風色明媚

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追悼 フィリップ・ルロワ

2024年06月07日 | 随想
6月2日、イタリア在住の友人の画家 新開志保さんから届いたメールに
フィリップ・ルロワが、前日の1日に、93歳で亡くなったことが書かれていました。


フィリップ・ルロワをご存知ですか?


フィリップ・ルロワは、1930年フランス・パリ生まれの俳優。
1971年、イタリア・フランス・スペインのテレビ局が共同制作した
テレビドラマ「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」でレオナルドを演じた人です。



レオナルド・ダ・ヴィンチを演じるフィリップ・ルロワ
La vida de Leonardo Da Vinci (Documental, Español, 1971) 
ドラマ「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」スペイン語版映像(YouTube)より引用


フランス人俳優といえばアラン・ドロンくらいしか思い浮かばない私が
これぞイケメン俳優の代表格だと、それ以降、密かに憧れ続けてきた人です。

とは言うものの、このドラマ以外の彼の出演作を観たことはないのです。
私にとってフィリップ・ルロワは、レオナルド・ダ・ヴィンチとイメージ的に同期しており
レオナルド・ダ・ヴィンチ=フィリップ・ルロワという、何とも短絡的で偏狂な等式が成立してしまっているのです。




レオナルド・ダ・ヴィンチを演じるフィリップ・ルロワ
La vida de Leonardo Da Vinci (Documental, Español, 1971) 
ドラマ「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」スペイン語版映像(YouTube)より引用



1972年、全5話のドラマがNHKで放送されるや、当時16歳の私は毎回テレビにかじりついたものでした。
もっとも、フィリップ・ルロワを知っていたわけではありません。
イタリア・ルネサンスに興味があったこと、撮影セットはハイクオリティでロケも多用されていたことなどが気に入り
視聴を始めてすぐに、ブラウン管に魂を吸い取られるように惹き込まれて行ったのでした。

この上なく上質な、歴史に残る名作ドラマだと思っています。
50年も昔のものですが、今観ても何らの古臭さも稚拙さも感じさせません。
むしろ、現代のドラマの方が物足りなく思えるくらいです。


イタリア・ルネサンスの第一級資料として有名なジョルジョ・ヴァザーリの伝記「画家・彫刻家・建築家列伝」をベースに
その後の研究成果も取り入れ、制作時点で最も史実に忠実なものを創ろうとする意気込みが強く感じられるドラマです。
イタリア・ルネサンスに関する私の知識の土台となったと言っても過言ではないのです。

ドラマを観る前は、レオナルド、ミケランジェロ、ラファエッロくらいは知っていましたが
父セル・ピエーロ、母カテリーナ、最初に弟子入りした工房の主人ヴェロッキオ
最期まで寄り添った弟子のサライとフランチェスコ・メルツィ
レオナルドが肖像を描いたフィレンツェ貴族ジネーブラ・デ・ベンチ
最初のパトロンだったミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァ(通称イル・モーロ)
ルドヴィーコの妻ヴェアトリーチェ・デステ
ヴェアトリーチェの姉のイザベッラ・デステ
「最後の晩餐」を描いたミラノのサンタ・マリーア・デッレ・グラーツィエ修道院
最晩年の庇護者だったフランス国王フランソワ1世
フランソワ1世の庇護の元で暮らしたフランス・アンボワーズ城近くのクルーの館・・・・

傍から見れば鬼気迫るほどの集中力でドラマに没入していた結果
人名・地名・建物名などが、覚えるつもりもないのに次々と頭に染み込んで行くのです。

昨日のこともすぐには思い出せなくなっている今日この頃ですが
50年前にドラマで見聞きしたことは今でもパッと出てきます。
私にも人並みの記憶力を備えていた時代があったのですねぇ。


余談ですが、ヴァザーリは尊敬する作家たちを大々的に称賛したい想いが強すぎたせいか
伝記にもかかわらず、フィクションも意図的に書き入れてしまっているとのことです。
ドラマ第1話の冒頭ではレオナルドの臨終の場面が描かれていますが
ヴァザーリの伝記に沿って、駆けつけた国王フランソワ1世に抱きかかえられて亡くなる演出がなされています。
すると、解説者がその場に割り込むように登場し
「これはヴァザーリの完全な創作です」と、いたって冷静な口調で暴露しています。




実は、このドラマで強く印象に残った俳優がもう一人います。
「これはヴァザーリの完全な創作です」と一刀両断した解説者にも目を奪われました。

ただ一人スーツ姿で登場する解説者を演じ、ナレーターを務めたのはイタリア人俳優のジューリオ・ボゼッティです。
フィリップ・ルロワと共にドラマ全編に渡って登場するので、この人も主役だと言えます。
このオジサンがまた素敵なのです。



解説者を演じるジューリオ・ボゼッティ
La vida de Leonardo Da Vinci (Documental, Español, 1971) 
ドラマ「レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯」スペイン語版映像(YouTube)より引用


ジューリオ・ボゼッティは1930年イタリア・ベルガモの生まれ。
フィリップ・ルロワとは同い年です。
残念ながら彼は、2009年のクリスマス・イヴに78歳で天に召されていました。

あくまで彼の役はナレーターであって、当時実在した人物ではないので
他の出演者との絡みはありませんが(多少の声掛けはあります)
50年前の私は「ナレーターを時折画面に出すとは上手い手法だなぁ」と感心したものでした。




そして、この二人の俳優がとても印象深かったのは、彼らの演技力や醸す雰囲気の素晴らしさが第一の理由ですが
大きな理由の一つに、私はその” 声 ”を挙げたいと思っています。

1972年にNHKで放送された際は、字幕ではなく吹き替えでしたので、本当の声はほぼ隠れています。
そうなると、吹き替えを担当した日本の俳優の声に依存することなります。

これがまた素晴らしかった!!
絶妙の人選といえるほど適役の方々でした。

レオナルド(フィリップ・ルロワ)は 井上孝雄
解説者(ジューリオ・ボゼッティ)は 滝田裕介

私くらいの年齢の方でしたら、この二人をご存知かもしれません。
ドラマ全体の雰囲気にも、出演者の声のイメージにもドンピシャの声で
他の配役などあり得ないと思えるほどです。


このドラマは近年、DVD3枚組として市販されましたが
高価な上、吹き替えの俳優が別の人に代わってしまっています。
この上なく大好きなドラマなのに、私が今日までDVD購入を躊躇っているのは
吹き替えの俳優が交代してしまったことが最大の原因なのです。
最近は廉価版も発売されていますので、価格のネックはなくなっています。

レオナルドの声は井上孝雄、解説者の声は滝田裕介、それで決まり! それ以外は無し! 絶対に無い!

骨の髄までそう思い込んでいる石頭が、吹き替えの代わってしまったDVDに手が出るでしょうか?
もう少し歳を重ね、脳みそがボケボケになって識別能力が落ちてきたら買うかもしれませんが。



さて、当初の予定を超えて長くなってしまいました。
ですが、もう一つだけ書いておきたいことがあります。

このドラマのテーマ曲の歌です。

しかし、いくつかの仕事が切迫していて、続きを書く時間が今はありません。
その歌のことは、後日改めて記事にします。



フィリップ・ルロワと

遅ればせながらジューリオ・ボゼッティに

深く哀悼の意を捧げます。



------------- Ichiro Futatsugi.■

コメント (2)
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