生涯いちエンジニアを目指して、ついに半老人になってしまいました。

その場考学研究所:ボーイング777のエンジンの国際開発のチーフエンジニアの眼をとおして技術のあり方の疑問を解きます

メタエンジニアの眼シリーズ(116)「ナチスの発明」 

2019年03月24日 09時46分44秒 | メタエンジニアの眼
メタエンジニアの眼シリーズ(116)                                 TITLE:ナチスの発明

書籍名;「ナチスの発明」 [2006] 
著者;武田知弘 発行所;彩図社
発行日;2006.12.25
初回作成日;H31.3.18 最終改定日;H31.24
引用先;文化の文明化プロセス

このシリーズは経営の進化を考える際に参考にした著作の紹介です。



 書籍の帯には次のようにある。「知られざるナチスの姿、あの世紀の発明品 開発したのはナチスだった」。
 第2次世界大戦中に、ロケットとジェット機を発明し実用化したのは有名だが、そのほかにも驚くほどの発明をしていた。それらは、発明というよりは社会イノベーションといったほうが妥当に思える。ざっと数えて30以上ある。なぜ、それ程の数のイノベーションを同時におこすことができたのかを考えるのが、メタエンジニアリングなのだが、まずはその内容を本書で探ってみる。順番は、目次に沿って記す。

・イノベーション1;コンサート技術
 ヒトラーの演説の手法は、「政治の演説ではなく、入念に計画されたショーである」と言われた。穏やかな口調で始まり、次第に熱が入り、聴衆を含めて感情のコントロールができないほどに盛り上げる手法は、その後のロックスターのショーに応用された。

・イノベーション2;標準化された高速道路
 総延長4000kmのアウトバーンを統一規格で作った。道幅7mで大型車が高速で走れる、5mの中央分離帯、長い直線を造らない、サービスエリア、緊急時の電話設備を作るなど。失業対策と言われている。現在でも、日本では景気対策に使われている。

・イノベーション3;オリンピックの開催方法
 1936年のベルリンでのオリンピックについては、いろいろな批判もあるが、斬新なことも多く行われた。大規模なメインスタジアム、テレビ中継、街頭テレビ、記録映画、選手村、外国人訪問者の鉄道運賃60%割引とホテルあっせんのための添乗員の乗車、などなど。

・イノベーション4;聖火リレー
そして、ギリシャのオリンピア発の聖火リレーも、この時から始まった。各界の有名人3000人の選定。風雨に耐える聖火用トーチの開発。ブルガリア、ユーゴスラビア、ハンガリー、オーストリア、チェコスロバキアを廻った。

・イノベーション5;爆弾を搭載したロケット
 ミサイルの前身になる、爆弾を搭載したロケット「V2」を開発。マッハ2の飛行速度は、当時感知も防御も不可能だった。ロケット発射台はトラックで移動でき、10分で発射可能になるので、発車場所も確定されなかった。

・イノベーション6;大気圏外の飛行体
 フォンブラウン・チームが宇宙ロケットを開発、当初ヒトラーは兵器には使えないと考えていたが、実験成功により、爆撃用ミサイルの開発に専念させた。最初のロケットがロンドンに着弾した時の発言は、「ロケットは完璧に動作したが、間違った惑星に着地した」だった。

・イノベーション7;ジェット機
 ヴェルサイユ条約で戦闘機の開発を制限されたので、ジェットエンジンの開発に注力し、ついにジェット機を開発した。当初は爆撃機だったが、特徴を生かすために戦闘機に改造した。当時は、飛行時間は1時間、エンジン寿命は50時間、操縦が難しいなどの多くの難点があった。

・イノベーション8;一般向けのテレビ放送
 1935年に一般向けのテレビ定時放送を始めた。また、全国にテレビホールを設置、安価なテレビも開発した。番組は、ナチスの政治宣伝だけではなく、娯楽番組に、映画、料理番組までも放送した。

・イノベーション9;公衆テレビ電話の普及
 当時の見本市会場の目玉として開発し、自動車への取り付けも試みられた。

・イノベーション10;全国的なラジオの普及
 安価なラジオ「国民受信機301」を開発し、普及させた。また、当時有料だった受信料を無料化した。政治宣伝ばかりでなく、ベルリン・フルハーモニーの演奏も放送した。

・イノベーション11;人造石油の開発
 石油が採れないドイツの弱点の補強のため、石炭から石油を抽出した。アメリカの石油会社の役員が「人造石油は、世界の石油市場を脅かすようになる」と本社に報告したほどの勢いだった。実際、ドイツ国内では、天然よりも人造石油量が多かった。

・イノベーション12;アルコール燃料の開発
 ジャガイモからエタノールをつくる技術を開発し、実用化した。戦争を継続するのに必要な燃料を、輸入が制限されても確保可能な準備を整えたことになる。

・イノベーション13;アルミ合金の活用
 1907年にドイツで発明されたジュラルミンは、当時活用がされなかったが、ジュラルミンの大量生産設備を作り、航空機、戦車、飛行船に用いて、性能を飛躍的に向上させることができた。

・イノベーション14;磁気テープのテープレコーダー
 当時の録音はエジソンの蓄音機だったが、紙に鉄粉を塗る磁気テープを発明し、現在のテープレコーダーの原型を作った。この発明は秘密にされており、連合軍側は、繰り返し行われる演奏や演説を生放送として受け取っていた。

・イノベーション15;合成ゴムの発明
 物資不足から、化学工業の発展に力を注ぎ、合成ゴムを発明し、実用化した。

・イノベーション16;合成繊維の実用化
 合成繊維も、1913年に発明されていたが、実用化はされていなかった。ナチスは経済再建計画の中で注力して、重要な輸出品にした。また、ドイツ人の衣服としても合成繊維「スフ」の多用を勧めた。

・イノベーション17;ヘリコプター飛行の成功
 一人乗りのヘリコプターを開発し、滞空時間1時間、高度2000mを達成した。3年後には、6人乗りを開発し、100km飛行に成功した。

・イノベーション18;電子顕微鏡の改良と実用化
 1931年に17倍を実現、1933年に12000倍を実現して、光学顕微鏡を抜いた。それを用いて、人類初のウイルスの撮影に成功、ナノテクノロジーの先鞭を作った。

・イノベーション19;世界初の汎用コンピューターを開発した
 1942年に開発のための会社を立ち上げて、製造に成功した。しかし、本格的な運用には時間がなく、戦後19461年に特許をIBMに売却した。

・イノベーション20;コンピューター用のパンチカードの実用化
 パンチカードの設計、印刷、製造設備を整えて、実用化した。同時に、カードの読み取り機も普及させた。

・イノベーション21;リニア・モーターカーの発明
 磁気浮揚の研究がすすめられ、1933年に、「磁力により線路上に浮上・案内走行する車輪を用いない車両による浮上鉄道」の特許が承認された。続いて、全長20kmの実験線が作られたが、途中で終戦になってしまった。

・イノベーション22;労働者の長期休暇制度を始めた
 「学生に夏休みが与えられるように、労働者にも夏休みを与える」との政策を実行した。更に、そのための娯楽システムも構築した。また、労働者が買うことのできる価格のフォルクスワーゲン車を開発した。

・イノベーション23;格安パック旅行の販売
 さらに、労働者の長期休暇の過ごし方として、格安パック旅行の販売システムを構築した。一例では、アルプスの観光地での10日間3食付きで、炭鉱夫5日分の賃金価格だった。

・イノベーション24;テーマパークの開催
 ナチスの党大会は、現在のテーマパークと同じような環境とプログラムで行われた。例えば、花火や、様々なショー、少女たちの仮想行列なども行われた。

・イノベーション25;出産した母親への保養制度の制定
 一定期間滞在できる出産した母親専用の保養施設を作り、運用した。保養施設には、母親だけが入所し、その間赤ん坊は家事援助のシステムで養育された。年間5万人が利用した記録がある。

・イノベーション26;癌対策の実施
 化学工業の普及などにより、癌患者が急増したために、癌対策の研究に注力した。X線による白血病、タバコの煙の害、紫外線による皮膚がん、アスベスト公害などを原因として突き止めた。

・イノベーション27;扶養家族向けの減税の実施
 低所得者向けの減税を講じ、扶養家族の多い人の税額を下げた。世界初の試みだった。

・イノベーション28;財形貯蓄の奨励
 給料の定期積立に対して、利子を無税とした。満期までは引き出せなかったが、所得税の対象外で、400万人が参加した。当時の目的は、過度な消費による輸入の増加を防ぐためだった。

・イノベーション29;ワンダーフォーゲル運動の普及
 自然への回帰活動の一環としての、ワンダーフォーゲル運動の普及をすすめた。

・イノベーション30;有機農法の普及
 ナチスが欧州を広範囲に占領した後、1941年に「食料増産の必要性がなくなったので、化学肥料を止めて自然農法を採用してゆく」と宣言した。そのための特別な会社を設立し、試験的に、各地の強制収容所で有機農法の実験を始めた。薬草を栽培する農園だったとある。


・イノベーション30;義務教育の制定
 宗教にかかわらず、学区を制定し、外国人も含めて無料の小学校の義務教育制度を制定し、実行した。それまでは、プロテスタントとカトリックは別々の学校に通っていた。

・イノベーション31;大学の通信教育制度を始めた
 貧困者用に通信教育制度を作り、修了者には相当の資格を与えた。


なぜ、ナチスはこれほどのイノベーションを短期間に集中的に実現できたのか?(順不同)

・民族意識の高揚で、一定の主義に基づく政策に、皆が賛同した
・科学と工業を密着させた。
・集中と選択を徹底した。
・信賞必罰を明確にした。
・労働者の庇護を徹底した。
・社会のニーズを見極め、それに必要な技術を、個別ではなくシステム全体として開発した




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