ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ルワンダの涙

2007年04月07日 | 映画レビュー
 「ラストキング・オブ・スコットランド」に続いて「アフリカもの」です。

 言葉をなくす映画。劇場内は水を打ったように静まりかえった。「ホテル・ルワンダ」の甘さもドラマも許さない作品だ。「ホテル・ルワンダ」よりも「北」の視点がよりいっそうはっきりしたために、国連軍に代表される「北」の冷酷さと人道主義の限界がよく見える。しかしわたしたちは確かに「北」からしかアフリカを見ることができない。その苦悩がにじみ出た映画だ。「ホテル・ルワンダ」よりも評価したい。

 1994年に起きたフツ「族」によるツチ「族」の大虐殺は100日で100万人が殺されたという。少数派ツチはなすすべもなくフツの人々にナタで斬り殺された。なぜ何十万人も殺されるまで無抵抗だったのか不思議なのだが、数の上で不利な支配層ツチが民族間の憎悪によって赤ん坊にいたるまで惨殺されるという強烈な映像がこれでもかと迫ってくる。「ホテル・ルワンダ」では露骨な惨殺場面が回避されていたが、この映画では無慈悲に人々が「狩られる」様子を冷酷に映す。

 この映画の舞台となった教会付設の技術学校での虐殺事件は実際に起きたことであり、国連軍が撤退したために2500人のツチの人々が殺された。この映画の主張は「なぜ国連軍はかくも無力なのか」という痛烈な批判であり、人々を置き去りにした罪への深い悔悟だ。主人公はイギリス人である初老の神父と青年神父の二人。彼らは布教活動のためにこの地に住んでいたのだが、長らくここに住んで現地の言葉も堪能なクリストファー神父の自己犠牲の精神が痛ましい。彼はなすすべもなく人々を見殺しにした先進国の人々の中で唯一の「良心」の代弁者として存在する。だがここでわいてくるのはやはり「ホテル・ルワンダ」を見たときと同じ疑問だ。見殺しにするのが悪いというなら、どうすべきだったのか? フツの人々を殺せばよかったのか? 今まさにナタを振るおうとする群衆の前でどうすればよかったのか?

 この映画はルワンダの悲劇を物語として消費することを赦さない。観客が「お前はどうするのか」と鋭く問い詰められるからだ。「ホテルルワンダ」とはまた違う後味の悪さが残る。後を引くのはこちらのほうだろう。

 <ここからネタバレ>




 ラストシークェンスに登場するのは5年後のマリーだ。彼女がタータンチェックのジャケットを粋に着こなした女子学生スタイルでイギリスに現れたのを見て観客はほっとする。ここにこの映画の陥穽がある。ルワンダからイギリスへと救い出された彼女を見て「ハッピーエンド」と思うなら、わたしたちは相変らず「南を救ってあげる」という視線から自由にはなれないだろう。

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ルワンダの涙
SHOOTING DOGS
上映時間 115分(イギリス/ドイツ、2005年)
監督: マイケル・ケイトン=ジョーンズ、脚本: デヴィッド・ウォルステンクロフト、音楽: ダリオ・マリアネッリ
出演: ジョン・ハート、ヒュー・ダンシー、クレア=ホープ・アシティ、ドミニク・ホルヴィッツ、ニコラ・ウォーカー