:29 | 映画
■軍事検証ガールズ&パンツァー
軍事検証ガールズ&パンツァー、今回から戦車と現在劇場版公開中のガールズ&パンツァーについて、まず戦車を動かすことなどの面を筆頭に、戦車を運用する点での難易度やアニメーションと実際の戦車部隊などを少しみてゆくこととしました。

ガールズ&パンツァー、その存在を当方が初めて知りましたのは2013年の富士総合火力演習にて配布された朝雲新聞臨時増刊号での広告でした、内容は簡単に説明すればその世界観として、戦車道という茶道や華道などと並ぶ芸事の一翼を担い、淑女の嗜みとして戦車に乗り力強く礼儀正しい女性を目指すとの視点で広く戦車に乗車し戦車戦闘を模擬戦にて競うという舞台があり、主人公の西住みほさんが諸事情から戦車道の強豪校熊本県の黒森峰女子学園から茨城県の大洗女子学園に転校し、そこでの出会いから一時離れていた戦車道へ戻り、仲間たちと、決して強力とはいえない戦車とともに全国大会優勝を目指す、というもの。

この作品は、一般の方にもかなりの関心を集め、ブルーレイ/DVDは各巻35000枚以上もの売り上げを伸ばし大ヒット作品となりました。作品の舞台となった茨城県大洗は多くのファンで土日祝日は旅館が満杯、平日も賑わい昨年末には劇場版が公開、共産党が抗議するほどの活況となりました。ただ、この作品は戦車を扱っている事から陸上自衛隊機甲科隊員からも多くの支持を集め、中には空挺隊員で幾度も大洗に足を運ぶ名物隊員の方もいらすようですが、少なくない隊員の方、聞くところでは戦車乗りで陸幕の一番偉い方を始め、余りにアニメーションとして描かれる戦車に対し簡略化されている、簡単に動かせる誤解を与えているとの視点から批判を集めている事も確かなようです。

そこで今回から数回に分け、そもそも戦車を動かす事とは、というものをかなり省略してですが紹介してみる事としました。戦車、打撃力と機動力に防御力を兼ね備えた陸上装備の頂点に立つものです、機動打撃を行う場合には攻撃衝力の骨幹を担い、防御戦闘では最大の脅威である敵戦車を高度な監視手段と戦闘能力で撃破する、しかしその分複雑です、現用戦車はかなり自動化されているのですが、古くなれば古くなるほど難しい、戦車なんてバーっと動かしてバンバン撃てばいい、とはガールズ&パンツァーに搭乗した富士学校の戦車教導隊蝶野1尉のお言葉ですが実際はどうか、戦車を動かすことは誰にでもできるものです、しかし戦車を戦闘車両として運用するために戦術機動する事と運転して動かすだけというものは完全な別物です、とは元戦車乗りのお言葉です。

特にガールズ&パンツァーの世界では協議に第二次世界大戦終戦までに完成した戦車であればどの戦車を用いても良いとのルールに基づく戦車を運用するため多種多様な戦車が入り乱れています、様々な戦車を見られるというところがガールズ&パンツァーの作品ではあるのですが、操縦方法も全て個性と利点欠点があり、古い戦車程動かすに利用できる技術が限られています、第二次世界大戦末期の戦車にはM-24,富士駐屯地や東千歳駐屯地に練馬駐屯地等に展示されているものですがオートマチック変速機を用いる戦車も完成しているのですが、これは例外で戦術機動するだけでも相当な技術と慣れが必要というものが大半でした。

戦車の乗員ですが、狭き門を越えて戦車部隊に配属されたとして戦車部隊には多数の支援車両や装甲車両が配備されています、そして戦車に配属されますと、戦車は基本的な戦車で装填手と操縦手に砲手と車長が配置されており、最初は装填手から厳しい戦車の道が始まります、装填手は砲弾を戦車砲に装填する職務ですが、整備補給や警戒など手空きの際には他の乗員を補佐します、OJTというようなかたちで次の操縦手まで慣れてゆくわけですね。

戦車砲も徹甲弾に対戦車榴弾と発煙弾など様々な砲弾を搭載していますので、弾種徹甲戦闘照準、と命じられ間違えて他の砲弾を装填すると初速が違い早く落下するため命中せず大参事です、装填手は様々な仕事に携わりますが、重い戦車砲弾を素早く装填する事は並大抵のことではないという認識が必要でしょう、第二次大戦中の戦車は砲手と車長が兼任する事例がありましたし、逆に装填手の下に通信手を置いて戦闘時には車体銃を操作させるという事例もありましたが、戦車は機械工学の集大成、近年は機械工学と電子工学の結晶ですが、その為に得なければならない知識は膨大で、装填手と云えども楽なところはありません。

戦車を動かす、ガールズ&パンツァーの世界では簡単にやっていましたが90式戦車や10式戦車ならば意外と初めて操縦する隊員さんも案外動かせて、俺ってイケテル?、と勘違いし、その直後トチって頭をゴチンとなる訳ですが、第二次大戦中期以前の戦車は変速機のギアチェンジがマニュアル式で現在のMT車よりも遥かに難しいものでした、戦車が一直線の道路上を一定速度で走行するならば前に進むことは多少の慣れで実現する訳ですが、線上で一直線に進めば一分以内に命中弾です、そこで地形を利用して少しでも目立たないよう走る必要が出てくる。

地形利用が戦車機動の一般原則なのですが、地形に合わせて登攀と稜線突破の際に一瞬でも変速機操作が遅れると登攀中に停車してしまうものや稜線に姿を見せたまま動けなくなるものがあります、馬力が足りないのかとエンジンを下手に吹かせば過熱し停止してしまいますし、歯車回転数を車体振動と音から推測してギアを転換しなければ噛み合わず、第二次大戦中に金属加工技術が稚拙な状態もしくは工場設備が完全稼働しない状態で製造されたギアを用いた歯車式変速機を使っている場合、シンクロナイザーの設計余裕を越え噛み合わず欠けて破損してしまうという状態もあり、これは現在のMT車ではなかなか考えられません、このように一般には考えにくい難易度があるのです。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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