野田首相の消費税増税素案取り纏めに見る君子豹変の有言実行性

2011-12-30 10:19:49 | Weblog

 昨29日(2011年12月)、民主党は税調合同総会を開催、野田首相出席のもと、「13年10月に8%、15年4月に10%」ととしていた消費増税時期の当初案を「14年4月に8%、15年10月に10%」と半年先送りすることと議員定数削減と公務員給与の削減法案を来年の通常国会に提出、14年4月の消費税引き上げの前に実施するという修正、さらに税収の使途を含めて取り纏めるに至った。

 増税時期に関しては、父親が反対し、母親が賛成している娘の結婚だが、その結婚式を半年遅らせることで父親が賛成するような意味不明な感覚がしないでもない。

 父親は結婚の中身である娘の結婚相手の男を問題にしているのであって、結婚式の時期を問題にしているわけではないはずだ。父親にとっての真の解決は結婚の中身が別の男に変わることであろう。

 今回税収の使途まで大まかには決めたが、これまでは増税時期と増税率が常に先行していた。最も重要である、どういった消費税とするか、低所得層対策はどうするのかといった肝心の中身である増税の形と使途、さらにその先の増税による財政再建効用と経済効果、さらに社会保障の新たな姿についての説明はなかった。

 今以て年金の受給年齢はどうする、ああすると騒いでいる。

 中身について、《引き上げ停止の規定“盛り込む”》NHK NEWS WEB/2011年12月30日 4時4分)から見てみる。

 消費税率を10%にした際の引き上げた5%分の税収使途について――

▽低所得層に対して年金額の加算等「社会保障の充実」          ――1%分
▽基礎年金国庫負担割合い2分の1維持のための財源充当「社会保障の安定化」――3%分
▽消費税率引き上げに伴う物価上昇を受けた政府支出増加         ――1%分

 その上で、〈「経済財政状況の激変にも柔軟に対応できる仕組みを設ける」として、さまざまな経済指標を確認したうえで、経済状況によっては税率の引き上げを停止する規定を法案に盛り込む〉としている。

 低所得層程負担が重くなる「逆進性」対策として、〈2015年からの運用開始を目指している「共通番号制度」が定着した後を念頭に、一定の所得以下の人に、所得に応じて現金を給付する「給付付き税額控除」を検討〉、〈それまでの間は、一定の所得の世帯に一律に現金を給付する措置を行う〉としている。

 低所得層対策だとしている「給付付き税額控除」はあくまで「検討」であって、導入の確定となってはいない。

 にも関わらず、増税時期と増税率を常に先行させてきた。前原政調会長などは12月25日のテレビ番組で、「今の日本の財政状況を考えると、(税率が)10%で収まるとは到底思えない」(時事ドットコム)と、国民にどういった形式の負担を求め、その負担が国家の財政と国民生活にどのように寄与するのか具体的姿とその説明をしないまま、更に増税率を上げる、無責任な発言を示している。

 上記記事はまた、〈消費税率の引き上げに対する国民の納得と信頼を得るため、素案の冒頭部分に、「議員定数削減や公務員総人件費削減など身を切る改革を実施したうえで、税制抜本改革による消費税引き上げを実施すべきである」と明記し、衆議院の議員定数を80削減するための法案や、国家公務員の給与を削減するための法案の早期成立を図る〉と書いているが、野田首相は8月29日(2011年)の民主党代表選立候補演説で、首相になった暁にはという意味で次のように公約している。

 野田候補「先ずは隗より始めよ。議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減、それはみなさんにお約束したこと。全力で闘っていこうじゃありませんか。

 それでも、どうしてもおカネが足りないときには、国民にご負担をお願いすることがあるかもしれません」

 自ら有言実行の優先順位を約束し、それを自身が首相になった場合の公約としていながら、ブレて優先順位を逆転させ、消費税増税時期と増税率を先行させた。

 野田首相が最近になって「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」を言い出したのは、増税の前に議員定数削減や国家公務員給与削減等の行政改革を行い、自ら身を削ることが必要だと訴え続けてきた強硬な民主党内消費税増税反対派を納得させるためであって、自らの公約実現を優先させるためではなかった。

 このことは昨夜での民主党税調合同総会での野田首相の発言を見れば分かる。《野田首相:議員定数削減、通常国会に法案提出の意向表明》毎日jp/2011年12月29日 23時50分)

 野田首相「本来ならば(衆院の)1票の格差を是正し、定数を削減する成案を先の臨時国会の間に野党も巻き込んで得ていなければいけなかった。次の通常国会では(野党より)先に法案を提出し、成立を期すように樽床伸二幹事長代行には指示したい。民主党は政治家の集団ではない。政治改革家の集団であることを力強く国民に示そう。

 公務員給与削減法案も残念ながら先の国会では実現できなかった。政党間の協議で固まるよう全力を尽くすが、政治改革と同じように我々がボールを投げなければいけない。独立行政法人改革、公益法人改革、特別会計改革もやり抜きたい。

 政権をいただいてから4カ月近く、丁寧な国会運営を心がけてきた。来年は正念場の年。我々が掲げて来た政策を思い切って悔いのないように打ち出し、全力を尽くして成立を期す。『君子豹変(ひょうへん)す』という立場で行革にも臨んでいく決意だ」――

 8月29日(2011年)の民主党代表選立候補演説で「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」を自らの公約とした以上、消費税増税に言及する前に成案を得ていなければならなかったはずだが、そのことを裏切って後先を変えておきながら、「定数を削減する成案を先の臨時国会の間に野党も巻き込んで得ていなければいけなかった」と今更ながらに言っている。

 何という有言実行性だろうか。

 公務員給与削減法案にしても、優先順位を消費税増税の前に置き、消費税増税の実現に関しては「不退転の決意」を言っていたのだから、消費税増税と同様に「不退転」の有言実行性を示すすべきを、「残念ながら先の国会では実現できなかった」と「不退転」をどこかに投げ捨ててしまっている。

 8月29日(2011年)の民主党代表選立候補演説で自らが公約とした「議員定数の削減、そして公務員定数、あるいは公務員人件費の削減」を果たした上で、「どうしてもおカネが足りないときには、国民にご負担をお願いする」をすべて裏切った。有言実行性をかなぐり捨てた。

 「『君子豹変(ひょうへん)す』という立場で行革にも臨んでいく決意だ」と勇ましいことを言っているが、「君子豹変す」は現在では一般的に君子であった者が君子でなくなる、ウソつきや変節漢に思いがけない急変を見せるという悪い意味で使う。

 自ら掲げた公約を裏切り、有言実行性を紛い物としたのだから、まさしく「君子豹変」した。

 元々有言実行性は持って生まれた資質としていなかったのかもしれない。

 自分が口にしたことを平気で変えて何とも思わない、この責任感の欠如は一国のリーダーの責任感だと果たして言えるのだろうか。

 上記「毎日jp」記事は最後に野田首相の決意表明を伝えている。

 野田首相「一番苦しく、一番逃げてはいけないテーマは社会保障と税の一体改革だ。『苦しいから次の政権に任せよう。消費税は上げなければいけないが、いつかやればいい』という議論が続いてきたが、もうその猶予はない。欧州危機のことをことさら誇大に言うつもりはないが、(日本売りという)想定外ではない大きな危機が来るかもしれない。危機管理の意味からもやり抜かなければいけない。

 政治家としての集大成の気持ちで訴えている。残念ながら同志の中から離党者も出たが、この国の将来のためにこのテーマを我々が背負い込んで結論を出そう。少なくとも税率と上げる時期を決めることをもって初めて素案になり得る。素案を作って野党と協議する。今度は野党が苦しい番かもしれない。その上で大綱を作り、年度内に法案を提出する。このプロセスを揺るぎなくたどっていかなければならない」

 自分の発言に有言実行性を纏わせることができない首相がいくら立派なことを言っても、“オオカミ少年”の薬効しか見い出すことができないはずだ。 

 自分が一旦口にしたことを一つ一つ有言実行してきたなら、特別に立派なことを言ったり、特別な決意表明も必要としないはずだ。有言実行こそが、指導力と求心力の礎となり、国民の支持の糧となるはずである。

 一国のリーダーがこの体たらくなら、例え消費税増税10%実現を果たしたとしても、財政再建はできない、ムダの削減もできない、行政改革もできない、社会保障制度の改革もできないで、前原が言うようにたちまち「10%超」の増税が必要になるに違いない。

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