診療所だより

開業医gobokuの日記

こんなこと考えながら、
こんな生活しています。

初めてのアニサキス

2015年09月12日 | 診療
たった今のことです。

今朝は一番にやってきた神田さん。
ご近所のいつもお世話になっているかたです。

「昨日の夜から腹が痛くってさ」
「なにか、思い当たることはないですか?」と僕。

「そうだなぁ、昨日サンマの刺身食べたっけかな。」

頭の中にはアニサキスと言う文字が ピカピカと光っています。

「神田さん、今日 朝ご飯は食べましたか?」
「いんや、腹痛えから、なにも食えなくてよ。」

ラッキーです。胃カメラが出来ます。

次は鉗子です。虫を捕まえることの出来る鉗子はあるのか。
そういえば昔、買ったような記憶が。
「看護婦さん、全部の鉗子見せて、大腸用でもいいから。」

探してくれたら、把持鉗子が出てきました。
「これ使うから。」といよいよ胃カメラ開始です。

胃の中は相当荒れています。
あちこちに急性の胃潰瘍のような出血部があります。
でも明らかな潰瘍はなく、腫れて出血があるだけです。
それらを一つ一つ観察して,アニサキスがいないか見て行きます。

そしてとうとう胃体部前弯の出血部に
なにやら糸のようなものを見つけました。

モニターを見ている神田さんも
あっともウッとも聞こえるような驚きの声を出しました。

これでしょう、アニサキスは。
初めてのアニサキスです。

「さっきの鉗子だして。」と僕。
いよいよ摘出です。

ところが、この場所は取りづらい場所です。
何回かつかんで、引っ張ったのですが そのたびにするりと抜けてします。
何回やってもダメなのでこちらもダンダンあせってきます。

そこで、一回鉗子を抜いて先端の状態を確認すると
隙間が空いてるではありませんか。
これでは掴めたようにみえても、すり抜けてしまいます。

あとは うちにあるのはバイオプシー用の鉗子だけです。
これだと短くちぎれてしまう可能性があります。

仕方がないので、バイオプシー用の鉗子を僕のゴム手袋に噛ませて握り方の調整です。、
「看護婦さん、あまり強く握らないで。そうそうこのぐらいでいいから。」と
バイオプシーする時より、弱く優しく握ってもらうようにお願いして、
いざ、再挑戦。

するとしっかり掴めたのです。

あとは、鉗子を内視鏡の中まで引っ張り込まないで、
内視鏡ごと抜いてきて摘出です。
「いいかい、ぬくよ、はい。」

抜いたカメラの先端に鉗子の丸い部分が出ていて、
そしてその丸い部分はしっかりと白い糸状のアニサキスを掴んでいました。

看護婦さんはいつの間に用意したのか生食の入ったシャーレを出して、
うまいことアニサキスをその中に入れてくれました。

シャーレの中のアニサキスは、クニョクニョと動いています。
それを神田さん、スタッフ全員に見てもらって、
一件落着でした。

やれやれ、
久しぶりに緊張した、アニサキス摘出でした。

しかし今こうやって書いてみて気づいたことは、
最高の殊勲者は アニサキスを柔らかくつかんでくれた看護婦さんですね。
強く握ってしまったら、切れちゃっていたのですから。