ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

サッド・ムービー

2008年02月10日 | 映画レビュー
 四つの話が並行して語られる。「悲しい映画」なのだから結末はどれも悲しいに決まっているのだが、とりわけ病気の母を思う男の子の話には泣かされた。ほかの失恋話にはぐっとくるものが少なかったが、これだけはダメだ。母親の目で見てしまうからだろう、こういう話には弱い。やはり一途に母を思うのは男の子なのだろうか。母恋の少年という図は物語となるのか――

 四つの愛の終わりは、消防士とその恋人、消防士の恋人の妹とその片想いの青年、無職の若者と彼に愛想をつかす綺麗な恋人、母と小学生の息子、の四組の物語。消防士が「私の頭の中の消しゴム」のイケメン、チョン・ウソンなんだけれど、ちょっと太ってしまってキレがない。優柔不断でなかなかプロポーズできない気弱な感じが出ているかも。
 

 定職のない若者(『猟奇的な彼女』のチャ・テヒョン、情けない感じがとてもいい)がひょんなことから思いついた仕事が「別れさせ屋」(韓国語で「離別代理」と名刺に刷ってある)。別れたくてもなかなか相手にいいだせない人の代わりに別れ言葉を言いに行くという仕事で、これが意外なヒット。仕事もうまくいって彼女ともヨリを戻せると思ったんだけれど…。いやこれは面白いエピソードです。別れさせ屋とはよく考えたものだ。このエピソードのコミカルぶりはよかった。しかしそれ以外のエピソードはひねりがなさすぎたんじゃないかな。耳の聞こえない少女としがない似顔絵描きとの淡い恋なんて、ハッピーエンドにしたほうがすっきりする話なのに。

 というわけで、男の子が「オンマ、オンマ」(ママ、ママ)と泣く話だけは泣けたけど後はダメでした。わざわざ四つの物語を用意しながらそれらが有機的につながる醍醐味がなかったね。(レンタルDVD)

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韓国、2005年、上映時間 109分
監督: クォン・ジョングァン、脚本: ファン・ソング、音楽: チョ・ドンイク
出演: チョン・ウソン、チャ・テヒョン、イム・スジョン、ヨム・ジョンア、シン・ミナ、イ・ギウ、ソン・テヨン、ヨ・ジング

アラバマ物語

2008年02月10日 | 映画レビュー
 物語の舞台は1930年代、一人の女性が少女時代を回想するという形式で進む。アラバマの暑いひと夏、子ども達が父の姿を見ることによって成長していく姿が瑞々しい。何よりも主役を演じた女の子がいい。お転婆で好奇心旺盛、そのくせ甘えん坊。

 弁護士アティカス・フィンチが冤罪事件を担当する社会派作品かと思いきや、その事件そのものが物語の中心に据えられるまで1時間近くが経過する。前半は子ども達の物語だ。もちろん全編に亘ってスカウトという当時6歳の少女だった女性の独白が入るので、当然にも映画の視線は子どもの立場にあるのだが、実は映画には子ども目線と大人目線の二つが存在する。で、この映画は断然子ども目線のときがいい。近所に住む知的障害のある「ブー」という青年をめぐる冒険のハラハラ感がよく描けているし、この場面がラストに生きてくる。父を「パパ」と呼ばずに「アティカス」と呼ぶ兄妹たち、この時代にあり得ないぐらいリベラルな一家であることがよくわかる。

 本作が大人の視点に変わるのは裁判シーンなのだが、ここは詰めが甘いと感じざるをえない。「それでもボクはやってない」のような白熱の裁判映画を見た記憶がまだ鮮明なので、それに比べればこの裁判の場面はリアリティが薄く、偽証を曝いていく弁護士アティカスの熱弁ももっと理詰めでぎゅうぎゅう言わせればいいのに、という不満が残る。だが、だからこそこの裁判の結果が「正義は勝つ」にならなかったわけで、社会の不正を描く映画のテーマとしてはこういう展開へと引っ張る必要があったのだろう。

 裁判シーンでのグレゴリー・ペックの熱弁長広舌は、『JFK』でのケヴィン・コスナーのそれを思い出させた。というより、ケヴィン・コスナーがペックを意識して演技したのだろうな。

 人種差別に苦しめられる黒人の苦悩を演じたブロック・ピータースといい、生き生きとした子役といい、演技陣がとてもいい。G.ペックは本作でアカデミー賞を獲った。貫禄の演技で信頼感溢れる父親を演じている。ただ、あまりにも「正義の人」すぎて近寄りがたいものがあるかも。

 原題の『ものまね鳥を殺すには』の意味がこの映画ではそれほど生きていないのでは? 木の洞に物を隠してある場面が描かれるが、それが伏線として生きてくるのかと思ったがそうでもない。思わせぶりなわりにはちょっと肩すかしだった。わたしはトムの冤罪の証拠になるものかと思ったんだけどね。ここはブーと子ども達のからみとなる伏線だったわけだ。

 セル盤には特典がないが、レンタルには1時間半もついているらしい。ちょっと見たい気もする。兄妹の友達が面白いキャラクターで笑えるのだが、この少年は原作者ハーバー・リーの幼馴染みトルーマン・カポーティがモデルだそうな。(DVD)

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TO KILL A MOCKINGBIRD
アメリカ、1962年、上映時間 129分
監督: ロバート・マリガン、製作: アラン・J・パクラ、原作: ハーパー・リー、脚本: ホートン・フート、音楽: エルマー・バーンスタイン
出演: グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ブロック・ピータース、ロバート・デュヴァル

ユア・マイ・サンシャイン

2008年02月10日 | 映画レビュー
 売春婦だったウナはHIVキャリアなのに、そうと知っていても彼女に純愛を捧げ尽くす愚直な男ソクチュン。まさに愚か者への一途な愛を描いたベタベタベタな映画。しかしあまりのベタさとあまりの純愛に突き抜けているので感動してしまう。彼女が売春しようと自分を嫌おうとそんなことはものかは、とにかく愛して愛して愛し抜く、その愛の力はどから湧いて出るのだろう? ウナの愚かさゆえにソクチュンは彼女を愛するのかもしれない。ウナの愚かな行いと改悛の深さにソクチュンは彼女を深く愛するのだろう。こんな映画に感動してしまうわたしもどうかしている。でも実話だというから二度びっくり。(R-15) (レンタルDVD)

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韓国、2005年、上映時間 122分
監督・脚本: パク・チンピョ、音楽: パン・ジュンソク
出演: チョン・ドヨン、ファン・ジョンミン、ナ・ムニ、ソ・ジュヒ、ユン・ジェムン、リュ・スンス