日々礼讃日日是好日!

まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

慈しみ緑庵茶席

2015年05月15日 | 日記
 この季節、とくに午前中は薫風さわやかで新緑がまぶしい。先週たまたまが重なって思いがけずふたつの茶席を体験することができた。そのうちのひとつについて。

 五日の午前、隣駅から徒歩五分の多胡記念公園にある慈緑庵にて「こどもの日呈茶席」があるというので、午後からの出勤前に立ち寄ってみようと思い立ち、自転車にのって訪れる。ここは名前にある通り、故多胡さんご夫妻の寄贈により、平成に入って開園した。閑静な住宅地に広がる約五千平方メートルの手頃な大きさの公園でこれまで何度も訪れているけれども、いまの時期は木立ちの緑陰にこころが安らいでとても気持ちがよい。
 さらにここが気品があって素晴らしいのは、なんと敷地内に書院造りと茶室にふたつの日本家屋があること。これもお二人の篤志によるもので、いまにその恩恵を受けることができているありがたさと同時に、どのような生き方をされた方だったのだろうかとにわか興味がわく。園内の銘板によれば、御夫妻は八丈島と群馬のご出身で(この出会いも不思議というかおもしろい)、この自然に恵まれた地に長らく住まわれ、長生きができたことに感謝して「緑豊かな庭園をみなさんに開放し、後世に緑を伝え続けてほしい」とのことばを添えて市に寄贈されたとのこと。当時はバブルの真っ最中なのに、俗世間離れした純朴な飾り気がない善行に、こんな方がいることで世の中捨てたもんじゃないと思いを新たにするような驚き以上の清々しさを感じてしまう。

 さて呈茶会は、公園門からの玉砂利を踏みしめて進んだ書院の玄関を入った上がり前の立席が会場で、来館者はわたしのほかは見当たらない!正面のガラス窓からは、庭園の緑がまっすぐに飛び込んでくる。やがて運ばれたお茶をいただいた後に、せっかくだから部屋に上がらせていただき、なかを見学することにした。それぞれ、八畳の広さの次の間と上の間の先には床の間があって、「日々是好日」の掛け軸が主役のようにしてある。じつに床の間っていうのは日本家屋におけるギャラリーみたいなもので、ここがあることでそこの空間が変容して生き生きとしてくる。部屋の周囲には廊下が回り、庭側の公縁が外との橋渡しのようなもので、ゆったりとした正統的な造りが、ほんといいな。
 裏玄関から、露地を通って茶室へと歩をすすめる。緑滴るその先にたたずむ「慈緑庵」、その名にふさわしい風情で軒先のすだれがいい具合に涼しさを演出している。職員の方が、茶室のイロハから懇切丁寧に説明をしてくれる。できて約二十年たつのに新築の気配が残っている室内に初めて入らせてもらう。今回にじり口まえの露地におかれた飛び石が蹲踞そんきょと呼ばれることを初めて知った。室内の編天上に壁のやわらかな色合い、亭主口の柱の丸みと曲がり、障子戸からの外光の入り具合とすべての調和が相まって、極上の和らぎの空間にしばらくの間、身をひたして過ごす幸福感を味わう。


茶室は四畳半台目、炉は鎌倉極楽寺ゆかりのものだそう。


床の間にボタンの大輪。こちらの軸には「和敬」の文字

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