ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『モールス』

2020-10-12 00:15:59 | 外国映画










 
2010年に公開された、マット・リーヴス監督によるアメリカ映画。先日レビューしたスウェーデン映画『ぼくのエリ/200歳の少女』のハリウッド版リメイクで、主人公の少年=オーウェンをコディ・スミット=マクフィーが、そしてバンパイア少女(?)のアビーをクロエ・グレース・モレッツが演じてます。

原題の『Let Me In』は劇中でアビーが何度も口にする「入れて」っていう言葉を指します。と言っても皆さんが想像する「ああ~欲しい、早く入れて!」なんていうエッチな意味じゃなく、「部屋の中に入れて」ってことです。私は知らなかったんだけど吸血鬼は「入っていいよ」って言葉を聞かないと部屋に入れないっていうルールがあるんですね。

邦題の『モールス』は部屋が隣どうしのオーウェンとアビーが壁を叩いて会話するから、つまりモールス信号を指してるんだけど、そこに重要な意味があるワケじゃありません。ついでに言えばオリジナル版の邦題にある『200歳の少女』ってのも大嘘! この件については後ほど書かせて頂きます。

さて今回の『モールス』ですが、びっくりするほど『ぼくのエリ』に忠実でした。お陰で粗筋を書く手間が省けましたw

オリジナルの公開から2年しか経ってないのにほとんど同じ内容の映画を創ることに意味があるの?って思うんだけど、アメリカ人の多くは英語の(つまり字幕が要らない)映画しか観ないそうなので、他国の素晴らしい作品を自国民に紹介する為には意義があるんだろうと思います。

吹替えっていう手もあるんだけど、知らない外国人俳優より自国のスターが出てる方がとっつき易いってのもあるし、実際『モールス』は『ぼくのエリ』とは比較にならないほど莫大な観客動員数を稼いだみたいです。

なにせ前年『キック・アス』で世界中の注目を集めたクロエ・グレース・モレッツ主演だし、実際彼女の演技も存在感も文句なしの素晴らしさで、もうそれだけで鑑賞料にお釣りとお得なポイントまで付いて来ます。

また、監督のマット・リーヴスさんが『ぼくのエリ』を超リスペクトされてるそうなので、エゴを捨ててあえて忠実に再現することに尽力されたことも想像できます。それはそれで素晴らしいことです。

けど、それにしては、なんでそこ、そうしちゃったの?って思う箇所がいくつかありました。以下、重要なネタバレを伴いますのでご注意を。




まず「あれ?」って思ったのは、オリジナル版『ぼくのエリ』に日本の映倫がボカシを入れやがった、例のシーン。主人公のオスカー少年が、エリの着替えを覗いて局部をガン見しちゃう場面です。

これ、『ぼくのエリ』のレビューを書いた後で調べてみました。あのボカシの向こう側には、去勢手術の傷跡がはっきり写ってるんだそうです。つまり本来、エリは男の子だった。原作小説には去勢された理由も示されてるんだけど、それとエリがバンパイアであることに直接の関係は無いみたいです。

だから、ハリウッドのメジャー映画で、しかも売り出し中のクロエちゃんに、CGか何かで処理するにせよそんな事やらせるだろうか? たぶん無理でしょ? 中途半端にやる位ならそんな場面、You、いっそカットしちゃいなよ!って、私は思ってました。

だけど『モールス』にもその場面はしっかりありました。ただしクロエちゃんの着替えはいっさい見せず、覗き見するオーウェン少年の顔だけを映すという、まさに中途半端な処理の仕方。

しかも、その時のオーウェン少年が、なぜか驚いた様子も見せず、ただ神妙そうな顔をするだけなんですよね! 一体なぜ? どういうこと?

彼がそこで何を見たのか、先に知ってる私が観ても分からないのに、知らない観客が観ても分かるハズがない! だったらそんなシーン要らんやん! だからYou、カットしちゃいなよ!ってあれほど言ったのに!って、私は思いました。

そもそも、エリ(あるいはアビー)が去勢された元男子っていう設定自体、必要なの?って私は思っちゃう。セックスがあり得ない「純愛」を強調したいなら、相手がバンパイアってことだけで充分ちゃうの?って。

エリ(あるいはアビー)はそんな残酷な時代も生きて来たんだって言いたいのかも知れないけど、いずれにせよそれはハッキリ見せなきゃ何も伝わらない。この場面はホント要らないと思う。

そしてもう1つはクライマックス、いじめっ子たちに殺されそうになったオーウェンが、アビーに救われる場面。

オリジナル版ではエリは目元しか映さず、ハリウッド版ではアビーをいっさい映さないという処理。それはどっちでもいいと思うんだけど、問題は主人公側の表情です。オリジナル版のオスカーは満面の笑顔を見せたのに対して、ハリウッド版のオーウェンはこれまた神妙なんですよね! 微妙に笑ってはいるけど、全然嬉しそうに見えない。一体なぜ? どういうこと?

目の前でクラスメイトたちが惨殺されてるのに満面の笑顔はマズイだろうっていう配慮? 「やられたら倍返し」はハリウッド映画の十八番なのに? 千倍返しだ!

あるいは、アビーと一緒に生きていくのは修羅の道であることを暗示してる? そう言えばこの『モールス』には、彼女(?)に尽くし続けて悲惨な末路を辿るオジサンが、主人公の未来の姿であることを『ぼくのエリ』よりも明確に示す描写がありました。

だけど、まだ12歳の子供なんだし、ここはもっと無邪気に反応しても良いんじゃないですか? 『ぼくのエリ』はオスカーが本当に幸せそうな笑顔を見せるからこそ、より切ない余韻が残って深い映画になったと私は思うのですが……

まぁしかし、そうした疑問や不満は先に『ぼくのエリ』を観たからこそ沸いて来るもんで、リメイクの宿命かも知れません。オリジナル版を知らずに観たら、もっと素直に楽しめただろうと思います。とにかくクロエちゃんが素晴らしいですから。

でも、それを差し引いても、リメイク版はトーンが暗かった。ホラー映画好きにはその方が良かったかも知れないけど、私は無邪気な明るさがあったオリジナル版の方が好きです。その方が絶対、切なさも活きてくると思うから。

PS. もし日本でリメイクするなら『ヒノキオ』の頃の多部ちゃんで観たいです。
 

コメント (2)
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