一生

人生観と死生観

異分野間協力

2010-11-12 16:02:35 | 人生人間
11月12日 晴れ
 読売新聞にノーベル賞受賞の田中耕一さんの話が出ていた。もともとこの人は電気工学をやっていて、東北大学では電波の反射障害について研究していたのだが、島津製作所に入って化学をやることになり、いろいろことに素人として戸惑ったこともあったようだ。あるとき失敗の実験から思いついてよい結果を得、これがノーベル賞を受ける仕事になった。異分野にはいって異なる専門の人と接し、協力することによって新しい発展をすることができる、良い例である。
 話は飛ぶが、東北北部青森県津軽の古代稲作については、長年伝播経路が謎となっていた。北方ルートを示唆する説はあったが考古学会では受け入れられなかった。津軽地方の伝説では晋人が大陸を亡命して津軽にやってきたときに、早生種の稲を持ってきて水田を作って植えたことで収穫に成功した話が伝えられている。しかしこれが事実かどうかは科学的に取り扱って証明するほかない。仙台市のSさんは農学部出身で考古学に詳しいので、私は科学史家として彼と協力して、この問題がどこまで科学的に追い詰められるか検討することにした。私は考古学や農学の素人だからSさんの知識を活用して、協力研究の利点を生かすよう努力したのである。稲作伝播の速度を北進と東進について考察し、両者に著しい差が見られることの原因を明らかにした。東北北部の稲作は本州南方からの北進ではなく、中国東北部からの東進による伝播と見るほか妥当な解釈が出来ないことを力説した。この結果を保守的な考古学の雑誌ではなく、境界領域にも理解のある『生物科学』という雑誌に投稿し、なかなか良い評価が得られた。論文は採用されることになり、間もなく校正刷りが来る予定になっている。異分野間の協力により良い結果が得られることの例がここにも示された。いろいろな意見が起こることだろうが、私は最後の勝利を確信している。私の本当の望みは私自身の成果を誇ることではなく、このような新しい分野が若い勢力によって将来健全に発展することである。私自身そのための捨石になっても良いのだ。