風色明媚

     ふうしょくめいび : 「二木一郎 日本画 ウェブサイトギャラリー」付属ブログ

州羽の海 4 片隅にある神楽殿

2010年10月31日 | 夢想の古代史


「州羽の海」は、自作の小説からの抜粋という形式で長野県諏訪市にある諏訪大社について書いています。

主人公である英嶋善也と相澤深那美の二人が、諏訪大社上社本宮の北参道から境内に入り
御柱「一之柱」の前から参拝順路に従って最初の大きな社殿「神楽殿」の前に来ました。
→予告編
→第1回 出雲から来た神
→第2回 境内へ
→第3回 湖畔の社




第2回「境内へ」にも掲載した写真です。
北参道の大鳥居から境内に入り、入ってすぐの場所に建っている御柱「一之柱」前から左手を望んだところです。
左手の樹木の奥に見えているのが神楽殿です。




神楽殿のアップ
舞台の高さは、小柄な人の背丈ほどもあります。



「これは…神楽殿か」
「ですね…」
「立派だねぇ。本宮に相応しい神楽殿じゃないか?」
「規模は相応しいんですが…」
「何か相応しくない点でもあるの?」
「場所です。建っている位置が…」
「位置?」
「ずいぶん隅の目立たない場所ですよ、ここは」
「そうか、まだ境内に入ったばかりだからな」
「神楽殿のすぐ後ろには玉垣(塀)があって、境内ギリギリなんですよ」
「神楽殿って、普通は拝殿の前に置かれるだろ?」
「そうですね。神に奉納する神楽を舞ったりするためのものですからね」
「ここからは拝殿がまともに見えないね」
「神楽を舞っても神様には見えないですよね」
「確かに妙な位置だな…」
「何だか、空いていた場所にとりあえず造ったというような印象ですね」


境内案内図で神楽殿の位置を示します。
神楽殿左上方の、一番大きく縦に細長い建物が拝殿です。
この図で一目瞭然のように、神楽殿は境内の隅っこにあります。



「諏訪大社にとって神楽殿は重要ではないということなのか…」
「神社にとって最も大切な社殿は本殿、そして拝殿ですからね。神楽殿は重要ではないと言ってしまえばそうですが…」
「でも、大抵の神社にあるよね」
「ありますが、古い神社には拝殿の近くにない場合が多いようですよ」
「へえ…」
「確か伊勢神宮でも出雲大社でも、本殿(伊勢神宮は正殿)の近くに神楽殿はなかったですね」
「両方とも古いよね?」
「どちらも最古級です」
「古い神社に神楽殿はなかったのかな」
「古代にはなかったのかもしれませんね。神楽殿が拝殿の前に置かれるようになるのは意外と新しいことなのかも…」
「それにしてもね…。ここしか場所がなかったってことか?」
「どこでもいい…とは思えませんけどね」
「ここに建てた理由があった?」
「好き勝手な場所に建てることはないでしょう。いくら目立たない場所でも、ここがいいと判断する根拠があったから建てたんじゃないですか?」
「ここがいい?そうかな…そんなにいい場所なのかな」
「その理由までは判りませんけど…」
「理由か…」

俺は釈然としなかった。それは深那美も同じだった。
こんなところに神楽殿を建てる意味が判らなかった。
どう見ても、仕方なくここに建てたという印象が拭えなかった。

俺たちは少しだけ後ろ髪を引かれる想いがあったが、とりあえず先へと進んだ。


神楽殿の先には細い石畳の道が横切り、境内の外に向かって続いている。
塀には出入口があって、変わった形の鳥居が建っていた。
ひっそりと目立たないこともあって、裏口か通用門のように思えた。


神楽殿の前から、これから進んでいく本宮正面入口の方向を見たところ。
手前に細い石畳の道があります。




上の写真の石畳の道に立ち、左手を望んだところ。
玉垣(塀)には門があって、すぐに境内の外へ出ることができます。
そこにはちょっと変わった形の鳥居が建っています。
境内案内図の神楽殿の左隣に描かれている鳥居です。




その変わった形の鳥居の前から後ろを振り返った様子です。
右手が神楽殿。
奥の一段高いところにある廊下のような細長い建物は「布橋(ぬのばし)」といい、これは次回説明します。



さて、二人が首を傾げたように、本宮の神楽殿は奇妙な位置にあります。
いくら神楽殿の登場時期が新しいとは言え
ここは境内の片隅であり、とても神楽殿に相応しい場所とは思えません。
二人は疑問に思いながらも、なお先へと進みます。

しばらく後に、この神楽殿の位置と、石畳の道と、変わった形の鳥居が重要なヒントを二人に与えてくれることになるのですが…。

では、次回は第5回 「本宮の表玄関」 です。


-------------- Ichiro Futatsugi.■


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2 コメント

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Unknown (shinkai)
2010-11-04 01:53:04
こんばんは! ゆっくりゆっくり、行ったり来たり、位置を納得できる様に、拝見してます。

それにしても、本殿までの道のりが本当に興味深い配置なのですね。 昔子供の頃行ったのみで、まるで新しい神社を参拝している気持ちで、楽しませて頂いてます。

それにしても、布橋なんて、素敵な日本語ですねぇ!
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Unknown (二木一郎)
2010-11-05 09:29:34
shinkaiさん、こんにちは。
本宮の最深部に到達するまで、あと3回ほど記事があります。
その後には、もう一つの上社である「前宮」もありますので、私の推測を書くのはもう少し先になってしまいます。
やっぱりレポート調の方が良かったかな…と、今更ながら思わないでもありません。

まあ、ポツリポツリと進めていきますので、どうぞよろしく。
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