北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

海上自衛隊地方隊への一考察⑥ 近海哨戒・沿岸警備任務への量産艦は必要ではないか

2012-07-05 22:53:48 | 防衛・安全保障
◆護衛艦定数は充分か?性能絞り数的充実も視野
 ロシア艦隊宗谷海峡通過、中国海軍太平洋演習へ大隅海峡通過、等など我が国近海は奇妙な活況にあります。
Timg_6_219 1995年に防衛計画の大綱が改訂され、護衛艦定数を約60隻から約50隻へ縮減した時代では考えられなかった状況ではないでしょうか。こうした観点から、量産と取得費用縮減に或る程度重点を置いた水上戦闘艦というもの、護衛艦いしかり、ゆうばり型に匹敵する護衛艦というものは考えられてもよいのではないでしょうか。
Timg_1262 もっとも、使える艦、つまり将来の拡張要素を含めた場合は、満載排水量で3000t超程度、はつゆき型の4000tよりやや小型程度の、しかし満載排水量で2800tの護衛艦あぶくま型よりも若干大きい、ヘリコプター一機分の格納庫にと艦砲に対艦ミサイルとRAM,短魚雷程度を搭載できる護衛艦というくらいが、長期間、近代化改修で30年以上使えるため将来的に安価となりうるのかもしれませんけれども。
Timg_086_8 ここで必要と考えるのは、財政難という状況下において、特に護衛艦隊護衛隊群の護衛艦とは別の、量産できる安価な艦として運用に耐えるものというものはあり得ないのか、ということ。この中でも1980年代に計画された汎用護衛艦が今後耐用年数を迎えるに当たり、後継艦をかつてのような年間2~3隻という規模で建造することが難しくなる際、如何に補うか、というもの。
Timg_9_310 実のところ、護衛艦定数というものは充分なのか、という疑問がどうしても残ります。防衛計画の大綱において護衛艦定数が制限されたことが護衛艦の大型化と建造費増大に影響した、と書きますと、むらさめ型護衛艦が計画された時期と大綱改訂の時期が合致しないとして指摘を受けるかもしれません。
Img_6976 ただし、沿岸警備用の小型護衛艦が、あぶくま型以降建造されなくなっている、という点から護衛艦隊の護衛艦は大型護衛艦に一本化されているという証左にはなるでしょう。そして護衛艦の建造費は年々増大しています。もちろん、任務が高度化しているためではあるのですが、仮に予算縮減が護衛案定数削減に影響しているとすれば、あまり効果は無かったともいえます。
Img_7232 一方で、ちくご型護衛艦が除籍され、地方隊用護衛艦に、はつゆき型が充当され始めた時代には、可変深度ソナーや小回りのきく排水量など、沿岸での運用に用いる護衛艦には大型護衛艦とは異なる運用特性とそれに応じた搭載装備体系がある、というOBの声を聴いたことがあります。これと併せて、ということ。
Timg_3520 もちろん、防衛費に上限があることは承知しているのですが、それでも我が国周辺の緊張状態と艦船動向の活性化、どう考えればいいのでしょうか。有事の際に、一個護衛隊群を機動運用させ、もう一個護衛隊群を即応待機、その他の稼働艦艇を以て周辺地域の警戒を維持する、という運用は可能なのでしょうか。
Timg_6849 護衛艦は充分、という主張は上記の通り周辺国海軍が活性化していることから難しいのです。もっとも、現在の我が国の財政状況では、仮に護衛艦定数を1995年防衛大綱の水準へ現在の48隻から54隻、約50隻という定数の最大限まで当時頑張っていたのですが、強化するとして6隻必要となります、六年間で整備するとして一隻当たりどの程度の予算を掛けることが出来るのか、即ちまともな水上戦闘艦となりうるのか、これが疑問であるという立場には否定はできません。
Timg_6098_1 予算上限を区切って建造することは、という視点で、デンマーク海軍のニールスユール級コルベット、海上自衛隊の護衛艦いしかり、とよく比較される非常に形状のよく似た水上戦闘艦ですが、こちらは海峡防衛に能力を絞り、1973年に3隻1億5000万クローネでの建造を要求しました。その後石油危機によりインフレ率が大きくなったことで一旦延期され、1978年に3隻2億500万クローネへ改められていますが、インフレ率を考えればかなり削られています。近海用の場合はこうした上限を、明確化し建造、という方式は検討すべきではないでしょうか。
Timg_7388 はつゆき型護衛艦を延命し、練習艦所要を順次護衛艦へ再就役させ、残る10隻と護衛艦あさぎり型8隻を維持、護衛艦隊護衛隊群所要の汎用護衛艦必要数は20隻なので、現在運用されている、むらさめ型9隻、たかなみ型5隻、あきづき型1隻の15隻とともに、あきづき型が更に3隻建造されるため、一応16隻を護衛隊群以外の運用に使えることは確かなのですが、はつゆき型の延命改修にも限界があることが認めなければならないでしょう。
Timg_2921 他方で、護衛艦隊護衛隊群の護衛艦所要数は、ヘリコプター搭載護衛艦及びイージス艦を含め32隻、護衛艦の耐用年数は通常で24年、延命改修を行って32年ですので、毎年1隻の建造が必要であり、護衛艦隊所要分だけで毎年建造する必要があります。地域配備分は現在の防衛大綱定数で加えて12隻になるのですが、12隻所用を大型護衛艦で建造した場合、かなりの負担になることも確か。
Timg_7159 それならば、もう少し小型の、そしてできる限り安価な水上戦闘艦、というものの模索が必要になってくると考えるわけです。言い換えれば、護衛艦隊には高価を理由として建造が4隻で終了する、あきづき型について、むらさめ型派生型の設計艦により護衛艦隊護衛隊群所要を充足させるに必要な5番艦と6番艦を主役させて、しかしその他の護衛艦は性能と排水量を我慢する、という方式はあっていいと考えます。
Timg_4151 しかし問題が一つあり、それは航続距離が低下するため、沿岸と近海警備用と銘打ったのですが、実際にそれ以上の距離を運用することが難しくなる、ということです。例えばイギリス海軍は1982年のフォークランド紛争において満載排水量3300tの21型フリゲイトが航続距離について風聞であるという深刻な問題に直面しました。
Img_8761 海上自衛隊は統合運用の観点から、ソマリア沖海賊対処任務のような外洋作戦であっても、近海用護衛艦が任務に対応する、と判断されるならば、派遣の可能性が出てくるのに対し、排水量を絞って艦艇の航続距離を低下させてしまってはこれが出来なくなる、ということ。海上自衛隊地方隊への一考察、という主題からは逸脱してしまうところですが、あれを採ればこれが成らず、難しい問題です。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (15)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする