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マイラブ~神様の両手~ 須川展也のマイラブ (7)

2005-09-19 22:44:47 | 『ダイビング事故からの生還』体験物語
 九月十九日(金)人の気配で目が覚めた。時計を見ると午前八時半だった。
物音のするほうに目をやると右側のドア付近で清掃のおばちゃんが床をモップで拭いていた。医師、看護師、家族以外の人には接していなかったので何だか新鮮な気持ちがした。おばちゃんは私を気にすることなくせっせと掃除道具を使い分けながら手際よく掃除をすると私の「もっとここにいてよ。」と言う気持ちも伝わらず、ドアの向こうへ去っていった。
 九時半。主治医の先生がやって来て三回目に取り着けた鼻の管を取ることになった。「やっと自分の肺で呼吸が出来るようになった。」解放された喜びと少しずつ元気になって来ているのを感じることが出来て嬉しかった。少し経ってから家族が見舞いに来た。昨日よりも元気になった私の姿を見て口にこそ出さなかったがとても喜んでいるようだった。父親が一つの封筒を私に差し出した。
「大村さんの先生の須川展也先生から手紙が届いたよ。」
大村さんこと《おむりん》は音大時代の同級生でサックス専攻の友人だ。私の事故を聞いた彼女は私のたくさんの知人に連絡を取ってくれ、次の日には他の友人たちと一緒に船に乗って家族の宿泊していたホテルにお見舞いに来てくれた。その《おむりん》が須川先生にも事故の一報を入れていたのだ。須川先生夫婦とは《おむりん》を通じて知り合いになり広島でコンサートのあるときには足を運んで聴きに行っていた。
はじめてあの音色を聴いたときは目から鱗だった。
「こんな音、今まで聴いたことがない。」
サックスの音は人間の声にとても近い音と言われているが、
「こんなにも体に溶け込むような柔らかくて温かい音色は聴いたことがない!」と、とても感動したのを覚えている。
感動の余韻に浸るために会場でCDを買って帰った。その中にとてもすてきな曲があった。
ポール・マッカトニーの”マイ・ラブ”だ。
ビートルズの解散後、ウイングスを結成しその時に作った曲。愛する妻リンダに捧げた美しいラブ・バラードだ。なめらかな旋律をサックスが語りかけるように奏でるのがとても好きでいつも聴いており、私のお気に入りの一曲だった。そんな先生と奥さんから直筆の手紙が速達で届いた。妹が封を切って開けてくれたら中からご夫婦のメッセージと頑丈にくるまれた一枚のCDが入っていた。

『事故のことを聞いて本当にびっくりしました。今はただひたすら早くよくなってくれる事を祈っています。広島で一緒に楽しく飲んだことやこの前の○○交響楽団との共演の時に聴きに来て頂いた事、いろいろ思いました。今、お見舞いに行けない分、何かできないかなとは思ったのですが明日発売になる私のベストアルバム、バラード集をプレゼントさせて下さい。ラブソング的なものが多いですが「早くよくなって」という私の気持ちが伝わればうれしいです。』

嬉しかった。二度くらい会っただけの自分をこんなにも心配してくれるなんて…。胸がジーンとなり目頭がうるうるしてきた。

第7話へとつづく

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