経済の回復による際立った経済大国の構築だけではなく、在日米軍基地撤去を果たして軍事大国化し、世界の大国として踊り出て、世界秩序形成にアメリカやロシア、欧州列強の列に加わることを夢としているはずだ。
このことが安倍晋三政治の最終目標であろう。
当然、同じ夢を抱いている中国と競い合うことを視野に入れているはずだ。このことが中国の海洋進出に対する最近の激しい批判となって現れている。
5月31日に富山市で講演した自民党の脇雅史参院幹事長の発言が安倍政治の最終目標を教えてくれた。集団的自衛権の行使容認について話していた中での言及だそうだ。
脇雅史「いつまで米軍基地を置いておくのか。未来永劫、米国に守ってもらうのか、日本の安全は日本で守る選択肢(もある)。30年後に基地をなくすこともあるかもしれない。
日本国民はその答えを(戦後)70年間ほったらかしにしてきた。この安定政権の中で答えを出さなければいけない。相手のあることで難しいが、逃げることはできない」(MSN産経)――
脇雅史は額賀派で、安倍晋三が所属する町村派ではないし、安倍晋三自身が自主防衛論を唱えているわけでもないが、脇雅史が言っていることは安倍晋三自身の将来的な構想でなければならない。
安倍政権は2013年12月17日、「国家安全保障戦略」を閣議決定している。
〈我が国は、これまでも、地域及び世界の平和と安定及び繁栄に貢献してきた。グローバル化が進む世界において、我が国は、国際社会における主要なプレーヤーとして、これまで以上に積極的な役割を果たしていくべきである。〉――
「国際社会における主要なプレーヤー」とは、世界秩序形成の主要なプレーヤーであることを意味している。例え集団的自衛権行使を獲得したとしても、基本は日米同盟によって国土防衛はアメリカに依存する関係に変わりはない。自国の安全保障を他国に依存した国が世界秩序形成の主要なプレーヤーとなり得るだろうか。
「国際社会における主要なプレーヤー」になるという目標には軍事大国化と在日米軍基地との決別を含んでいるはずだ。例えそれが「地域及び世界の平和と安定及び繁栄」に関するプレーヤであったとしても、経済力と軍事力をバックとしなければ、世界の大国がそうしてきたように発言に力を持たせることはできない。
安倍晋三は時系列的に逆になるが、2013年2月22日、アメリカ合衆国のワシントンD.C.の戦略国際問題研究所で講演、日本を「国際社会における主要なプレーヤー」とする閣議決定と同じ趣旨の発言を行っている。
安倍晋三「いまやアジア・太平洋地域、インド・太平洋地域は、ますますもって豊かになりつつあります。そこにおける日本とは、ルールのプロモーターとして主導的な地位にあらねばなりません。ここで言いますルールとは、貿易、投資、知的財産権、労働や環境を律するルールのことです」――
ルールは各地域が決めるべき事柄でありながら、「アジア・太平洋地域、インド・太平洋地域」にまでのさばって、日本を「ルールのプロモーターとして主導的な地位」に就ける。
これもグローバル時代の相互依存関係をを無視して日本を世界の中心に置こうとする思想から出た発想であろう。世界の中心に置くためにはそれなりの経済規模・軍事規模をバックとしなければならない。
そうするためには在日米軍基地撤去→自主防衛→軍事大国化という手続きを踏む必要が生じてくるはずだ。
いわば日本を「国際社会における主要なプレーヤー」とする望みにしても、「ルールのプロモーターとして主導的な地位」に就ける望みにしても、野望と言った方がいいが、そこに隠されている意思は日本を世界秩序形成の主要な大国の一つとするということである。
インターネットで調べたところ、「プロモーター」には「人体に有害な化学物質のうち、傷ついたDNAの修復を妨害して発がんに導く物質」という意味もある。
2013年1月18日、安倍晋三がジャカルタで行う予定であったが、アルジェリア邦人人質事件のため急遽帰国することになって取りやめとなった「開かれた、海の恵み ―日本外交の新たな5原則―」と題した講演の一節に次のような言葉がある。
安倍晋三「いまや、日本とASEANは、文字通り対等なパートナーとして、手を携えあって世界へ向かい、 ともに善をなすときに至りました」――
要するに相互依存関係を謳い上げている。
このような思いこそ、あるいは信念こそ、グローバル世界に適った合理的で、客観的な現実的発想と言うことができる。「国際社会における主要なプレーヤー」も、「ルールのプロモーターとして主導的な地位」も、「対等なパートナー」であることを超える。
「対等なパートナー」は必要上口にした、表向きの便宜的な発想でしかない。安倍晋三の意図は別のところにある。
2013年10月25日のウオールストリートジャーナル紙のインタビュー。
WSJ「日本のリーダーシップについてだが、日本がアジアの近隣国と連携してリーダー シップを発揮する、あるいは中国の脅威に対抗して日本がリーダーシップを発揮するということはあるか」
安倍晋三「日本はまさに、世界の成長センターとして伸びていく。アジアにおいて地域の平和そして繁栄のために もっと貢献をしていきたいと思っている。ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々ともそうだし、インドもそうだし、アジア太平洋という意味ではニュージー ランドやオーストラリアもそうだ」――
ASEANやインド、ニュージー ランド、オーストラリアとの連携を謳いながら、「日本はまさに、世界の成長センターとして伸びていく」と、日本を世界の中心に置いて、ASEANやインド以下を日本の周辺に位置させている。
本来、経済に於いても軍事に於いても、それぞれの国は相互依存関係にあるはずである。特に軍事に於いては、多国間で相互依存の関係を形成しながら、一部の国に対抗する形を取っているはずだ。例え経済に限ったとしても、日本を世界の中心に置くことは、相互依存関係に反することになる。
アメリカですら、世界の中心に置くことはできない。
大体がアメリカの株価や経済指標に日本の株価や為替相場が影響を受ける。成長センターは規模に大小の違いはあるが、世界の各地域に地域ごとのセンターとして存在して地域間で相互依存関係を成り立たせ、世界で唯一単独の成長センターなどは存在し得ない。
だが、安倍晋三は日本を世界の中心に置く野望を抱いている。置くために軍事的にも独立を目論んでいる。在日米軍基地撤去と撤去に伴う日本の安全保障確率のための軍事大国化である。
中国を刺激し、「力を背景とした現状変更」という色合いで中国の軍事色を突出させて、日本の安全保障上集団的自衛権憲法解釈行使容認を必要と思わせる環境づくりをしていることも、在日米軍基地との決別と日本の軍事大国化への長い道のりの一歩と思い定めているはずだ。
頻繁に外国訪問しては安倍晋三の顔を売っていることも、日本を世界の中心に置くことの布石であるはずだ。
だが、安倍晋三の日本の歴史と伝統と文化を誇り、誇ることでそれらに優越的価値を持たせている思想からしたら、日本の歴史と伝統と文化をも世界の中心に置こうとする衝動に衝き動かされることになって、動かされた場合、最低限、外国の歴史・伝統・文化を下に見ることになって、非常に危険である。
安倍晋三は戦前の日本を取り戻すだけではなく、戦前の日本が取り憑かれていた日本民族優越主義まで取り戻そうとしているようだ。継続性を持たせた盤石な経済大国の地位の構築と在日米軍基地との決別、そして日本の軍事大国化によって日本民族優越主義を回帰させることができ、日本を世界の中心に登場させることができる。