ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『太陽にほえろ!』#442

2021-12-11 00:38:51 | 刑事ドラマ'80年代

これはマジで傑作です。数ある『太陽にほえろ!』GUNアクション編の中でも、私はこれがBEST1じゃないかと思ってます。

このエピソードのどこがそんなに優れてるのか、具体的に検証しながらレビューしたいと思います。



☆第442話『引金に指はかけない』

(1981.1.30.OA/脚本=小川英&土屋斗紀雄/監督=鈴木一平)

スニーカー(山下真司)が非番の日、妹から頼まれて預金に行った銀行で、強盗事件に出くわしちゃいます。賊は覆面を被った3人の男で、そのうち2人は拳銃、1人はライフルを所持しており、対して非番のスニーカーは丸腰なもんで手が出せません。

ところが、よく見ると拳銃を持ったヤツは(暴発を避けるため)引金に指をかけてない。チャンス!とばかりに飛びかかったスニーカーだけど、あえなくライフル男に頭を殴られて卒倒!

しかもそのライフル男、現金を奪って目的は果たしたというのに、貸付課長の山口(山中康司)をわざわざ射殺して逃走しちゃう。

スニーカーが目撃した以上の事柄を踏まえ、藤堂チームは山口課長に恨みを持つ人間を洗い出すことから始めるんだけど、そこからは何も浮かばず捜査は難航し……

先に結論を書きます。ライフル男の正体は、山口課長とはいっさい関わりの無い片桐竜次だった! じゃあ、なぜ片桐竜次は、何の恨みも無い山口課長をわざわざ殺したのか?

その答えは、全く無関係な相手を殺すことで捜査を撹乱させる為。なんちゅー非道かつ冷酷で狡猾な輩なんだ片桐竜次! 強盗仲間は無意味な殺生をしないよう引金に指をかけてなかったのに!



しかも片桐竜次は、奪った金を独り占めする為、強盗仲間を2人とも殺しちゃうんだけど、1人は車でわざわざニ度轢きし、もう1人はナイフで何十箇所も刺して息の根を止めるという残忍さ。

それだけでも充分異常なのに、片桐竜次はさらに、仲間から奪った拳銃で現場近くにいた野良犬まで射殺してしまう!

本エピソードの素晴らしい点、その1。この血も涙もない片桐竜次の徹底した殺人マシーンぶり! つまりどんな相手でも躊躇なく殺しちゃうヤツが敵だから、俄然アクションに緊張感が生まれる。

しかも、片桐竜次がなぜそんなマシーンになって、わざわざ犬まで殺しちゃうのか、ちゃんとした理由が設定されてる点もまた素晴らしい! 裏付けがあることでリアリティーが生まれ、それが更に緊張感を増してくれるワケです。さて、その理由とは一体何なのか?



ここで中盤の見せ場。検問に引っ掛かった片桐竜次が警官を射殺して車で逃走、いち早く駆けつけたスニーカーとドック(神田正輝)の覆面パトカーが追跡します。



そしてハンドル操作を誤った片桐竜次の車が横転! しぶとくライフルを持って逃走する竜次を追ってドックとスニーカーが激走!



ここで片桐竜次が再びやらかします。なんと、通りがかりの老人にライフルの銃弾を浴びせ、刑事たちがそっちに気を取られたスキに逃げるという鬼畜ぶり!



だけどスニーカーも負けてません。100メートルくらい先を走る片桐竜次に狙いを定め、愛銃COLTパイソン357マグナムを発砲! 見事、竜次の左腕に傷を負わせます。



利き腕の右なら尚よかったけど、4インチのリボルバーでこの距離なら当たっただけでも奇跡でしょう。ただしボス(石原裕次郎)はかつて、飛行中で激揺れのヘリコプターから、300メートルぐらい先の山小屋に立て籠もる清水健太郎の眉間を1発で、しかもパイソンより命中精度が低そうなローマン4インチで撃ち抜いたけどw



残念ながら片桐竜次を見失ったスニーカーだけど、ヤツに傷を負わせた事が後に、捕獲へと繋がる大きな役目を果たす事になります。

それはなぜか? 藤堂チームの捜査により、片桐竜次は「RHマイナスAB型」という、かなりレアな血液型の持ち主だった事が判明。そしてその血液型こそが、竜次を鬼畜たらしめた大きな要因だった!

つまり、あまりにレアな血液型ゆえ、もし出血多量の重傷を負った時、すぐに輸血が出来ないかも知れない。だから竜次は野良犬まで射殺したワケです。もし咬まれて出血したら生命に関わるかも知れないから。そして……

「不利なハンデを背負わされた自分には、人間も犬も殺す権利がある」

それが平気で人を殺せる理由だろうと刑事たちは推理するのでした。

「冗談じゃない! 誰だって色んなハンデを背負って生きてるんだ!」

怒るスニーカーにボスが言います。

「喚いてるヒマがあったら、ヤツの行動の先を読め」

そう、スニーカーが放った弾丸により傷を負った片桐竜次は今、それがかすり傷だとしても生命の危機を感じてる筈。必ず病院に輸血を頼みに行くに違いない!



他人の生命は平気で奪うクセに、自分が死ぬのは怖くてたまらない超自己チュー人間、その名は片桐竜次! 一晩ガマンはしたものの、朝になってたまらず町医者に駆け込み、ライフルで脅して輸血を強要。もちろん血液センターにRHマイナスAB型の血液が要請され、そこに網を張ってた藤堂チームが町医者へ急行!

本エピソードの素晴らしい点、その2。謎解きは手際よく前半で済ませ、ここからラストまで怒涛の追跡劇をノンストップで見せる、このシンプルさ! もちろん、理由その1(リアリティーと緊張感)のお膳立てがあればこそシンプルでいられるワケです。

さあ、ここから『太陽にほえろ!』史上……いや、日本のアクションドラマ史上屈指とも言える追跡&銃撃シーンが展開されます。



本エピソードの素晴らしい点、その3。片桐竜次という名の狂犬を閑静な住宅街へ逃げ込ませるというシチュエーション設定の秀逸さ!

これが繁華街ならすぐパニックが起きてメチャクチャになるけど、昼下がりの住宅街だと人もまばらだし、誰も平和な町でライフルを持った片桐竜次が眼を血走らせながら向かって来るとは夢にも思わない!

しかも当時は、まだ子供たちが公園や道端で(親がついてなくても)ふつうに遊べた時代。自分が逃げ切る為なら通りがかりの老人でも平気で撃っちゃう狂犬が、もし子供や買い物帰りの主婦を見つけてしまったら……!

つまり刑事たちは、ただ犯人を追うだけじゃなく、出くわしてしまった全ての市民をライフルの凶弾から守らないといけない。その緊張感たるや! これぞ本物のスリルとサスペンス!

そして本エピソードの素晴らしい点、その4。臨場感満点のカメラワーク! 例えばこの、片桐竜次を追って激走するスニーカー、ドック、ロッキー(木之元 亮)を、ゴリさん(竜 雷太)が覆面パトカーで追い抜いて行くシーン。



カメラはわざわざ、走る刑事たちを車内から、運転するゴリさん越しに捉えるんですよね! こういう撮影はすごく手間がかかるんだけど、このカットがあるのと無いのとじゃ我々視聴者が味わうライブ感が全然違って来る。

直後に展開する銃撃戦も、鈴木一平監督はものすごく丁寧に演出されてるんですよね。タイトなスケジュールゆえ常に時間に追われてるTVドラマの撮影で、この丁寧さは異常とも言えるかも? 素晴らし過ぎる!



片桐竜次は通りがかりの親子連れや新聞配達員を狙ってライフルを乱射しつつ、だだっ広い駐車場を抜け、遊園地の跡地へと逃げ込みます。

刑事たちもそのつど市民をガードしながら、鉄壁のチームワークで何とか食らいつき、いよいよ壁際まで竜次を追い詰めます。



この場面も、片桐竜次と刑事たちの位置関係がよく判るよう、あらゆるアングルからカットを重ね、実に丁寧に撮影されてます。それが臨場感を生むんですよね!

他のアクションドラマ、例えば『西部警察』の銃撃戦シーンを観ると、やたら銃をぶっ放す刑事や悪党たちのバストショット(寄りの画)ばかり続いて、誰が誰を狙って撃ってるのか全然判んないから凄い大雑把に感じちゃう。

黒澤明監督の『七人の侍』がアクション映画の教科書みたいに云われるのは、戦いが始まる前の作戦会議シーンで、わざわざ見取り図を使って戦場の地形や敵・味方の配置を我々観客に把握させたりする丁寧さがあったから、だと思うんですよね。

昨今のアクション映画って、スピードと勢いだけは凄いんだけど、画面で何が起こってるのかよく判んないことが多いですよね? 演出が雑なんですよ!

その点『太陽にほえろ!』のアクション演出はすごく丁寧。必ず引きの画を入れて人物の位置関係を我々に把握させてくれる。それが臨場感を生むワケです。



閑話休題、いよいよクライマックス! せっかく片桐竜次を追い詰めたところでタイミング悪く、小学生の子供2人が何も知らずに遊びに来てしまう! それを竜次が目ざとく見つけてしまった! あかん、絶対殺される!!

「オレが行きますっ!!」



スニーカーが飛び出し、ロッキーとドックが援護射撃! 

ここで鈴木監督は、S&W M59を連射するドックを右サイドから、つまりオートマチック拳銃がブローバックして空薬莢を排出する様が一番よく見えるアングルから据え、しかもドック越しに走るスニーカーとゴリさんまでワンショットで見せてくれる! こんなのTVドラマで観たこと無い!

もはや丁寧を飛び超えマニアックとも言える演出で、これは恐らく相当なガンマニアであろう神田正輝さんの提案が活かされたと推察します。

そもそも当時はまだ、テレビのアクション物で使うプロップGUN(小道具のピストル)は電気発火が主流で、ブローバックが見られること自体が珍しかった時代。MGCモデルガンのM59が快調に動いてくれたお陰もあるにせよ、これはホントに画期的な演出だったと思います。素晴らしい!



さて、再び閑話休題。お互いの銃口が触れ合う距離まで片桐竜次に迫ったスニーカーは、決死の覚悟でこう言います。

「撃つなら撃て。お前が撃てばオレも撃つ!」



「オレは死なんかも知れん。すぐに輸血が出来るからな。しかしお前は確実に死ぬぞ」



『ダーティハリー』1作目の犯人=スコルピオンは本物のサイコパスだったから、似たようなシチュエーションでハリー刑事を撃とうとし、マグナム44であえなくぶっ殺されたけど、しょせん片桐竜次は死ぬのが何より怖いフツーの人間でした。あっさりライフルを捨て、毛むくじゃらの刑事に手錠を掛けられます。

やれやれ、何とか死人を出さずに済んだ……安堵したゴリさんが、ふとスニーカーを見て驚きます。



彼が構えるCOLTパイソンの引金には、指がかかっていませんでした。

「スニーカー……」

「……殺したくなかったんです」

ちょっと前の事件で初めて犯人を射殺したトラウマもあろうけど、スニーカーはきっと片桐竜次も「人間」であると信じたんでしょう。



このエピソードだけは何回観ても飽きません。こんな話をもっともっと創って欲しかった! 銃弾1発を極めて重く扱う『太陽にほえろ!』ならではの傑作だと思います。

ただ1つだけ残念なのは、あの緊迫した銃撃戦においてあのゴリさんが、なぜか最後まで拳銃を抜かなかったこと。これは不自然!

警視庁屈指の射撃の名手であるゴリさんが銃を抜いたらすぐに解決しちゃうから? あるいはゴリさん用のプロップGUNを小道具さんが忘れちゃったとか?

なんにせよ、ゴリさんがこの時だけ銃を使えない理由を設定して欲しかったです。途中で左腕を撃たれちゃったけど、だったら利き腕の右にしとけば明快な理由になり得たのに! ホントここだけはよく解んない。なぜ!?

まあ、そんな些末なことがすこぶる残念に思えるくらい、作品のクオリティーが抜群に高かったって事です。スニーカー刑事は不遇なキャラだと云われがちだけど、このエピソードで主役を張れただけでも充分報われたんじゃないでしょうか?
 

コメント (2)
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