11年30日(2011年)水曜日放送の《NHKクローズアップ現代「証拠は誰のものか」》は、25年前の1986年3月に福井県福井市の市営住宅で女子中学生が殺害された福井女子中学生殺害事件を取り上げて、検察の証拠の取扱いについて、その正当性如何を論じていた。
逮捕された被告は無罪を終始訴えていたにも関わらず懲役7年の刑を受け、刑期を終えたのち、2004年に再審請求、7年後の11月30日(2011年)に再審開始が決定。
当該事件に関わる以下の記述は放送のテキスト文を参考とした。
決定の主な理由は裁判所が検察に対してすべての証拠の開示を求めたところ、検察が被告を有罪とするに不利となるいくつかの証拠を裁判所に提出せずにいたことの判明であった。
証拠開示について番組は次のように解説している。
●すべての証拠の提出を義務づける法律はない。
●検察は裁判上不都合だと考える証拠は出さないこともできる。
●弁護団が再三に亘って証拠開示を要求したが、検察は頑なに拒否。
●検察は裁判所の勧告を受けようやく証拠の開示に応じる。
●その中に検察側の有罪立証に不利となる証拠が出てきた。
いわば被告側の無罪立証に有利となる証拠の存在が明らかとなった。
そして裁判所の再審再開決定。
当時の検察関係者「有罪の立証に役立つ証拠 つまり、ベストエビデンス(証拠・証言)だけを裁判に出すのは我々にとって当たり前だ」
裏返すと、「有罪の立証に役立たない証拠、つまり、ワーストエピデンスは裁判所に出さないのは我々にとって当たり前だ」となる。
以上のことは犯罪が発生した場合の犯人逮捕と裁判所起訴は集めたすべての証拠に基づいて容疑者を特定し、その犯罪事実の全容を確立して起訴に持っていくのではなく、捜査の過程で犯人と目星をつけた容疑者を容疑者に足る証拠のみを以て犯人と特定、いわば犯人に仕立てて、仕立てるにふさわしい犯罪事実のみを組み立てて犯罪の全容、もしくは犯行の全容とし、起訴に持っていくことが検察の役目であると証拠立てている。
検察のこのような手続きは犯人と目星をつけた容疑者が実際に真犯人であった場合は犯人と仕立てるに都合のいい証拠のみで犯罪事実・犯行を如何ように組み立て、真犯人だとしようとも、プロセスそのものは非合理的であろうと、合理的結末を得ることが可能となるが、真犯人でなかった場合、証拠の操作による仕立てられた犯行、仕立てられた犯人ということになって、冤罪という非合理を超えた不条理へとつながっていく危険性を抱えることになる。
初めて知り得たことで驚いたが、当時の検察関係者が言っている「有罪の立証に役立つ証拠 つまり、ベストエビデンス(証拠・証言)だけを裁判に出す」検察行為は法律上許されている、合法行為だったということである。
ゲストの木谷明法政大学法科大学院教授が番組で解説している。
木谷大学院教授「現在の訴訟法は、当事者主義という考え方でできてます。
当事者主義というのは、それぞれの当事者が、自分に有利な証拠を集めて、それを裁判所に提出すると、その中から真実を発見していくんだと、こういう建て前ですね」
検察は立件に不利な証拠があっても有罪だと信じるに足る証拠を根拠に起訴すべきであり、起訴と決定した場合、すべての証拠を裁判所に提出、有罪の立場で裁判に臨み、弁護士は検察の有罪の主張が正しいか否か、例え有罪であっても検察の主張する求刑に相当する犯罪か、あるいは被告が無罪を主張する場合、被告の利益擁護の立場に立って無罪を主張して、すべての証拠を間にその妥当性を闘い、最終的に裁判所の判断に従う手続きとはなっていなかった。
検察は犯人と特定するに疑わしい証拠が出た場合、そのような不利な証拠を以てしても犯人だと特定するに足る、あるいは有罪を組み立てるに足る有力な証拠の存在無くして起訴はできないはずだが、そうはなっていなかった。
犯人だと特定するに都合のいい証拠のみに基づいて犯罪の全容を組み立て、真犯人だと立件して裁判所に起訴していた。
村木裁判では最初から罪アリと特定し、その特定に添う証拠のみを収集、特定に不都合な証拠は排除して罪アリを固めようとしたが、目的通りにいかなかったために、目的通りに罪アリと特定するために証拠を改竄した。
犯罪事実と犯人と目星をつけた容疑者との間の関連性に合理的根拠を見い出すのではなく、合理的根拠を無視して、犯罪事実に犯人と目星をつけた容疑者の行動を一致させるに都合のいい証拠のみを以て犯罪事実の全容とし、目星をつけた容疑者を真犯人として起訴していく。
このような捜査と起訴の手続きが小沢強制起訴でも用いられた疑いが出てきた。
《【小沢被告第10回公判(7)】「証拠隠しは言ったっけ」「石川議員が『土下座』」…止まらぬ“暴露”》(MSN産経/2011.12.16 16:40)
村木事件で証拠改竄を行い、懲役1年6ヶ月の実刑判決を受けたが控訴しなかっために実刑が確定、法曹資格を失った例の前田恒彦元検事が陸山会事件で大久保隆規元秘書の取調べを担当した関係から証人として出廷。
前田証人「1回目(の指定弁護士との打ち合わせでは)はざっくばらんに、捜査の問題点を含めて申し上げた。『私は小沢さんが無罪だと思う』『指定弁護士も職務上大変ですね』と。捜査にいろいろ問題があったことも言いましたし、証拠隠しのことも…言ったかな? 言わなかったかな?」
弁護人「証拠隠しって何ですか」
前田証人「要は、私が裁判官なら、『無罪』と判決を書く。証拠がすべて出されたとしても…」
弁護人「いや、『隠された証拠』ってなんなんですか」
前田証人「私が思っているだけですけどね。判決では検察審査会の起訴議決が妥当だったかどうかも審理されるわけですよね。そこで検察が不起訴と判断した資料として検審に提出されるもので、証拠になっていないものがあるわけですよ。例えば、(自分が取り調べを担当した)大久保さんの調書には全くクレームがないけど、石川さんの調書にはあるんです。弁護士からのクレーム申入書が。でも(指定弁護士との)打ち合わせのときに、指定弁護士は知らなかった。検審に提出された不起訴記録に入っていないから。
私はクレームが来ていないから胸を張って任意性がある、と言えるんですけど。石川さんの調書に問題があったんじゃないですかね。(石川議員の取り調べに対する)クレームはバンバンあったくらいの印象がある。指定弁護士も調査したら1、2通見つかったと言っていたが、私の印象ではもっとあると思いました。それが証拠に含まれていれば、審査会が見て、調書の信用性は減殺されるわけですよね」
《前田被告は息つく間もなく、小沢被告を無罪と考える根拠として、立件材料がそろわなかった点を説明する》
前田証人「それに、この事件では捜査態勢が、途中でものすごく拡充されたんですよ。(元秘書ら逮捕者の取り調べを行う『身柄班』に対して)『業者班』。ゼネコンや下請けの捜査員を増やした。でも、(作成された)調書が、まー、ないでしょ? 大久保さん(の)、小沢さんに裏金を渡しているという検察の想定と違う取り調べ内容は、証拠化しないんです。どうするかといえば、メモにしている。手書きのその場のメモということでなく、ワープロで供述要旨を整理していた。
水谷(建設)で言えば、4億円の原資として5千万円は水谷かもね、となっても、残りの3億5千万円については分からない。何十人の検察官が調べて、出てこない。検審にそれが示されれば、水谷建設の裏献金の信用性も、減殺されていたはず。想定に合わなければ証拠にならないというのがこれまでの検察で、私も感覚がずれていて、厚労省の(証拠改竄)事件を起こすことにもなった」(以上引用)
「検審に提出された不起訴記録に入っていない」――
これは検察が小沢氏を事情聴取して不起訴とした記録の一部分を検察審査会に提出した不起訴記録の中に入れなかったということなのだろう。
いわば都合の悪い証拠を取捨選択の操作を行った。
「それが証拠に含まれていれば、審査会が見て、調書の信用性は減殺されるわけですよね」
「大久保さん(の)、小沢さんに裏金を渡しているという検察の想定と違う取り調べ内容は、証拠化しないんです」
「想定に合わなければ証拠にならないというのがこれまでの検察」――
「私が思っているだけですけどね」とは言っているが、立証・立件に都合の悪い証拠は隠し、都合のいい証拠のみを表に出す“当事者主義”を最大限に活用した事実を暴露している。
小沢裁判でも、「有罪の立証に役立つ証拠 つまり、ベストエビデンス(証拠・証言)だけを裁判に出すのは我々にとって当たり前だ」とする検察の役目を忠実に実践していたということである。
裁判所はそのような取捨選択を受けた証拠に基づいて判決を出していく。検察が裁判所に提出した証拠のみを以て犯罪事実とし、犯罪事実を構成するそれら証拠に基づいて被告の刑を確定していく。
前田元検事は別のところで次のように証言もしている。
前田証人「その際、■■(匿名となっている)キャップからは『この件は特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢をあげられなければ特捜の負けだ。恥ずかしい話だが、東京には割り屋がいない。だから大阪に頼ることになった』といわれた」
いわば検察は有罪を前提に捜査に臨んだ。そのために不都合な証拠は隠し、有利な証拠のみを表に出す“当事者主義”をフル活動させた。小沢氏に対する事情聴取も、「小沢をあげられなければ特捜の負けだ」の強硬な姿勢、挙げることを前提として行われたはずだ。
だが、小沢氏に関しては2度の事情聴取を以てしても起訴に持ち込むことはできなかった。
にも関わらず、検察審査会によって強制起訴を受けたが、「検審に提出された不起訴記録に入っていない」という証言からすると、“当事者主義”に毒された強制裁判だと認識しないわけにはいかない。
これまでも検察が証拠を操作してデッチ上げた起訴を裁判所がデッチ上げと気づかずに冤罪となる判決を下してきた。 |