小説キャンディ・キャンディ FINALSTORYで回想するキャンディが30代後半と思われるのは、アンソニーの死後20年以上経っていると明かされるからです。学院を出てから出会った3歳だったスージーが看護婦になってインドに赴任していることも時間経過を伝えます。
それから、「あのひと」の家に代々伝わる小ぶりの宝石とマザーオブパールで装飾された象嵌細工の宝石箱を継承していることが手がかりとして登場します。キャンディの大切なものを入れているという、そこには、アルバートさんからのものはほとんどないのですね。
丘の上の王子さまのバッジくらい。キャンディの成長物語では、アルバートさんからの思い出の品物は少ないのです。
FINALSTORYでは、俳優となったテリィは芸名としてグレアム姓を名乗っています。漫画ではグランチェスター姓のままでした。子ども向けの小説版で初めてミドルネームが明らかになりました。作家は、アメリカではミドルネームを名乗らせるつもりだったのでしょうね。
子ども向けの小説版3巻とFINALSTORY3部は大きく変更されています。子ども向けでは、キャンディが出した手紙を元に構成されていましたが、FINALでは、キャンディに届いた他のひとが書いた手紙も多数散りばめられています。より物語に厚みや奥行きを出しています。
ステアの死については、空軍の上官であるボウフマン大尉から詳しい手紙が届きます。戦死は変わらないのですが、やはり漫画とは雰囲気が異なるようです。作家の中で、リベンジが果たされたのでしょうか。
そしてそして、子ども向けでは「出さなかった手紙」という章の部分が構成だけでなく、内容が変更されています。ステア、アンソニー、スザナ、テリィへ宛てた手紙がそこにありました。FINALではスザナ宛ての手紙はありません。スザナからもらった手紙も改変されています。子ども向けでは、スザナの手紙は短くて生きる意欲に満ちています。しかし、FINALでは、主な内容は同じでありながら、追加された部分に、スザナがこれでよいのだろうかと気持ちが揺れている様が伺えます。なんて弱々しい手紙。スザナからもらった最初で最後の手紙であることが読者には先に伝えられ、手紙をはさんだその次のページにスザナの死亡記事が伝えられます。どういうこと?
そして、その次のページに、スザナの死後、まさかのテリィから短い手紙がキャンディに届いたことが伝えられ、3部が唐突に終わります。どういうこと?
キャンディの物語は、漫画では、アルバートさんが丘の上の王子さまである謎解きを明かして完結します。この後、キャンディはどうなったかはファンには与えらえていないのです。それで、ファンが好きな人とキャンディが結ばれた妄想をするしかなかった。テリィが好きなファンであったとしても、スザナの早い死とテリィからの短い手紙が届くことは、あり得ない妄想だったと思います。
作家ならではの特権のような展開です。でも、ファンの長年の夢を壊さないためにも、「あのひと」はだれか明らかにしないと作家は宣言しています。そこに至る長い物語が必要だけれどもそれを書くことはないと。
私はその長い物語が読みたい。私が好きなひととキャンディは結ばれたと信じられる私には、それだけで充分幸せな気分になれたけれども。作家の言葉で紡がれた物語を読んでみたい。
そういえば、キャンディの身代わりとなり、学院を退学してアメリカに向かうテリィを追いかける場面で、キャンディが(わたしは、まだ、あのひとに---)あなたが好き、と打ち明けていないという文章をみつけました。もしかして答えがありましたか。