北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ホルムズ海峡危機 米軍給油艦ラパバノック、ペルシャ湾で接近不審船銃撃 イランは反発

2012-07-17 23:26:34 | 国際・政治

◆自衛隊は海峡封鎖も視野にリムパック対機雷演習

 第二北大路機関へ掲載しましたが、米第五艦隊所属のヘンリーJカイザー級給油艦ラパハノックがアラブ首長国連邦沖のペルシャ湾で接近してきた不審船舶へ銃撃を行いました。

Himg_7113 米第五艦隊発表では16日アラブ首長国連邦沖で発生、AP通信によればこの銃撃により不審船で一名が死亡、三名が負傷したとのことです。イラン経済制裁に端を発しイランが海峡武力封鎖を示唆したホルムズ海峡危機が生起して以来、実際に火力が行使される事案は今回が初めてではないでしょうか。写真はヘンリーJカイザー級給油艦、佐世保で撮影したものです。AFP通信によれば、銃撃を受けたのはインド漁船で、警告を無視し接近したためですが、給油艦を貨物船と見間違えた可能性もあるやもしれません。

Himg_1164 アラブ首長国連邦はイランとはペルシャ湾を隔てて対岸にあります。米海軍はイランの経済制裁への反発として世界の重要な石油海上交通路ホルムズ海峡の海軍による封鎖示唆により発生したホルムズ海峡危機に際し、イギリス海軍のミサイル駆逐艦派遣に続いて原子力空母エイブラハムリンカーンを派遣して以来継続的に艦艇を派遣し、ペルシャ湾での警戒監視にあたっています。イラン海軍は小型戦闘艦艇と少数の潜水艦を中心といするもので、特にイラン海軍小型艦艇の挑発行動が続いていたことを背景に小型戦闘艇へ警戒が集まっていた、こうした状況下で発生しました。

Himg_4913 イラン政府は今回の事案に鋭く反応し、イラン外務省報道官は記者会見において我々はあらゆる手段を用いて外国軍を排除しペルシャ湾を防衛する、と発言。イランのサレヒ外相もイランはホルムズ海峡の安定と平和について翁関心と努力を払ってきている、としてアメリカ側を牽制しています。無論、ホルムズ海峡は国際海峡であり、ペルシャ湾沿岸はイラン以外にサウジアラビア、カタール、バーレーン、クウェート、アラブ首長国連邦、イラクの領海と接続水域があり、イランの領海ではありません。

Himg_6934 ただ、この海域への緊張が高まれば、我が国としても厳しい判断を迫られることになるでしょう。過去にはイランイラク戦争に際してタンカーへの無差別攻撃が示唆された際や、リビアの特務艦によるスエズ運河機雷敷設事案、湾岸戦争において石油依存度の高い我が国はペルシャ湾への海上自衛隊派遣を求められてきましたが、資金拠出を重視し、同時に原子力発電の重視による石油依存度低下を目指してきました。この方式が福島第一原子力発電所事故以降厳しくなっている、これを忘れてはならないでしょう。

Bimg_7132 そして本日、海上自衛隊は現在実施中のハワイ沖での環太平洋合同演習リムパック2012においてオーストラリア海軍との間で初の対機雷戦訓練を実施しました。リムパックへは海上自衛隊よりヘリコプター搭載護衛艦しらね、イージス艦みょうこう、掃海母艦ぶんご、P-3C哨戒機3機が派遣中です。今回は特に水中処分隊により、音波測定により発見された機雷を無力化するという運用が行われ、日豪間でのリムパック演習へ海上自衛隊が対機雷戦訓練を実施する、というのは初めてとのことです。

Bimg_6858 リムパックでの対機雷訓練は今回の事件とは直接無関係ですが、防衛省はホルムズ海峡危機に際して、イラン海軍が機雷封鎖などの強硬手段に出た場合への多国間対処の演練も演習目的に含まれる可能性がある、NHK報道に明示されていました。実際問題として、機雷は費用対効果においてかなり有用な装備、即ち敷設されたならば処理に大きな課題を突き付ける装備であり、ホルムズ海峡危機が機雷戦へ転換した場合を想定する必要性はあるのですが、兆候がわかりにくく、即応という概念あ自衛隊以外に政府にも突き付けられるところです。

Himg_7095 さて、今回何故給油艦は銃撃を行ったのでしょうか。これは過去のテロ事件の戦訓があります。米海軍の対応ですが、2000年10月12日のイージス艦コール爆破事件以来神経質になっています。写真は同型のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦。コール爆破事件とはイエメンのアデン港に停泊中のイージス艦へ不審な小型ボートが接近、自爆したことで12mもの破口が生じ、幸い艦の中枢部分は無事で沈没はしませんでしたが17名の乗員が死亡、修理に2003年まで要しました。

Himg_9132_1 この事件以降、米海軍はあらゆる艦艇へ機関銃の増設を行っています。横須賀基地での一般公開などでも艦橋部分や船体部分に12.7mm機関銃や25mm機関砲などが増設されており、機関銃は単装と連装などで六カ所から八カ所、それに左右両舷に機関砲が搭載されています。報道を見る限りでは警告を無視して接近したとのことですから、自爆攻撃を行うのか否か、接近船舶の意図は図れず、銃撃と報じられていますので決して射程が大きくない機関銃の射程内まで警告無視での接近し、これ対し射撃が加えられるのは致し方ないといえるやもしれません。

Himg_1430 イラン政府の対応により緊張が高まったホルムズ海峡危機ですが、現時点ではこの海峡への機雷封鎖など具体的行動に移される兆候はありません。具体的には緊張状態が高いまま長期間推移する可能性が高まっているということで、今後は偶発的衝突へも含め警戒を続ける必要があるでしょう。特に東日本大震災以降、我が国は戦後初めて原子力政策を開始して以来化石燃料へのエネルギー政策の結果的なものではありますが転換をおこなっています。

Bimg_7579 原子力政策からの脱却を図るも図らないも代替エネルギー確保の如何というものが論議の根幹を左右させる問題となりますので、特に後者への政策を実施する場合には世界各国が資源外交としてリスクの共有へ進んできた方式へ、参加することも求められるわけです。問題はイランの核開発に起因し経済制裁が行われたことがホルムズ海峡危機の発端ですが、核開発を進めるイランの石油輸出重要海峡封鎖示唆、因縁めいたものさえも感じるものですが、必要な措置はどうあるべきか、最悪の状況に備えつつ、何故か日本政府が放棄している外交努力も含め予防外交を進めなければなりません。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする