AIR DO - ゼロから挑んだ航空会社

2008-03-02 07:01:53 | Books
僕自身が北海道出身というのも少なからず関係しているのだろうか、読後には何とも言えず込み上げてくるものがあった。人は何かに共鳴するとき、無意識に心の繋がりを感じるものだと思う。心のない経営に人や支援は集まらない。全編を通して貫かれているのは "熱い思い" という真っ直ぐな心である。

著者の浜田輝男氏はエア・ドゥ創立の言い出しっぺであり、人が口に出すのも憚られる夢物語を多くの同志の支援を得て実現させた人物である。「道は険しい」とはよく言ったものだが、赤裸々に語られるその内情は生々しい現実感を伴って読者に迫ってくる。

横浜の鶴見で生まれた著者は帯広畜産大学を卒業後、北海道に根を下ろし、養鶏業を営むことを決意する。鶏卵はここ数十年ほとんど価格変動がないという市場でも稀有の存在。その背後には経営者たちの生き残りを賭けた厳しい価格競争があった。だが常に研究や挑戦を怠らなかった彼は自身の会社をいわゆる勝ち組と呼ばれる存在にまで成長させた。そんな航空業界とは縁もゆかりもない世界で生きる男が低迷する北海道の復興を願い、その元凶となっている航空運賃の大幅値下げという目的のために一人立ち上がる。

今までその価格や愛郷心から出来るだけエア・ドゥを利用してきたが、本書を読むまでは羽田-札幌便が世界一利用客の多い航路であることや一時間程度のフライトの海外相場が一万円ちょっとであることなど全く知らなかった。長年大手により価格操作されてきたせいもあるのだろう、AIR DO が参入するまでは "高い" と感じつつも、それ以上の疑念は抱かずに受け入れて来た気がする。往復で五万円以上の運賃は航空会社にとってまさに甘い汁だったわけだ。しかし仮にそれに異を唱えたところで自分達に何が出来たろう。そんな思いで本書を読み始めたが、実は著者の立っていたスタートラインは我々とほとんど同じであった。折れそうになる気持ちは退路を断つことで乗り切った。資金は自らの足で集めて回った。最初は滑稽に見えたかも知れない。しかし決して諦めず前へ進み続ける彼の姿はいつしか多くの人々の心を動かし、エア・ドゥ発足への大きな潮流となっていくのである。

世の中とは何と皮肉なものだろう。エア・ドゥが飛翔を始め、その軌跡を記した本書が世に出た翌年、あろうことか浜田氏も天へと旅立ってしまった。読後にネットでこれを知ったときは正直かなりショックだった。長年の激務や重責が彼の持病を悪化させたことは想像に難くない。「北海道の復興」ただそれだけを願い奔走した晩年、それは文字通り命を賭けた闘いだったのである。しかしそんな感傷に浸らせてくれるほど現実は甘くはなかった。物語は美談で終わらない。今、僕の手元にはこれから読むつもりの一冊の本がある。「エア・ドゥ 夢はなぜ破れたか」・・・舵取りを失い急激に失速していくその後を書いたドキュメントである。




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