風色明媚

     ふうしょくめいび : 「二木一郎 日本画 ウェブサイトギャラリー」付属ブログ

州羽の海 予告編

2010年09月29日 | 夢想の古代史

 
「諏訪湖はまだ見えないんですね」

助手席に座っている相澤深那美が待ち遠しそうにつぶやいた。

「え?ついさっき長野に入ったばかりだよ。県境の標識があったじゃないか」
「ええ、ありましたけど」
「諏訪湖がどこにあるか、地図を見てきたんじゃなかったの?」
「諏訪湖って大きいでしょ?県境を過ぎれば見えるのかなと思って…」

つい先ほど中央自動車道の小淵沢インターチェンジを通過したばかりだった。
それからすぐに県境を越えて長野県に入り、まだ5分と経っていなかった。

俺は甲府での出張を終えたあと、深那美と合流して中央自動車道を走っている。
土日を利用して故郷安曇野の実家に顔を出すことにしていたのだが、ひょんなことから、そこに深那美が同行することになった。
その途中、深那美の希望で諏訪湖に立ち寄ることにしたのだ。

「長野県は広いからね。南北の方が長くて220キロほどあるが、東西だって最長130キロ近くあるんだ」
「はあ…」
「まあ、そう言われてもピンと来ないよね。俺だってピンとこない」
「東京から栃木県の宇都宮までが約100キロですから、幅でさえそれ以上ですか…」
「そういう比較か…。北海道以外の46都府県の中では3番目の面積がある」
「へえ…」
「…こんな説明じゃあ、実感は湧かないか」
「とにかく、広いってことですね」
「諏訪湖は、そのほぼ中央に位置しているからね。ここからまだ30キロくらいあったかな」
「30キロ…。それだったら少しは実感が湧きますね」

*************************

奇妙な書き出しで始まりましたが、これは私がずっと書き続けている小説の一節です。

「州羽(すわ)」とは、古い時代の長野県諏訪地方の呼称です。
したがって「州羽の海」とは、ご想像の通り、諏訪湖を指す言葉です。

諏訪地方には数々の名所・旧跡があり、独特の伝統文化が伝わっていますが
最も知られているものの一つに、奇祭「御柱祭」が執り行われる「諏訪大社」があります。
ちょうど今年は7年毎に巡ってくる御柱祭の年に当たります。

この記事「州羽の海」では、諏訪大社について何回かに分けて書いていきます。
私が諏訪大社に注目して調べ始めたのは、6年前から書き続けている小説がきっかけでした。
諏訪大社に伝わる神事の中の「御頭祭」(おんとうさい)というものを知って、小説の舞台の一つに諏訪大社を設定してからでした。
江戸時代後期の旅行家である菅江真澄には旅行記「すわの海」という一文があり、当時の「御頭祭」の様子を書き残しています。
この記事のタイトルも、それに因んでつけたものです。

いつかは諏訪大社のことをブログに書いてみたいと、だいぶ前から準備を進めてきました。
最初は小説とは無関係に論文調で書こうとしたのですが、さっぱり筆が進みません。
ところが、小説の舞台に設定して登場人物を歩かせてみたところ、意外なほど次から次へと疑問が湧き、私なりの想像が浮んできました。
やはり歴史の素人には、論文よりも小説として気楽に書く方がいいようです。
そこで、この記事は小説の中から該当箇所を抜粋するという方式にして、私に代わって主人公の二人に語ってもらうことにしました。


「州羽の海」ナビゲータ
  英嶋善也(ひでしま よしや) 会社員 長野県松本市出身 40歳
  相澤深那美(あいざわ みなみ) 英嶋の同僚 出身地不詳 35歳


因みに、小説について少しだけご紹介を…。
タイトルは二つ候補があって、まだ決めかねています。
舞台は東京、諏訪、安曇野からイタリア・アッシジに及んでいます。
この記事の表題「州羽の海」は、諏訪を舞台にした一章のサブタイトルでもあります。

発想の原点は「旧約聖書・創世記」「かぐや姫」「安曇野に伝わる船形の山車」「諏訪大社の御頭祭」などにあります。
主人公は上記の二人ですが、相澤深那美が主役です。
彼女の出身地が不詳であることに、大きな秘密が隠されています。
私自身も、日本画家で喫茶店のオーナーという端役で登場しています。

肝心のストーリーについては、かなりマニアックな内容のため詳細には申し上げませんが…
ある時、一つだった宇宙が二つに割れてしまった…。
そこから人類の歴史がスタートした…。
二つに割れてしまった宇宙をどうするのか…。
…というような話がベースとなっています。
あまりに壮大なテーマを選んでしまったために、なかなか先に進めず、永いこと一進一退が続いています。

高木彬光の「邪馬台国の秘密」「成吉思汗(ジンギスカン)の秘密」という推理小説をご存知でしょうか。
名探偵神津恭介が入院してしまい、見舞いに来た友人の松下研三と病室の中で淡々と推理を展開するという
ベッド・ディテクティヴといわれるスタイルで書かれています。
私の小説はベッド・ディテクティヴではありませんが、淡々とストーリーが展開するという点では似ていなくもありません。
全体としてはスペクタクルと言えないこともないストーリーなのですが
派手な表現が苦手な性格ですので、目まぐるしいアクションシーンや、甘いラヴロマンスなどは出てきません。

現在、400字詰め原稿用紙に換算して1800枚まで膨れ上がっていますが、それでも完成の目途は立っていません。
2004年の10月から5年を目標に書き始めましたが、もう6年が経過し、あと何年あったら完成できるのか…神のみぞ知るというところです。

もとより、趣味で書いている小説ですから発表するつもりなどありませんでした。
しかし、いつかこのブログで全文を連載できたらいいな…という微かな想いも、なかったわけではありません。
それもあって、今回一部を掲載することにした次第です。
果たして、全文を連載できる日がやってくるのでしょうか。

さて、話がすっかり脱線してしまいました。
近日中には続きの掲載を始めます。
未完成の小説から抜粋しますので、唐突な印象を受ける部分も出てくると思います。
ですから、補足説明が必要だと思われる場合には、このように青い文字で書くことにします。
今回のように、小説からの抜粋は黒い文字で、補足説明は青い文字で表示します。

次回は、第1回「出雲から来た神」という話です。

-------------- Ichiro Futatsugi.■


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