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村上春樹「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読む

2013年09月11日 | 日記
 村上春樹の最新作「色彩をもたない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読んだ。彼の作品を読むのは久しぶり。これには伏線があって、直前の7日に「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」(岩波書店、1996年発行)を読み返したばかりで、この内容が「色彩をもたない」・・・・」とつながる部分があるような直観がしたから。河合隼雄は数年前になくなっているが、ユング派の臨床心理学者で京都大学で教えていた。この対談集はそんなわけで村上が京都を訪問する形でおこなわれたとある。

 さて今回の著作は、今年4月に発売されて瞬く間に100万部以上が発行されたと4月18日付の新聞記事になっていたくらいの社会現象?らしい。まあ、そんなことは作品の本質と関係ないじゃないか、という向きもあるだろうが同時代に生きている人間にとって、その現象も意識したうえで、あるいは影響力のなかでの読書体験になるはずだ。
 
 作品中で象徴的なこと。「つくる」の本名は“作”であって、これは本文中1回しかでてこない。またタイトルの「・・・彼の巡礼の年」の“巡礼”という言葉は、リストの音楽タイトルとしてあがるのみで、本文中の直接の出来事や思考の過程では一回も出てこない(と、思う。違っていたらごめんなさい)。これは実に興味深いことではないだろうか。“巡礼”という言葉は、私にとっては、お伊勢参り・四国巡礼などの行為を連想させる。
 作品に即して述べると、東京自由が丘に住む主人公が高校時代の親しい仲間間に起こったある出来事の真実を解明すべく、現在の恋人“木元紗羅”のすすめで名古屋とフィンランド・ヘルシンキやハメーンリンナ(作曲家シベリウスの生地)に住むかつての同級生を巡る話である。“巡礼”とはこの行為を暗示しているし、その間の彼の魂の彷徨を意味しているのかもしれない。東京は恵比寿、銀座、表参道、新宿駅などが固有名詞として登場する。東京以外には、新潟三条(主人公の元恋人の出身地)、浜松(仲間の女性が殺害された地)、松本など。
 物語の基調に流れる音楽として、リストのさほどメジャーな作品ではない「巡礼の年」がいわくありげ?に繰り返し取り上げられるが、残念ながらまったくもってそのメロディーは聴いたことがない。以前の村上作品にはポップスやジャズがよくでてきていたが、クラシック曲が登場するのはこの作品が初めてなのだろうか? 

 この物語の背景には、一昨年2011年東日本大震災や2001年のアメリカ貿易センタービルへの航空機追突テロ事件の(無意識の)影響があるのではないだろうか?まったくの偶然だが今日がその日、12年前の衝撃的な出来事と重なるメモリアルデー。
 “巡礼”とついになる言葉として“祈り=INORI”を連想する。物語の終章は、主人公つくるが紗羅と結びつきを深め、小さな救済=再生をえられるのかどうか、未定終止形で不安げに終わるのだが・・・。“希望”につながる次回作は、はたしてあるのだろうか?


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