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中国、「低賃金・丸抱え」労働モデルの終焉 Factory City Model

2010-06-09 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2010年6月9日(水)

Financial Times、The New York Times、The Wall Street Journalの3紙が一斉に中国での外資企業における労働争議の頻発を取り上げ、中国における「低賃金労働のみを目的にした製造業の工場進出ビジネスモデル」の終焉を報じている。

Financial Timesは、台湾の製造受託サービスで世界最大の鴻海精密工業(Foxconn)が台北で開いた株主総会の席上、「本土進出の条件として、工場のみならず、従業員住宅や福利施設を含めた一大地域社会を建設することを引き受けてきたが、このモデルから脱却する」と明確な方針を打ち出した。

同紙は、「Factory City Systemを見直し」と見出しに付けているが、ちなみに同社の深センの「企業村」には27万人の従業員が住み、Apple、Dell、Hewlett-Packardの製品を作るために働いている。

同社会長は、「だいたい従業員の生活の場まで提供しているために、従業員の自殺の責任まで云々されることになってしまった。今後は社宅を地元自治体に売却していく方針」であると語っている。

同社はすでに、従業員の賃金の大幅な引き上げに同意しており、今年1月からの引き上げと合わせると、2.2倍になる。同社はこのコスト上昇を発注元の米国の企業に転嫁する交渉を来週から始める。中国は、もはや「タコ部屋労働キャンプ」的な経営を許す場所ではなくなった。

一方The Wall Street Journalは、今回標的となったホンダの広州を基幹工場とする各地に分散した同社の下請け工場群における激しい労働争議を、「中国の労働者は賃上げのみならず、影響力(clout)を獲得」との見出しのもとに報じている。

ホンダのストライキは基幹工場で24%の賃金と手当の引き上げで妥結したが、まさに中国の経済評論家の言葉のごとく、「中国の労使環境の分水嶺(a watershed)」となったのであり、これから「燎原の火の如く」中国全土に拡大していくことは必至である。

中国政府は、急激な経済成長がもたらした、個人と地域での大きな所得格差と不平等問題に取り組むことを昨年来強く打ち出しているので、今回のストライキについては取り締まりを目的とした介入は表向き行っていないし、マスコミ報道は規制しつつもある程度許している。そして並行して中国政府と地方政府は矢継ぎ早に最低賃金の大幅な引き上げを発表を行い民意に沿った姿勢を打ち出し始めた。


今回の労働争議の背景には、10%近い経済成長率を支えるための労働力供給のひっ迫問題がある。「一人っ子政策」の影響で若年労働力の供給が急速に減っていて、本年になって、有効求人倍率が初めて1.0を超えたのである。

The New York Timesは、ホンダに対してはすでに4工場がストライキの標的となったがこれが下請けを含むた工場群に波及しないという保証はないとしている。そして日本企業特有の問題点として、中国人従業員の幹部登用を行わない労働政策にもおおきな問題ありと鋭く指摘している。

欧米企業は中国消費者を直接顧客にするところは別として、生産拠点として利用してきたところは、中国に見切りをつけ工場を続々とベトナム、フィリッピンなど東南アジアに移し始めている。

時代の動きは激しい。来年からはアフリカが焦点となるはずだ。中国はアフリカの資源と労働力を求めてすでに、日・欧米の先手を打って行動を開始しているのは歴史の皮肉である。



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