北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊地方隊への一考察⑦ 沿岸防備へ中国海軍量産艦へ財政難下での苦しい対処法

2012-07-15 18:41:00 | 防衛・安全保障
◆自衛艦隊沿岸配備用量産艦の必要性と模索
 中国海軍のコルベットがフィリピンパラワン島沖で座礁する事故がありましたが、小型艦の動向活性化と共に想定以上の海軍規模拡大が続いています。そこで今回も量産艦という前回の話題を、あまり深く考えず思いついたことを列挙してみます。
Eimg_1095 幸いにして海上自衛隊は旧海軍以来の艦隊運用と用兵に関する戦術研究と装備計画を計画しており、一度優位性を確保した時点で、これら基盤の蓄積はそう簡単に凌駕されるものではありませんし、ソ連太平洋艦隊へ刺し違える想定で編成された海上自衛隊の優位は今後十年や十五年程度では破られることはないでしょう。ただ、90年代には四半世紀以上の差があったと表現されていますので、差は縮小していることは否定しません。
Eimg_1120 海上自衛隊はソ連太平洋艦隊への対処を想定したため、その水準は高いものです。護衛艦隊の四個護衛隊群編制は我が国海上防衛の至宝というべき存在ですが、この規模は第四次防衛力整備計画、石油危機下の進められた四次防下に推進された編制ですので、インフレ率が大きすぎ同型艦でも前年と翌年で建造費が倍加したという無茶苦茶な時代に実現できた規模であれば、恐らく現状の経済情勢においても継続することは可能でしょう、しかし増勢することはできません。無理に増勢すれば跳ね返しで無理な減勢が要請されるでしょう。
Eimg_1967 地方隊向けの量産艦。これは前回提示したのですが、いくつかの選択肢を。かなり大型となりますが、あきづき型を原型としてFCS-3の能力に重点を置き、SSM発射筒と20mmCIWSを廃止しSSMはVLSに搭載、搭載艇も複合艇と簡略化、代わりに25mm単装機関砲を両舷に各一基装備する、米海軍アーレイバーク級後期艦のような可能な限り簡略化した艦を護衛艦隊へ配備し、むらさめ型を地方隊に回すという方式がひとつ。
Eimg_7789 カナダのハリファクス級フリゲイトのような一案も。対潜戦闘のみを重視し、現行の一部艦が行っているようなSSMの廃止やSAMの簡略化を行い、大型で航続距離があったとしても運用費用と取得費用をある程度低減する、というもの。ハリファクス級は4770tありますが、昨年東京に来た艦は兵装の大半を下していたそうで。しかしシーキングの運用能力があり航空機運用を重視した艦ということがいえるでしょう。もっとも、同時多方面からの対処には一定数の艦艇が必要になるのですが。
Eimg_2440 地方隊向け量産艦ですが、前回3000t台を提示したのですが、実はこの規模の水上戦闘艦で有力なものは世界ではかなりあります。シンガポール海軍のフォーミダブル級は3200tで、フランスの設計によりステルス設計の重視とディーゼル機関による航続距離延伸という同国らしい設計を採り、ヘラクレス多機能レーダーと射程30kmのアスター15短SAMにより高い能力を持ち、そして乗員定数は86名と護衛艦はつゆき型の195名と比較し、大きく自動化されています。もっとも、かなり建造費は高いのと、ダメージコントロールをどう考えているかなど興味深いですね。
Eimg_1921 3200t、韓国海軍が2250tのウルサン級フリゲイトの後継艦として建造する新型艦もこの規模となるようです。舞鶴へ寄港したことがある5600tのイスンシン級を小型化した形状となるようで、これまでの水上戦闘艦が船体規模に対して重武装となっていたため、荒天時の復元性が悪く一定以上の海象状況では海上自衛隊の護衛艦であれば行動できる状況であっても基地から出ることが出来ませんでした。
Eimg_2522 ただ、間違えても中古艦には手を出せないもの。イギリス製23型フリゲイトや22型フリゲイトなどは近年盛んに輸出されており、一見安価に見えるものもあるのですが、火器管制装置や電装品が異なり、データリンクへ加入させるまでの手間を考えた場合、10隻単位で一つの整備体系を導入できる方式とした場合でも、仕様変更への手間を考えた場合、これは得策とは言えないのです。
Eimg_1602 さて、海上自衛隊では護衛艦は大型化を続けていますが、中国海軍は量産艦の増強に努めており、満載排水量4000tの江凱Ⅱ型フリゲイトは15番艦が進水、火器管制システムのZKJ-7は同時多目標処理能力が限定的という情報を信じるならば、海上自衛隊のFCS-2より以前の水準ではあるのですが、一番艦進水式から六年で15隻を揃えており、五年間で12隻の護衛艦はつゆき型を建造した最盛期と同規模となりました。もっとも、中国海軍の量産艦シフトは、蘭州型とも呼ばれる高性能な旅洋型の建造費が大きすぎたため、という側面はあるようですけれども。
Eimg_2940 海上自衛隊は7000t級の大型艦を建造していますが、対して今年五月には新型の056型コルベットの進水式が行われ、本年中に4隻が進水式を迎えるとされる量産性重視を示したものとなりました。速力を22ノットで対潜兵装を排し水上打撃力と共に陸戦部隊の同乗を視野に入れた新型艦で、満載排水量は1200t程度ながら18ノットでの航続距離は9000浬と比較的長い領域警備重視の新型艦となっています。
Eimg_1456 インド海軍のミサイルコルベット。写真のようにコルベットは個艦防空能力が限定されるため、経空脅威状況下では航空優勢確保の状況以外での運用が制限されるものとなっています。しかし、対艦攻撃能力が低い東南アジア地域の空軍部隊に対してはその航空優勢競合地域においても運用することが可能で、長大な航続距離は我が国南西諸島はもとより小笠原諸島に対しても脅威を及ぼすこととなるでしょう。
Eimg_8447 重要な点は二つあり、我が国への直接的脅威、もう一つは周辺国の外交政策への影響です。具体的には前者が、領域警備に対して同時多数が多方向より進出した場合対応できるのかという点と共に我が政府が国民から防衛を達成するに足らずとして外交政策の妥協を強いる世論が形成される可能性、後者は実質的な砲艦外交により我が国に利することが無い外交政策へ周辺国が誘導され影響下に収められるということ。
Eimg_7246 我が国への直接的脅威ですが、護衛艦隊の能力であれば、殲滅することは可能ですが、殲滅ではなく戦争状態に至らない状況下で排除する、領域への接近を拒否することは、特に数が多くなり同時多数型方向から展開し、離島地域や沿岸部に隣接する公海上から示威行動を行うことに対して我が国施政権が及んでいる点を内外へ強調するには十分とは言えず、国内に対しても我が国は包囲されているとの誤解を生み、結果的に対中政策へ譲歩を強いる世論が醸成される可能性があります。
Eimg_5922 周辺国対外政策への影響。現時点では対抗している状況です。経済成長進むヴェトナムは1979年に中国からの侵攻を受けた中越紛争や1988年の中国軍による南沙諸島守備隊攻撃の反省から停滞していた海軍の再編計画を稼働させ、キロ級潜水艦6隻の緊急取得とフリゲイト2隻の導入計画を進めていますが、ヴェトナム施政権が及ぶ島嶼部での対立が続いているほか、フィリピンは第二次大戦中の中古駆逐艦の代用として40年型落ちの米沿岸警備隊大型カッターの取得を行い境界線を巡りつい先日まで対峙していました。
Eimg_6015 しかし、中国海軍の行動が恒常化し、この海域での優勢を中国海軍が確保した場合、東南アジア諸国の外交政策が中国寄り、言い換えれば排日的に転換する可能性があり、この海域を通る我が国シーレーンに対し重大な影響が及ぶこととなるでしょう。あたかも我が国が第二次大戦中に行った東南アジアへの対応を批判している中国が踏襲しているように印象付けられるのですが。
Eimg_5325 我が国としては、ソマリア沖海賊対処任務やパシフィックパートナーシップなど多国間訓練を背景に、この海域を恒常的に大型艦を航行させることを以て、結果的にプレゼンスを示すことが出来ています。海上自衛隊の運用計画に大きな影響を与えているこれら任務増大は間接的に我が国プレゼンスの誇示という意味では評価されるべきやもしれません。
Eimg_1386 こうした中で、どうしても問題となるのは艦艇の不足です。正直なところ、はるな型、たちかぜ型も蒸気タービン機関を効率的に延命できたならば練習艦に転用してガスタービン艦を自衛艦隊に戻せたのではないか、と思うところはりますし、はつゆき型の除籍艦についても延命をもう少し真剣に考えて良かったのではないか、と考えるのですが、延命に限界があることも事実です。
Eimg_7760 特にこの点で、護衛艦隊護衛隊群は外洋作戦に重点を置き、その枠内で沿岸任務を行うと共に自衛艦隊直轄部隊として二桁護衛隊の位置づけをある程度考える必要があると考えるのです。即ち、外洋作戦の比重というものは相応に高くあるべきで、沿岸警備に手手一杯となている状況に陥ってしまえば本土は守ることが出来たとしても外堀が埋められてしまう、ということ。
Eimg_9258 これを避けるためには有事の際の運用計画へ、ある程度の余裕を見てゆく必要があるのですが、平時における多数の外国艦船への警戒任務により稼働率が左右されてしまい、または忙殺されてしまい対応できなくなる可能性、というものはありますし、外洋作戦へ必要な部隊を展開させた場合本土防衛が手薄となってしまうのではないか、という危惧、杞憂でしょうか。
Eimg_8695_1 ここで、前回の量産艦という方策、他の一案としては非常に指揮系統や運用への概念の相違から難しいのですが海上保安庁巡視船に沿岸警備の一翼を担うと共に特定離島海域ではミサイル艇もしくは沿岸砲兵部隊を配置し支援するという方式、護衛艦未満ミサイル艇以上の多用途哨戒艦を防災枠とともに建造し支援に充てるという方式をこれまでに提示しました。
Img_9033 逆に言うならば、海上自衛隊は1000浬シーレーン防衛を念頭に整備計画を進めてきましたが、現在求められる能力は既にこれを越えていますし、現在実施されている任務もこれを越えたものとなっています。加えて、脅威に際して、外洋作戦を維持しつつ島嶼部防衛を考えた場合、防衛力は充分であるのか、具体的な指針が見えてこないわけで、具現化する脅威へ我が国の防衛は一定以上万全だ、という政府の指針が示されないのですから。
Img_5758 現実問題として艦艇数を増勢出来るならば、これに越したことはないのですが、定数を冷戦時代末期の60隻とした場合、毎年2隻から3隻の護衛艦を建造しなければならないのですが、現実的に現状の防衛大綱定数48隻、これに数隻を加えることは、現実的に不可能ではあるが、検討次第では難しいのを圧して、というところでしょう。
Img_7007 防衛費を増額すればいい、というのは一番稚拙な考えではあります。現在は税収の二倍以上の一般会計、歳入の二倍の歳出となっており、本来は国債への依存度を下げるという観点から税収を二倍としなければならない状況です。この中で膨大な南海トラフ地震への準備と東日本大震災からの復興を行わなければならず、仮にあらゆる税金が二倍以上となった場合、対応できるのでしょうか。
Eimg_1227 他方で、例えば防災に資するという側面から防災予算を含めて防衛に資する装備を導入する、経済活性化の景気刺激策としての防衛産業を強調する、原子力災害対策もしくは脱原子力政策からの資源確保への安全保障政策としてなど、多用途性を強調し一見姑息な手法と取られる方式を使いつつ、考えてゆくしかないわけで、可能ならば再び景気成長の方策を模索してほしい、この一点に尽きます。
北大路機関:はるな

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コメント (3)
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