>【軍事ワールド】米のINF全廃条約破棄で“沈む”中国
2018.11.13 06:30 産経ニュース
米トランプ政権がINF(中距離核戦力)全廃条約の破棄に動いている。米国とソ連(現ロシア)で結ばれた歴史的な核軍縮条約をいまさら破棄する理由について米専門家は、狙いは露ではなく、軍拡著しい中国を睨んだものだと指摘している。(岡田敏彦)
INF全廃条約と中国
INF全廃条約は東西冷戦末期の1987年に米国と旧ソ連が締結した。名称は「中距離核戦力」の全廃とされているが、実際には射程500~5500キロの地上発射型の弾道・巡航ミサイルの開発と配備を禁止するもの。そしてこの条約は米と旧ソ連(現ロシア)の2国間条約で、中国は加盟していない。実は中国は、この条約で米露二大国が開発を自重するなか、弾道ミサイル分野を飛躍的に拡充してきた。
「遼寧」などの空母やステルス戦闘機「殱-20」(J-20)など通常戦力の増備の陰に隠れた格好だが、弾道ミサイルだけでも射程600キロのDF-15を1000発以上、射程800~1000キロで日本全土を射程に入れ核弾頭も搭載可能なDF-16、同2500キロのDF-21に同1500キロの巡航ミサイルCJ-10など。沖縄どころか日本の主要都市全てを核・非核のミサイルで集中攻撃できる規模だ。
日本では中国のこうした圧倒的な軍事力について政治的に見て見ぬ振りをする向きが多いが、米国では特にDF-21シリーズを問題視している。・・・以下省略
トランプ米大統領はロシアと結んでいたINF全廃条約から離脱すると表明した。
トランプ氏は、「自分たちができないのにロシアは好きに兵器ができる」のを米国は容認しないと述べ、「どうしてオバマ大統領が交渉や離脱をしなかったのか分からない」、「(ロシアは)何年も違反してきた」などと批判した。
中距離核戦力(INF)全廃条約は中距離ミサイルを禁止し、旧ソ連による欧州各国への脅威を削減するものだった。
米政府は以前から、ロシアが条約に違反し、地上発射型の新型巡航ミサイル「9M729」(北大西洋条約機構の識別コードは「SSC8」)を開発したと主張してきた。ロシアはこれによって、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をごく短時間で核攻撃できるようになる。
ロシア側は、ミサイル開発は条約違反に当たらないと主張するほかは、新型ミサイルについてほとんど言及していない。
19日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、西太平洋における中国の軍事的プレゼンス拡大に対抗する手段として、米政府がINF全廃条約からの離脱を検討していると伝えていた。
中国は同条約の締約国ではないため、中距離ミサイルを自由に開発し配備することができた。
中国との軍事競争において米国がINF条約に留まれば、中国に対して日に日に不利な状況に追い込まれるという考えが、トランプ政権内にはある。
トランプ米大統領は22日、ロシアと中国に圧力を掛けるために核兵器の軍備を拡張すると警告した。
トランプ氏は、「みんなが正気に戻るまで」軍備を拡大するつもりだと話した。
「これは中国だろうがロシアだろうが、このゲームがしたいあらゆる国に対する脅しだ。(中略)ロシアはこの条約の精神も、この条約自体も守っていない」
対中国での中距離核ミサイルで米国は後れをとってしまった。
これを取り戻すためにもロシアと結んでいたINF全廃条約から離脱する必要がある。
一方、ロシアのニコライ・パトルシェフ連邦安全保障会議書記は、ロシア政府はINF全廃条約に関する「双方の」不満を解消するため米国と協力する「用意」があると述べた。
ロシアも本当はINF全廃条約がもう意味ないものだとわかっている、米ロともに本心は中国が最も警戒すべき敵なのだ、中国を野放しにしておくわけにはいかない。
かと言って中国が米ロと同じ枠組みの中距離核ミサイル全廃に応じるかと言えば、まず無理だろう。
それなら、いっその事自由に開発競争すれば力のバランスが取れる、力のバランスが取れれば使いたくても使えない。
使えないのなら時間や無駄が生じても、米露中で新たなINF全廃条約をつくればいい。
現実問題として米国が一番気にかけているのは、中国が開発し既に多くを配備している中距離核ミサイルだ。
今年に入って中共人民軍は新型中距離弾道ミサイル「東風26」(射程4千キロ程度)が、ロケット軍の部隊に正式に配備されたと明らかにした。
グアムの米軍基地を射程に収めることから「グアムキラー」とも呼ばれ、米軍に対する抑止力が狙い。
同時に東風26は核と通常弾頭を兼備し、「陸上の重要な目標と大・中型の水上艦艇への正確な攻撃能力」を持つ。
グアムの基地だけではなく、米軍の空母に対する攻撃も想定している。
米軍にとってもっとも危険なのは、中国のこうした中距離核ミサイルであり、同時に日本にとってもこれを防ぐ手立ては米軍頼りだ。
米軍が新たな中距離核ミサイル配備を積極的にするのであれば、日本も同様の配備を平行して行う方向に向かうべきだろう。
米中冷戦は覇権争いであり、今後ますます先鋭化していくだろう。
中国が覇権国家になれば、わが国は中国の属国に成り下がるだろう。
そうした状況はわが国にとって耐えられるものではない。
そうであるならいまから中国の覇権を防ぐために、米国の対中包囲網に日本も積極的に加わっていく必要があると思う。