僕は、トンビになった。
空の高いところまで伸びている送電線のてっぺんに、トンビが一羽、とまっている。
トンビは、しばらく、あたりをきょろきょろ見渡して、また、じっと動かなくなった、その途端、
送電線のてっぺんから、羽を広げて飛び立った。そして、舞い上がったと思いきや、
急降下した。スイーっと降りてきた、というより落ちてきた。僕のすぐ前の家の屋根まで。
そして、屋根に留まるかと思ったとたん、また急上昇して、僕の視界から消えた。
そのトンビの飛行の軌跡が、青い空に描かれた飛行機雲のように、僕の心に描かれた。
ふと、少年時代の僕を思い出した。
雪が積もった朝、まだ誰も滑っていない真っ白な雪面。
スキーを履いた僕が、山のてっぺんに立って、さあ、ここから滑り降りるぞ、
とストックを、思い切り漕いで、山のすそ野めがけて、すべり降りる。
直滑降で、スイーっと、風を切って、空を飛ぶように、雪面を、滑りおちる。
裾に着いて、スキーの舵をきる。ジューー。ざっ。
すそ野に立って、山を仰ぐ。
てっぺんから斜面に、僕が滑ってきたスキーの軌道が、
くっきり、雪面に描かれている。
2本の平行なまっすぐな線が、山のてっぺんから裾に。
送電線のてっぺんから、スイーっと、飛び立って、急降下し、また、急上昇して
トンビが青い空に描いた飛行軌道 と、
山のてっぺんから裾まで、白い雪面に僕が描いた、スキーの軌道が
僕の心の中で重なった。
僕は、一瞬、あのトンビになったような気がした。