ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

悲恋四谷怪談

2005年01月19日 | 読書
2005年01月19日
 短くブツブツと切った文体。連用形・接続詞止め。そして、まどろっこしく説明する部分があるかと思うと、肝心のところをぼやかして書かない、心憎いばかりの筆。

 愛し合いながらも傷つけ合うことしかできなかった、深い業に生き死んだ男と女の悲しい物語だ。

 四谷怪談をこんなふうにアレンジするなんて、新鮮な驚きに満ちた物語だった。岩は気の強い現代的な女性として描かれている。いや、現代でもなかなかこのように強い性格の賢い女は少ないだろう。気立ては荒々しいが自分の信念をしっかりもった女性として作者は岩を描いている。だが、自分の信念をしっかり持っているということは逆に言えば他者を受容しにくい性格でもあるわけで、岩は病気によって醜く崩れた自分の顔のことがあるため、夫となった伊右衛門にも素直になれないのだ。

 岩自身は決して自分の醜くなった顔を恥じてはいない。だが、自分と違って温厚でやさしく無口な夫に対して、うまく接することができないのだ。民谷家に婿養子にやってきたイエモンに、岩は心とはうらはらにきつい言葉ばかりを投げかけてしまう。

 新婚まもなく二人はイエモンの上司の奸計により別れさせられるのだが、二人は深く互いを愛していたのだ。これが実はちょっと不思議なんだけど、なぜイエモンは岩を愛しく思えるのだろう? 自分に妻らしいやさしい眼差しを向けたこともなさそうな岩をなぜイエモンは愛せたのだろう。

 なぜ二人がかくも深く愛し合えたのかは謎の部分があるのだが、それでも、どんなに相手を愛していても傷つけることしかできないその悲しさがこの切れ切れの文体から強く漂ってくるのだ。
 だから、最後の一行を読み終えた瞬間にいきなり涙があふれてきた。

 登場人物については初めから、岩=小雪、イエモン=唐沢寿明というキャラ設定で読んでいたので、そのイメージしか頭に浮かばなかった。原作のあとで映画を観たときも、もともとそういうイメージだったから違和感はまったくないのだが、敵役の上司伊藤喜兵衛だけがイメージ違ったなぁ。

 いずれにしても、この主要な3人のキャラクターは、「異様」と言っていいぐらい極端に立っている。だから、キャラクターの強い性格に引っ張られて、少々説得力のないストーリー運びでも強引に読まされてしまうのだ。徐々に壊れていく女(梅)のこころ、お岩の幻影、ストーリーは後になるほど怪談めいてくる。ゾクゾクしながら読んでいくと、最後に悲恋に涙する。

 観てから読むか、読んでから観るか。やっぱり「観てから読む」が正解だと思う。いや、観なくてもいいかも。

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<書誌情報>
 
 嗤う伊右衛門 / 京極夏彦[著]. -- 角川書店, 2001. -- (角川文庫 ; 12215)