自衛官にとって最大の娯楽、楽しみは、世間と同じく外出である。
艦艇では外出ではなく上陸と呼ぶが、いろいろな決まり・制約があり、上陸の種類と概要を思いつくままに略記すると。
・普通上陸:当直シフト以外で階級別に一定割合で許可される通常の上陸。
・半舷上陸:乗員の半数を上陸させるもので、上陸の機会が2日である場合や、緊急出港が予想されたり警戒を要する外国港湾で付与
・特別上陸:主として当直中に家族保護等のための緊急な場合に付与。各職域の送別会等に時間を区切って付与する場合もある。
・入湯上陸:真水保有量が少なかった時代や真水保有量の少ない小型艇で、入浴のために時間を区切って半舷上陸の形で付与。自分の経験では3回あるだけ。
・賞与上陸:円滑な艦内生活のために定められた普通役員と呼ばれる食卓係・衛生(厠)係等に従事した場合1カ月に1日の割合で当直日に与えられる上陸
・捕虫・捕鼠(そ)上陸:相当量のアブラムシや鼠1匹を捕まえた場合に1回、当直日に与えられる上陸。ただし、衛生状態の整った現在では無い、若しくは空文化
・区域外上陸:通常の交通手段で片道2時間以上4時間未満の時間を要する地域に行動する場合に申請・許可。
と事細かく定められている。
普通上陸は、艦艇の大小や乗員の多少によって差異はあるが、現役中は海士3日に2日(2/3上陸という。以下同じ)、2・3曹は3/4、1曹は4/5、CPO(先任海曹)・幹部は5/6日が標準的であったが、おそらく現在でも同じであると思う。自分の若年時代は平日1/4・土・日2/3上陸で、平日は概ね週1回の上陸であるが運悪く上陸日が航海日に当たって上陸できないこともしばしばであった。
上陸が如何に貴重であるかは、1か月間食器洗いや便所掃除に頑張って1回の上陸を賞与(ボーナス)として与えられることに端的に表されていると思う。
懲戒処分には至らない程度の悪さには、CPO権限による「上陸止め」という刑罰がある。上陸止めは、通常は期間で示されるが意地の悪いCPOは上陸可能回数で示すので、航海などで上陸出来ない日はカウントされないために思った以上に日数がかかることがある。また、上陸止めは、懲戒処分待ちの状態でも発動され、いわば未決拘留であるが被告人は「少々処分は重くてもいいから早く処分申し渡しを受けて上陸止めが解除される」ことを願うのが普通(実体験)である。
上陸が乗員最大の楽しみであることは洋の東西を問わないようで、アメリカ海軍では上陸をliberty partyと呼び、将に”自由だ”の叫び声が聞こえてきそうな字面である。さらに上陸止め刑罰もあるらしく、他の乗員がliberty partyに出艦する際に、仲間から冷やかされながらペンキ塗りをしている兵隊をよく見かけるし、佐世保のニミッツパークでは兵隊がひたすらに穴を掘っては埋め戻すことを繰り返している光景もおなじみである。