前原政調会長の短絡的・単細胞な小沢“日米中正三角形”相互関係論批判

2011-12-14 11:18:55 | Weblog

 前原民主党政調会長が小沢氏が持論としている“日米中正三角形”相互関係論を批判した。12月12日(2011年)の都内での講演の場で批判したそうだ。《前原氏「日米中、正三角形でない」 小沢氏の持論批判》asahi.com/2011年12月12日20時53分)

 前原政調会長「党内に『日米中は正三角形だ』と言った方もいたが、同盟関係を結んだ国とそうでない国との関係が正三角形であるはずがない。地域の安全保障のため、米国との関係をさらに強固にすべきだ」

 今なぜ小沢氏持論、“日米中正三角形”相互関係論を持ち出して批判したのか、勘繰るしかないが、最近、小沢氏が野田首相消費増税路線を批判し出したことに対する、他に材料がないことから選択した牽制だと疑えないことはない。

 記事は来年の展望に関わる発言も伝えている。

 前原政調会長「野党が真摯(しんし)な議論に応じないなら、日本政治も大きく変わる可能性がある。野田佳彦首相は3~4年、リーダーとして頑張ってほしい。支えていく」

 この発言の前半部分を記事は、〈衆院解散・総選挙の可能性〉への指摘だとしているが、日本政治が「大きく変わる可能性」とは勿論のこと自民党への政権交代の可能性ではなく、政界再編を念頭に入れた、「大きく変わる可能性」であろう。

 だが、「野田佳彦首相は3~4年、リーダーとして頑張ってほしい。支えていく」という覚悟を実際に持っているのだとしたら、この発言にしろ、12月4日の大津市講演での「(首相が)ころころ代わるのは、どの政権でも海外では腰を据えて話をできない国と思われ、国益を損なうことになる」という発言にしろ、口にする必要はなかったはずである。

 二つの発言は支持率を急激に下げていることから、党内から野田退陣論が噴き出すことへの前以ての牽制であり、予防線なのだろうが、この場合の「支えていく」とは野田首相自身の求心力を力学とした、野田首相自身が主役の内閣維持を言っているのではなく、極く身近な第三者の、それなくして立たない支えを力学とした、第三者が主役となる内閣維持の言いであって、裏を返すと、退陣論噴出の状況になりつつあることを自ら証明して、野田首相の実行力やリーダーシップ(=指導力)、あるいは政権運営能力などの程度を対立関係にある勢力が言うならまだしも、味方勢力である自分の方から曝け出す発言にもなるからだ。

 「就任してから、まだ3カ月余。スピードアップしていけば、国民の理解を深めていくことができるだろう」と、あくまでも野田首相を主役・中心に据えて言うべきを、自らしゃしゃり出ないでは済まない目立ちたりがり屋だけあって、自分を主役・中心に置かないと済まないらしい。

 首相が支持率を下げていく状況下で閣僚や党幹部が首相を主役や中心の座から降ろして自分たちをそこに置き替え、「支えていく」と言い出したなら、首相自身の存在理由の支持率の否定に重ねるなおさらの否定となる。

 前原政調会長が言っている「同盟関係を結んだ国とそうでない国との関係が正三角形であるはずがない」はまさに正論である。

 但し現状に於いてはという条件をつけなけれがならない。

 確かに「地域の安全保障のため、米国との関係をさらに強固にすべきだ」ろう。

 だが、現時点ではアメリカと同盟を結び、軍事的に中国と対立関係にあるとしても、将来に亘って現状維持の関係でいいわけはないはずである。

 安全保障面に関して将来的にも米国一辺倒の関係進化で日本の安全がすべて片付いていくのだろうか。安全保障面に於ける日米の緊密化、もしくは密着化は一方で日中の安全保障関係を現在以上に疎外化、もしくは対立化する方向に進める危険性を常に孕むはずだ。
 
 2010年9月の尖閣諸島沖中国漁船船長逮捕をキッカケに日中双方が尖閣諸島の領有権を主張して相譲らず、対立することとなり、緊張が生じた。日本政府は「尖閣諸島に領土問題は存在しない」という立場を取り、「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土だ」と主張して止まないが、中国の「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国固有の領土である」の主張をクリアできないでいる。

 いわば依然として中国は釣魚島を自国領土としている。

 中国が軍事行動を以てして尖閣諸島を直接的に侵犯した場合、アメリカは、「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」と表明、日米共同して尖閣の防衛に当たることを確約した。

 だが、「原発安全神話」からしたらまさに想定外の福島原発事故が勃発したように日中間の安全保障関係がちょっとしたキッカケでバランスを失い、想定外の軍事的衝突に発展しない保証はなく、発展した場合、日中双方共に経済的にも信頼関係上も大きな傷を負うことになる。

 現在以上の疑心暗鬼が渦巻き、経済の回復はもとより、信頼回復に時間がかかることになるだろう。

 確かに現在の中国は軍事費の不透明性や他国の主権を侵害するような海洋権益の拡大、漁船の強引・無法な違法操業等に見る無法国家状態の体をなしている。

 この無法性こそが想定外の危険な突発事態を誘発しかねない潜在的な導火線と言える。意図的に導火線の点火スイッチを入れる場合もあるだろうし、意図しない複合的要因から点火スイッチが勝手に入ってしまう事態も想定可能である。

 日中が軍事的に衝突することになってから、あるいは一方的に軍事攻撃を仕掛けられてから、そこにアメリカが日米安全保障条約締結国としての役目上、軍事介入してきた場合、双方の攻撃が拡大して、日本を巻き込んだ戦争状態に突入する場面も想定しないわけにはいかない。

 となると、日本の安全を考えた場合、日米安保条約及び日本に於ける米軍の存在はあくまでも中国や北朝鮮の軍事介入、軍事行動を前以て牽制・抑制する役目に限定すべきであり、その役目を超えた場合、有傷の対処療法とはなり得ても、無傷の原因療法とはならないと見なければならない。

 発火の予想もつかない導火線を解除し、中国の無法性を取り除く、日本やアメリカ、あるいはその他のアジアの国々にとって無傷の原因療法となり得る有効な手立ては中国の一党独裁体制から民主体制への移行を外から僅かずつでも働きかけること以外に方法はあるだろうか。

 アメリカはその努力が実を結んだとは言い難いが様々に手を打ってきた。中国人人権家でノーベル平和賞受賞の劉暁波氏が中国当局に逮捕・拘禁されたとき、欧州の首脳と共に劉暁波氏の釈放を中国政府に求めたのも、民主化への働きの一つであったろう。

 だが、当時の我が日本の首相だった菅直人は尖閣沖中国漁船船長逮捕事件以後のことであったために中国の圧力・報復を恐れて、釈放要求はできず、「劉暁波氏が釈放されることが望ましいということを総理大臣として申し上げている」(10月14日参議院予算委員会)と、中国には直接的には届かない形式の間接的希望で完結させ、中国の民主化体制への移行を働きかける外交姿勢を何ら見せず仕舞いであった。

 小泉元首相は2011年9月5日、東京・大手町のサンケイプラザで開催の日本取締役協会主催シンポジウムで講演し、日米中「正三角形」論に関して次のように発言している。

 小泉元首相「中国は経済的にもっとも重要な国だが(相互の)安全が確保されていない限り、いかなる政策も進められない。あれだけの戦争をして領土を全部返した米国と、沖縄・尖閣諸島を自分の領土だと主張している中国と同じ関係でいいという議論は私はとらない」(MSN産経/2011.9.5 19:48))

 記事は日米同盟関係の堅持・進化の重要性の主張だと解説しているが、一方の日本と中国との関係は前原政調会長と同様の軍事的対立のより危険な現状維持論となっている。

 アメリカが軍事的に中国をいくら牽制しようとも、尖閣諸島を挟んだ領有権問題に端を発した、あるいは中国漁船の違法操業に端を発した日中の軍事衝突が突発しない保証はどこにもない。

 中国に対する民主体制移行への働きかけを省いたまま沖縄近海の島嶼地域に自衛隊を配置し、中国がこのことに対抗して日本に対する軍事的圧力を強めた場合、突発の危険性が高まることが予想される。

 あるいは直接的には軍事行動を取らなくても、経済的に様々な手を使って日本に圧力を掛けることも考えられる。

 中国の様々な無法性を無効化する唯一有効な原因療法は一党独裁体制から民主体制への移行であることは誰も異論はないはずだ。
  
 外から民主体制への移行に努めて中国と日本を含めた民主国家との間に横たわる中国の無法性から発した様々な障害を解決して、日米中が「正三角形」関係となってもいいわけである。

 少なく当時民主党代表だった小沢氏は2008年5月7日、胡錦涛主席と会談、当時の前原副代表が同席、本人が「小沢氏が山猫の話をしたのを覚えている」(MSN産経/2010.12.28 18:09)と証言している以上、事実中の事実なのだろう、映画『山猫』を話題に持ち出して、そのセリフの一節を引用、〈「変わらずに残るためには変わらなければならない」と中国共産党独裁体制の転換を求めた〉(同MSN産経)ということだから、日中の軍事的対立の現状維持論ではなく、外からの民主体制への移行を働きかける立場に立っていると言えるし、このことを念頭に置いた小沢“日米中正三角形”相互関係志向という可能性も否定できない。

 また中国共産党独裁体制の転換を推し進める人脈を中国との間に築いている可能性も捨て切れない。

 当然、日米・中の軍事的な対立を超えた将来的な日米中関係と考えた場合、小沢“日米中正三角形”相互関係論は決して間違っていると断言できないはずだ。

 批判する前原政調会長の視野の狭い、短絡的・単細胞の思考の方をこそ、憂える。

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