ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#082

2021-12-13 21:38:05 | 刑事ドラマ'70年代

いったん時を戻しましょう。前回レビューした『太陽にほえろ!』#442を「数あるGUNアクション編のベスト」って書きましたが、その原点を辿ってみると、まだレビューしてないこの作品に行き着きました。

これ以前にも銃撃戦はたくさん描かれて来たけど、銃に関する『太陽〜』独自のマニアックな視点が盛り込まれたのは、たぶんジーパン刑事(松田優作)時代のこれが最初。



☆第82話『最後の標的』

(1974.2.8.OA/脚本=長野洋/監督=高瀬昌弘)

屋外射撃場でジーパンがゴリさん(竜 雷太)と2人で抜き撃ちの練習をしていたところに、かつて本庁捜査一課の部屋長で現在は庶務課に勤め、引退を間近に控えた根来刑事(北村和夫)がひょっこり現れます。

「何を遊んでるんだ、西部劇じゃあるまいし」

「根来さん!」

急に背筋がピンとなるゴリさんだけど、ジーパンはピンと来ません。

「なんだお前、根来さんを知らんのか?」

根来は「拳銃の神様」と呼ばれるほどの名射撃手であり、警察学校では教官としてゴリさんに射撃のイロハを教えたという。そのゴリさんが今や警視庁きっての名射撃手ですから、そりゃ根来は生けるレジェンド、神様みたいなもんです。



だけどジーパンは気に入りません。

「遊びってのはどういう意味ですか?」

本来、拳銃が大嫌いだったジーパンにとって射撃練習は決して楽しいもんじゃない。

しかも、ジーパンはつい最近の事件(#076)でまだ若い容疑者をやむなく射殺し、その妹(北原和美、今回の冒頭にも登場)から「人殺し」呼ばわりされたばかり。二度とそんな思いはしたくない、つまり二度と犯人を射殺しなくて済むよう、肩を狙って撃つ練習を一生懸命やってたのに!

だけど戦中派の根来からすればちゃんちゃら甘い、心臓を狙わなきゃ意味が無いってワケです。

「凶悪犯の中にはプロと云われる連中もいる。そんなヤツらと対決する場合、一瞬の抜き撃ちで勝負が決まる時もある。肩だけ狙うなんてやり方で勝てると思ってるのか?」

「しかし、そんなことは滅多に無いでしょ?」

「無いと言い切れるか? 一度でもあったらもうキミの命は無いんだぞ?」

「…………」

「ヤツらプロにとって最高の標的は生きた人間だ。キミ自身がその的になりたくなければ、腕を磨いて1発で仕留めることだな」

「…………」

こないだエアガンのシューティング・フィールドで私に事細かく指導してくれた鬼軍曹……じゃなくてオーナーを思い出しましたw 戦場においては確かにそうかも知れないけど、警察学校の元教官が言うセリフとしてはちょっと……いや、相当ヤバいですよねw

ふだん拳銃に弾丸をこめない主義のゴリさんが崇拝するような人物とは思えないけど、どうやら教官を退いてから現在に至るまでの間に色々あったみたいです。



ともかく根来に誘われ、拳銃の神様と並んでハイパトを撃つ羽目になったジーパンだけど、その腕前は「まるで大人と子供だな」とゴリさんに言わしめるレベル。

だけど根来はそれよりも、頑なにマン・ターゲットの肩ばかり狙うジーパンが気に食わないご様子。

「何やってる、撃つなら急所を狙って撃て!」

「オレたちが射撃練習するのは人殺しが目的じゃありませんよ!」

「いざ撃ち合いになった時、相手はバカみたいに突っ立ってやしないんだぞ? そんな甘い考えで倒せると思ってるのか!」

これぞ本物のマッドポリス! そりゃ庶務課に追いやられたワケですw



さて、その数日後、ルガーP08という渋いオートマチック拳銃を使った狙撃事件が連続して発生し、遠距離から1発で仕留めるその腕前から犯人は射撃の「プロ」だろうと見た藤堂チームは、極秘リストを元に殺し屋を片っ端から当たって行きます。(そんなリストがあるならなぜ全員逮捕しない!?)

が、どうやら今回の事件には誰も関わってない。面倒くさいから先に結論を書きます。皆さんお察しの通り、犯人は「拳銃の神様」こと根来。引退を迎え民間人に戻った根来は、刑事時代に裁けなかった犯罪者たちの処刑をおっ始めたのでした。

この時点じゃまだ正体不明だけど、とにかく射撃のプロが相手ってことで、ボス(石原裕次郎)は捜査一係メンバー全員に拳銃の常時携帯を命じます。



拳銃を渡されて浮かない顔のジーパンに、同僚で後に婚約者となるシンコ(関根恵子)が言いました。

「まだあのことを気にしてるのね?」

「……たとえ相手がどんなヤツでもな、生身の人間を殺した者にしかこの気持ちは解らないよ」

いつも悪党は問答無用でぶっ殺せ!とか書いてるけど、もし実際に殺しちゃったら、そりゃあ私だってとてつもない罪悪感を一生背負うでしょうから、ジーパンの気持ちはよく解ります。

なにせジーパンは初めての射殺を経験したばかり。その葛藤を(数話またいで)ここまで丁寧に描く『太陽にほえろ!』って、やっぱつくづく「青春ドラマ」なんですよね。



さて、なんだかんだあり、ジーパンは根来から射撃の猛レッスンを受けることになります。恐らくジーパンは根来が犯人であることを察したから。そして根来は根来でジーパンといずれ対決することになると予測し、対等に撃ち合えるよう鍛えておきたい気持ちが芽生えたんでしょう。

けど、根来がいくら心臓を狙えと教えても、ジーパンは頑として肩しか狙いません。

「本当に強情なヤツだな、貴様は」

苦笑しつつも根来は、なんだかジーパンのことが気に入って来たようで、自宅に招いてメシをご馳走します。

そこでジーパンは根来が過去に愛用して来た拳銃のコレクション(ただし写真)を見せてもらい、その中にルガーP08が含まれてること、そして「SWミリタリーポリス22口径」という命中精度バツグンのリボルバーが、今も本庁の銃器庫に保管されてることを知るのでした。

「これなら、いくら下手くそなオレだって……」



で、後日。かつて汚職を尽くした元警察幹部を根来が殺しに向かってると察したジーパンは、例のミリタリーポリス22口径を銃器庫から無許可で持ち出し、いよいよ「拳銃の神様」と対決します。



画像じゃよく判んないけど、ジーパンはちゃんと22口径の極細カートリッジ(弾丸)をシリンダー(弾倉)に込めてます。

このプロップ銃はMGCモデルガンのハイパト(38口径) をカスタムした物。つまりシリンダーまで22口径用に造り直してあるワケで、テレビ映画でここまで手の込んだプロップは滅多にお目にかかれるもんじゃありません。『太陽にほえろ!』って、なにげにマニアックな番組なんですよね。



さあ、クライマックス。林の中でジーパンは根来と対決します。

「そこで大人しくしてろ! オレが最後の標的を撃ち落とすまではな!」

「最後? どういう意味だっ!?」

実は根来は癌に冒され、余命宣告を受けていたのでした。ガーン!(昭和ギャグ)



壮絶な撃ち合いの末に相手を仕留めたのは、ジーパンの方でした。もちろん、狙ったのは根来の肩。もしミリタリーポリス22口径でなければ急所に当ててしまったかも知れません。

「お前の勝ちだ……おい、オレを殺してくれ。頼むよ。オレにはベッドの上で安らかに死ねる権利は無いんだ」

「……オレはあんたを、病院に連れて行く」

根来はもしかすると、初めてジーパンと出逢った時から「最期はこいつに撃たれて死のう」と決めてたのかも知れません。だからしつこく「心臓を狙え」って……



数日経って、ジーパンはボスから根来の訃報を聞かされます。ジーパンに撃たれたからじゃなく、すでに末期まで進んでた癌による病死でした。

「根来は、ベッドの上で死ねるのを喜んでたそうだ」

そしてボスは、本庁から正式に許可を得て貰い受けた、アレをジーパンに渡します。

「行って来い。根来の供養にもなる」

「はい」

ジーパンが向かった先はもちろん、いつもの射撃訓練場。これから殉職するまで愛用することになるミリタリーポリス22口径で、相変わらずマン・ターゲットの肩を撃ち抜くジーパン刑事なのでした。



拳銃を持つことを拒否し、ゴリさんを激怒させて始まったジーパン刑事の成長ストーリー。自分が丸腰だったせいでシンコが撃たれ、初めて自らの意志で拳銃を手にした事件、そして初めて犯人を射殺した事件を経て今回、師匠と対決し、勝利したことでジーパンはほぼ刑事として完成されたように思います。

こうして振り返ると、ジーパンはゴリさん以上に、拳銃とは切っても切れない関係のキャラクターですよね。誰も殺したくないっていう気持ちはゴリさんより強いかも知れません。

その割に殉職編では暴力団員たちを豪快に射殺しまくってたけどw そりゃチーフプロデューサーの岡田さんが激怒するワケです。こんなに丁寧に育てたキャラクターが台無しやん!って話ですから。

それで天罰が下ってジーパンは殺された、と解釈するしかありませんw



ところで、任期2年目になって欠場することが増えたシンコ=関根恵子さんだけど、今回はしっかりご登場。庶務係の久美ちゃん(青木英美)とWヒロインで花を添えてくれました。

藤堂チームに女性レギュラーが2人いるのは『太陽にほえろ!』の長い歴史の中でも、このジーパン期だけ。しかも2人ともミニスカート!

後のアッコやナーコ、そしてマミー刑事にはイマイチ色気が……でしたからw、そういう面でもジーパン期はスペシャルな感じがします。この当時はまだ、刑事ドラマはどちらかと言えば男の子向けだったんですよね。



 

コメント (7)
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