ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「無理」

2009年12月26日 | 書籍関連
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3つの町が合併して出来た人口12万人の「ゆめの市」。古くから在る商店街は寂れ、国道沿いの複合商業施設「ドリームタウン」が唯一の盛り場。この街で暮らす5人、「県庁職員だが社会福祉事務所に出向し、生活保護支給業務等を担当する相原友則」、「東京での華やかな大学生活を夢見る女子高生の久保史恵」、「詐欺紛いの商品を売り付けるセールスマンの加藤裕也」、「スーパーの保安員をし乍ら新興宗教に救いを求める堀部妙子」、「県議会に打って出る腹積もりの市議会議員・山本順一」が鬱屈を抱えたまま日々を送り、やがて思い掛け無い事態に陥って行く。
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奥田英朗氏の小説「無理」は、上記した5人の視点でストーリーが展開して行く。3つの町が合併して出来た「ゆめの市」は、一言で言えば「活気の無い地域」。成績優秀な若者は次々に都会へ出て行き、落ち零れ見做された若者達の少なからずは違法集団に身を置く。彼等が正業に就いたとしても、低賃金で扱き使われて、明日の保証も無い契約社員か、正社員で在っても将来に夢を抱き様も無い状況。この手の表現は好きで無いけれど、一般的に言えば「負け組」と評される人々が多く住む地域が「ゆめの市」で在り、こういった地域は今の日本に結構存しているのが実際だと思う。

詐欺集団や新興宗教は、社会的弱者から金銭を如何に巻き上げるかに汲々としている。もし社会的弱者を「負け組」と捉える“としたら”、この小説でその負け組から金銭を巻き上げようとする詐欺集団等の構成員も、又同じ「負け組」と呼ばれた人達というのが遣る瀬無い

「職を求めて来日し、低賃金で扱き使われている外国人労働者」と「社会から弾き出された者達」の争いというのも含め、「より弱い立場の者を何とか見付け出し、“集団リンチ”する。」という構図は、その程度を問わなければ日本のみならず、世界中でチラホラ見受けられるのが現実。又、社会的弱者を装い、不正に金銭を得るというのも現実に存在する。そういう不埒な輩の為に、本来救われなければならない者達が救われないとしたら、これも遣る瀬ない話だ。

最初は接点の無かった5人が、“最後”は接点を持つ事になる。余りの偶然とも言えるし、神の悪戯とも言えよう。

ストーリー的には引き込まれる物が在ったが、結末がどうも消化不良。又、先日読み終えた小説「後悔と真実の色」もそうだが、この「無理」も内容とタイトルが上手く噛み合っていない。様に感じた。

総合評価は星3.5個

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3 コメント

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こんばんはです。^±^ノ (てくっぺ)
2009-12-26 04:20:37
この小説は現実っぽいですね。
そういえば釣りバカ日誌のファイナルもとうとう鈴木建設が不況のあおりを受けた設定になってますよね。
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Unknown (spa supernova)
2009-12-26 14:29:10
作者の下には「うちのほうが舞台ですか」という問い合わせがたくさん来ているとか。

>ゆめの市

こういったことは昭和40年代からおきていたのですが(学業優秀な若者の市外流出)、昭和60年代から徐々に顕在化(コネかワイロを使うなりして役所職員や教員になる以外大卒者の仕事はない。新興宗教とコミュニティ他)して今に至るという印象があります。そして2000年代以降はそこに外国人労働者という顔も加わってきたような。

私の実家のある市(町村合併で2005年成立)でも市議会トップ当選が公明党系です。建設業者等の職業団体や商店主たちの組合から出ている候補者は軒並み苦戦。特に建設業と商店街系の凋落は激しいです。新興住宅街の若夫婦や高齢者福祉に篤い候補、となると公明か共産、民主となるようです。地方議会も無党派の時代になりました。
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>spa supernova様 (giants-55)
2009-12-26 20:13:41
書き込み有難う御座いました。

この小説を読んだ際、頭に浮かんだのは「夕張市」でした。「悪循環」という言葉が在るけれど、一旦良くない流れが出来てしまうと、それが次々に新たな悪い流れを生み出してしまい、結局は悪循環に陥ってしまう。そんな地域は日本の各地に在ると思うし、だからこそ「うちがモデルですか?」という声が少なからず集まるのでしょうね。自分が住んでいる地域は此処迄寂れていないけれど、それでも高齢者が増え、商店街にはシャッターを下ろした店がチラホラ存在します。全てに於いて、一極集中化傾向に在るのでしょう。

嘗ては地方の有権者をがっちり抑え込んでいた自民党も、それに胡坐をかき過ぎていたが為に、手痛い竹箆返しを食らう事になった。何でもかんでも過ぎた保護はどうかと思うけれど、これだけ地方が疲弊してしまった以上は、国策として或る程度のケアをしないと駄目ではないかと思っております。過度はいけませんが。

さて、今年1年本当に御世話になりました。一足早いですが、良い年の瀬を御迎え下さいませ。
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