ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

2008年04月05日 | 映画レビュー
 「うつせみ」に比べるとかなり落ちる。これはつまらなかった。キム・ギドク監督の作品は当たりはずれが大きい。


 老人と少女が二人きりで舟の上で生活している。老人は少女が幼いときから10年間育て、少女が17歳になったら妻にするつもりでいる……という源氏物語みたいな浮世離れした話なので、「春夏秋冬そして春」のような深山幽谷の中に浮かぶ舟を想像していたのだが、そうではなく、老人は糊口をしのぐために二人で暮らす舟を釣り人たちに開放して金銭を得ている。そんな、中途半端な生活臭さを描いたために、この物語の寓話性が落ちてしまった。

 そもそも、船が浮かんでいるのは湖ではなく川でもなく広々とした大洋の上だ。そして太陽は明るく降り注ぐ。その一点の曇りもない美しさがわたしの気に入らない。なぜもっと侘びしく深閑とした海を描写しないのだろうか。まるでカリフォルニアの青い空みたいな脳天気な明るさ、これがそもそも期待と違っていたために、もうなんだか興味を削がれる。

 老人と少女は一言もセリフがない。二人は口がきけないわけではなく、お互いは耳許に口を近づけて何かしゃべっているのだが、それは観客には聞き取れない。そんな禁欲的な設定もこの映画ではうまく生きているように思えない。というのも、船に乗ってくる釣り人たちがあまりにも下世話で饒舌だからだ。ストーリーが持つ寓意とこの演出がそぐわない。

 タイトルの「弓」は、老人が娘を外敵(好色な釣り人)から守る武器であり、また楽を奏でる古楽器であり、占いのための道具でもある。この占いがまた危険極まりなく、娘の身体を的にして弓を射るというもの。ブランコに乗って揺られる娘の身体をかすめて弓が射られる。この場面はスリルに満ち、娘が老人との絶対的な信頼の上に絆を築いてきたことを実感させるものだ。

 あと2ヶ月で17歳になり老人の妻となるはずの少女の前に、一人の青年が現れる。釣り客の一人としてやって来た青年に淡い恋心を抱いた少女に老人は怒り狂う。

 ……、とこのあたりまで物語が来たときには眠くて眠くて…。途中、寝てしまいました(こればっかり)。そもそもやっぱりこの設定がわたしには気に入りませんでした。老人と少女との純粋な心の結びつき、二人の交わることのないエロスを描きたければ、もっと寓話性を高める必要があるだろう。二人きりの生活の中に闖入者としてやってくる青年ももっと美しくなければダメ。ギドク監督にしては切れを感じさせない作品だ。音楽だけはよかった。(レンタルDVD)

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製作国 韓国、2005年、上映時間 90分
製作・監督・脚本: キム・ギドク
出演: チョン・ソンファン、ハン・ヨルム、ソ・ジソク、チョン・グクァン