ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

2008年06月15日 | 映画レビュー
 派手派手しく何度も劇場で予告編を流していた作品だけれど、そのお気楽な雰囲気とは違って、実はとっても重いテーマを持つ映画。観客が「素直で脳天気なお子様」か「物事の裏を読みたがる老人」かによって極端に受け止め方が変わる作品だ。もちろん、「お子様」と「老人」は文字通りの意味ではなく比喩です、念のため。素直にこの映画を受け止めれば、アメリカ万々歳、ソ連のアフガン侵略を阻止し、貧しい人々を救った英雄はチャーリー・ウィルソンという酒と女に目がないテキサスの議員です、ただし最後の詰めを誤ったのでアフガンゲリラを育てることになってしまいました、そこは残念だったねぇ。というお話。最後の詰めを誤ったということはラストでちらっとテロップで流れるだけだし、そこすら見落とすお子様がいるかもしれない。

 で、疑り深い老人はどう見るか? もちろんこの愛すべきチャーリー・ウィルソンという男(トム・ハンクスが演じるからほんとに憎めない)、恋人で大富豪の美しき未亡人と組んでソ連をアフガンから放逐した裏の仕掛け人ではあるが、その企みがそうそう単純に人道的な動機から出ているとは思えない。莫大な工作費をつぎ込んだことは結果的にその金がどこに環流したか、誰を潤したかを考えるべきだ。

 今では、9.11の実行犯「テロリスト」を育てたのはCIAだということは知られているが、この映画の時代、1980年代にはそれはもちろん極秘事項だった。議会を通さない莫大な予算をCIAにつけさせたのがチャーリー・ウィルソンであり、彼はなんとソ連製の武器をイスラエルから調達してアフガンゲリラに流すという荒技をやってのけた。その交渉術が映画でおもしろおかしく描かれる。結果を知っている政治劇だが、裏話がよく描けているため、面白い。主役3人のキャラクターが立っているため、非常にわかりやすい政治コメディとしてそれなりのヒット作となるだろう。

 トム・ハンクス演じるお気楽で正義感の強いテキサスの議員、ジュリア・ロバーツ演じるテキサスのキリスト教原理主義者大富豪、フィリップ・シーモア・ホフマン演じるCIAの窓際族。この3人のからみが面白い。実在の人物3人を描き、しかも関係者が生存しているという状況ではなかなか本人たちを悪し様に描くことは難しい。映画的な誇張があるとはいえ、相当に癖のあるこの3人がそれぞれの思惑で動きながらも結果的にアフガンをソ連から解放し、ソ連の崩壊を導く。しかしこの、一見裏話を描いた暴露モノとして面白げに作られた作品が、アメリカの現状への明確な批判を欠くため、そこに何かが隠されているような疑念が消えない。見終わった後の感慨も薄い。

 退屈せずに見られるように手堅く作ってある作品だけに、これを単純に鵜呑みして見ることは要注意。何もかもアメリカが自分の思惑通りに物事を運べると勘違いしているかのようなチャーリー・ウィルソンを称揚するようでは、「世界の警察」アメリカ礼賛のイデオロギーから自由にはなれないだろう。

----------------

チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
CHARLIE WILSON'S WAR
アメリカ、2007年、上映時間 101分
監督: マイク・ニコルズ、製作: トム・ハンクス、ゲイリー・ゴーツマン、原作: ジョージ・クライル、脚本: アーロン・ソーキン、音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演: トム・ハンクス、ジュリア・ロバーツ、フィリップ・シーモア・ホフマン、
エイミー・アダムス