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中国ホンダの労働争議の持つ意味 Unusually Permissive

2010-05-31 | 中国・ロシア・インド・ブラジル動向
2010年5月31日(月)

The New York Timesは、「長年にわたって一日12時間、週6日、単調な組み立て作業を低賃金で働くことを強いられてきた労働者がものを言い始めた」とホンダの工場で起こったストライキを伝えている。そしてそれを、「いまや中国の収入格差(income inequality)、インフレ、高騰する住宅価格との戦いのシンボル」となったと論評している。

そしてこの件の中国のメディア報道に注目している。

「中国政府は今度のストライキをある程度のところまで許容するつもりで、先週国営メディアも大々的に報道させていたが、土曜日なって、労働争議の全国的な波及を恐れて突然報道を全面的に禁止した」と変化を伝えている。

また一時的とはいえストライキ報道を許した(unusually permissive)のは、「共産党としても国内に広がる所得格差に対する不満解消に取り組む必要が出てきたということだ。労働者が低賃金にあえいでいる現状が社会問題として放置できないところまできている」と推測している。

また同紙は、ホンダの工場で働く労働者は、若者がほとんどで、政治的意図はほとんどなく、「月給を800元上げてもらえればストライキは止める」とのインタビュー結果を伝えている。

現在のホンダの広州工場における平均賃金は、150ドル/月(15000円)であり、これに117ドルを上乗せしてほしいと言っているのがその要求である。

一方Financial Timesはさらに詳しく、「ホンダの工員の月収は、900-1500元で、これを2000-2500元まで上げることを要求している」と伝えている。ただし蚕棚式の部屋代はタダで、食事は格安であることは勘定に入れる必要はある。

いずれにせよ中国の若者は、月給15000円すなわち年収18万円で、週6日、一日12時間働いて、ホンダの車を製造し、AppleのiPadを製造している。われわれの着るシャツがなぜかくも安くなっているかの説明はここにある。

NYTはさらに続ける。「多くの若者は残業をいとわず働くが、残業代を加算してもその月収は3万円程度にしかならず、とてもアパートも買えず、小型車も買えない」

NYTは、なぜホンダ問題だけがクローズアップされたかについては、反日感情が底流にある中国社会ゆえに、「ホンダでの低賃金問題をやり玉に挙げるのは、中央政府も許容するであろう」とのメディア側の読みがあったとしている。

また「中国政府が今月になってAppleやHewlett-Packard製品を製造する台湾系のFoxconn社における自殺者が続発したことの報道を許可したことも注目される」としている。

政府系のThe Official China Dailyがその論説で、「ホンダのストライキは政府が賃金政策で無策であったことを証明している。今後労働争議を拡大させる可能性がある。さらには所轄の官庁が、賃金改革を約束しながら経営者側の圧力に屈して実行しなかったことは問題である」と政府批判を行ったことも極めて異例で、注目される。

ホンダが職場復帰を労働者に求めて配布した「誓約書」“Promise Note”には、「絶対に、労使対決・工場操業妨害・ストライキを指導したり、組織したり、参加したりしません」と印刷されていて、署名を求めている。これに労働者は「こんなものにサインはしない」と吐き捨てていると、Financial Timesが伝えている。

中国では日本の労働組合に対応する「工会」が職場ごとに組織されているが、これは共産党の直轄組織であり、経営側にも共産党代表が必ず入っているので、よほどのことがない限り党の方針から外れたことは、企業レベルで起こらない。メディアも政府にコントロールされている。

しかしインターネットで労働者は、賃金水準を知るようになったというのが大きな変化である。中国政府は、外資系企業のもたらす輸出収入に目を配りながら、賃金格差問題に「実験的に取り組み始めた」ということであろうか。



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