ここ1年半に渡ってパステルの小品を優先して描き続けてきました。
時折は日本画の過去の作品に手を入れることがあったものの、日本画の新作からは遠のいていました。
パステルも面白く、私に向いている画材だと感じているのですが、さすがに食傷気味になりましたので
久しぶりに日本画の新作を描くことにしました。
◆ ロマネスクのレリーフ 日本画 20号 第1回
イタリア中部のウンブリア州にスポレート Spoleto という古い街があります。
その郊外の、古代のネクロポリス(大規模墓地)があった場所に
ロマネスク様式のサン・ピエトロ教会 Chiesa di San Pietro が建っています。
12世紀から建設が始まったという教会の正面壁には
ロマネスク彫刻を代表できるような秀逸なレリーフ(浮き彫り)が多数彫り込まれています。
これだけのレリーフで彩られた教会は、イタリアではそう多くはないように思います。
今回は、そのレリーフ群の中から一つをクローズアップして描こうと思います。
ロマネスクのレリーフと言えば
数年前にイタリア・ラツィオ州北部のトゥスカーニアという街に建つ
今回と同じ名前のサン・ピエトロ教会の正面壁を描いたことがありました。
この教会の正面壁にも、ロマネスク様式の見事なレリーフが彫り込まれています。
こちらは正面壁のかなり高い位置にある2層目に設けられたバラ窓の周辺にレリーフが集中していました。
「黙する古堂」 日本画 50号 2014年
今回のスポレートのサン・ピエトロ教会は、建物自体がトゥスカーニアのものより規模が小さいようですし
1層目の正面入り口の周囲にレリーフは集中しています。
実際の正面壁の一部を、イタリア在住の友人の画家 shinkai さん提供の写真でご紹介します。
中央の四角い扉が正面入り口です。
これら以外にも、素敵なレリーフが壁に点在しています。
私が選んだのは”竜を襲う獅子”
この写真は小さいので分かりづらいと思いますが、右下に写っている車のすぐ左上にあるものがそうです。
スポレートのサン・ピエトロ教会について詳しくは shinkai さんのブログをご覧下さい。
教会全体の様子も分かりますし、レリーフが何を表現しているかの解説もあります。
古寺巡礼 サン・ピエトロ教会 スポレート
さて、実は私はこの教会を実際に見たことはないのです。
20数年前、スポレートには1度行っているのですが、当時はこの教会の存在を知りませんでした。
そこで例によって shinkai さんから提供していただいた写真と、ネットで集めた写真を資料にして描いて行くことにします。
作品の大きさは20号変型(72.7 × 40.5 cm)で、規格サイズのM型より細長いプロポーションです。
鉛筆と水彩(黒)による下描きの途中。
鉛筆で大雑把な形ができた段階から水彩を併用しています。
最初はレリーフ本体を画面一杯に描くつもりだったのですが
レリーフの構図を尊重してトリミングなどはせず、他のレリーフとの間を区切っている枠まで入れることにしました。
基本的に、ほぼ実物に忠実に描いています。
変えたところは、竜の羽根を僅かに上に伸ばしたくらいです。
石の継ぎ目や雨シミなどによる黒い汚れも、絵の要素として積極的に利用するつもりです。
彩色1
一通り色が入ったところ。
まだ細部の下描きが終わっていませんが、とりあえず色を入れてみました。
使っている絵の具は、赤口代赭の具(天然白亜を混入)・アイボリーブラック・ローアンバーのみです。
いずれも、一般的な岩絵の具で言えば、最も細かい白番に相当します。
可能な限り、最後までこれで押し通すつもりです。
彩色2
この段階まではレリーフ本体以外の壁を主体に描いています。
レリーフ本体は下描き以降、軽く色をつけているだけです。
壁を意図的に暗くしており、実物以上にレリーフが浮き出て見えるようにしているのですが、これは徐々に調整します。
そろそろ壁とレリーフの描き込みのバランスが崩れつつあり、レリーフ本体を描き込む必要があります。
彩色3
相変わらず壁の描き込みを主体にしていますが、それと併行してレリーフの細部を描き進めています。
ロマネスクの彫刻は、一見稚拙とも思える形の中に鋭い観察力と造形感覚を感じます。
ロマネスクらしくて、しかも良い形を描くのは予想していた以上に難しいものです。
レリーフ本体は、まだ細部を描いていないところもあって、徐々にヌルっとした印象になってきています。
竜の体はウロコや筋肉があるのでまだ描きやすいのですが
獅子は体毛もなく筋骨隆々でもないのでメリハリのある形を描くのは厄介です。
◆ オビドスの自転車 パステル 4号 第1回
オビドス Obidos とは、ポルトガルの首都リスボンから真北へ、直線距離にして70キロほどのところにある街、と言うより村です。
13世紀後半、時のポルトガル王デニスが、スペインから嫁入りしたばかりの王妃イザベルにこの村を贈ったことから
その後は歴代王妃の直轄地となり「王妃の村」とも呼ばれているそうです。
「谷間の真珠」と形容されるオビドスは、城壁に囲まれた小さな村なのですが
建ち並ぶ家々はオレンジ色の瓦と白壁のコントラストが美しい地中海リゾート風の(実際は大西洋に近い)佇まいです。
白壁の一部には、黄色(黄土)や青の帯状の鮮烈な塗り分けが施されており、一層異国情緒が漂います。
そのオビドスの路地に置かれた自転車を描いています。
とは言っても本物の自転車ではなく、土産物屋の店先に置かれた鉄製のオブジェです。
手前に子鹿(トナカイ?)を従えた可愛らしい置物です。
ポルトガルも私には未知の領域です。
よって、こちらも shinkai さんの写真を元に描いています。
ネットにはオビドスの家並みの写真は多数あるのですが、このオブジェを写したものは1枚も見つかりませんでした。
新開さんのブログのオビドスの記事はこちら。
この作品の元になった写真も掲載されています。
オビドス その1・ポルトガル
鉛筆による下描き。
自転車の背後の壁は描きながら決めていきます。
数多くの写真を見てオビドスは花の街という印象を受けましたので
何も入っていなかった自転車の前カゴに花の鉢植えを追加します。
彩色1
最初に水彩で、壁の青い部分と自転車のみ軽く下塗りしてからパステルの彩色に入っています。
赤錆色に覆われたオブジェと、壁の青とのコントラストがこの作品の肝になると思います。
彩色2
現在思案していることは、青い壁を左に若干延長すべきか否か。
壁の右上にぶら下がる3連のカゴが必要か否か。
ロマネスクのレリーフはほぼモノクロですので
併行して明快な色のある作品を描くのは気分転換にも最適です。
----------------------------------------
付記
昨日(29日)は、冨田勲さんを偲ぶテレビ番組を2本観ましたので
今日は一日中トミタ・サウンドに浸りながら仕事をしています。
冨田さんの仕事場の様子は何度も映像で見ていますが
狭い空間にギッシリ積み重ねられた電子機器の数々にあっ!と息を呑んだものでした。
電話黎明期の交換台さながらに、多数のコードが蜘蛛の巣のように張り巡らされたアナログ・シンセサイザーは
スタジオと言うよりも町工場のような、奇々怪々かつファンタジックな空間を連想させ
これぞ”手作業の仕事場”という強烈な匂いをプンプンさせていました。
鉄腕アトムやエイトマンの、外観よりも内部の”機械”に強く憧れた元”空想科学少年”には
冨田さんの仕事場は一種の桃源郷のように感じられたものです。
-------------- Ichiro Futatsugi.■
時折は日本画の過去の作品に手を入れることがあったものの、日本画の新作からは遠のいていました。
パステルも面白く、私に向いている画材だと感じているのですが、さすがに食傷気味になりましたので
久しぶりに日本画の新作を描くことにしました。
◆ ロマネスクのレリーフ 日本画 20号 第1回
イタリア中部のウンブリア州にスポレート Spoleto という古い街があります。
その郊外の、古代のネクロポリス(大規模墓地)があった場所に
ロマネスク様式のサン・ピエトロ教会 Chiesa di San Pietro が建っています。
12世紀から建設が始まったという教会の正面壁には
ロマネスク彫刻を代表できるような秀逸なレリーフ(浮き彫り)が多数彫り込まれています。
これだけのレリーフで彩られた教会は、イタリアではそう多くはないように思います。
今回は、そのレリーフ群の中から一つをクローズアップして描こうと思います。
ロマネスクのレリーフと言えば
数年前にイタリア・ラツィオ州北部のトゥスカーニアという街に建つ
今回と同じ名前のサン・ピエトロ教会の正面壁を描いたことがありました。
この教会の正面壁にも、ロマネスク様式の見事なレリーフが彫り込まれています。
こちらは正面壁のかなり高い位置にある2層目に設けられたバラ窓の周辺にレリーフが集中していました。
「黙する古堂」 日本画 50号 2014年
今回のスポレートのサン・ピエトロ教会は、建物自体がトゥスカーニアのものより規模が小さいようですし
1層目の正面入り口の周囲にレリーフは集中しています。
実際の正面壁の一部を、イタリア在住の友人の画家 shinkai さん提供の写真でご紹介します。
中央の四角い扉が正面入り口です。
これら以外にも、素敵なレリーフが壁に点在しています。
私が選んだのは”竜を襲う獅子”
この写真は小さいので分かりづらいと思いますが、右下に写っている車のすぐ左上にあるものがそうです。
スポレートのサン・ピエトロ教会について詳しくは shinkai さんのブログをご覧下さい。
教会全体の様子も分かりますし、レリーフが何を表現しているかの解説もあります。
古寺巡礼 サン・ピエトロ教会 スポレート
さて、実は私はこの教会を実際に見たことはないのです。
20数年前、スポレートには1度行っているのですが、当時はこの教会の存在を知りませんでした。
そこで例によって shinkai さんから提供していただいた写真と、ネットで集めた写真を資料にして描いて行くことにします。
作品の大きさは20号変型(72.7 × 40.5 cm)で、規格サイズのM型より細長いプロポーションです。
鉛筆と水彩(黒)による下描きの途中。
鉛筆で大雑把な形ができた段階から水彩を併用しています。
最初はレリーフ本体を画面一杯に描くつもりだったのですが
レリーフの構図を尊重してトリミングなどはせず、他のレリーフとの間を区切っている枠まで入れることにしました。
基本的に、ほぼ実物に忠実に描いています。
変えたところは、竜の羽根を僅かに上に伸ばしたくらいです。
石の継ぎ目や雨シミなどによる黒い汚れも、絵の要素として積極的に利用するつもりです。
彩色1
一通り色が入ったところ。
まだ細部の下描きが終わっていませんが、とりあえず色を入れてみました。
使っている絵の具は、赤口代赭の具(天然白亜を混入)・アイボリーブラック・ローアンバーのみです。
いずれも、一般的な岩絵の具で言えば、最も細かい白番に相当します。
可能な限り、最後までこれで押し通すつもりです。
彩色2
この段階まではレリーフ本体以外の壁を主体に描いています。
レリーフ本体は下描き以降、軽く色をつけているだけです。
壁を意図的に暗くしており、実物以上にレリーフが浮き出て見えるようにしているのですが、これは徐々に調整します。
そろそろ壁とレリーフの描き込みのバランスが崩れつつあり、レリーフ本体を描き込む必要があります。
彩色3
相変わらず壁の描き込みを主体にしていますが、それと併行してレリーフの細部を描き進めています。
ロマネスクの彫刻は、一見稚拙とも思える形の中に鋭い観察力と造形感覚を感じます。
ロマネスクらしくて、しかも良い形を描くのは予想していた以上に難しいものです。
レリーフ本体は、まだ細部を描いていないところもあって、徐々にヌルっとした印象になってきています。
竜の体はウロコや筋肉があるのでまだ描きやすいのですが
獅子は体毛もなく筋骨隆々でもないのでメリハリのある形を描くのは厄介です。
◆ オビドスの自転車 パステル 4号 第1回
オビドス Obidos とは、ポルトガルの首都リスボンから真北へ、直線距離にして70キロほどのところにある街、と言うより村です。
13世紀後半、時のポルトガル王デニスが、スペインから嫁入りしたばかりの王妃イザベルにこの村を贈ったことから
その後は歴代王妃の直轄地となり「王妃の村」とも呼ばれているそうです。
「谷間の真珠」と形容されるオビドスは、城壁に囲まれた小さな村なのですが
建ち並ぶ家々はオレンジ色の瓦と白壁のコントラストが美しい地中海リゾート風の(実際は大西洋に近い)佇まいです。
白壁の一部には、黄色(黄土)や青の帯状の鮮烈な塗り分けが施されており、一層異国情緒が漂います。
そのオビドスの路地に置かれた自転車を描いています。
とは言っても本物の自転車ではなく、土産物屋の店先に置かれた鉄製のオブジェです。
手前に子鹿(トナカイ?)を従えた可愛らしい置物です。
ポルトガルも私には未知の領域です。
よって、こちらも shinkai さんの写真を元に描いています。
ネットにはオビドスの家並みの写真は多数あるのですが、このオブジェを写したものは1枚も見つかりませんでした。
新開さんのブログのオビドスの記事はこちら。
この作品の元になった写真も掲載されています。
オビドス その1・ポルトガル
鉛筆による下描き。
自転車の背後の壁は描きながら決めていきます。
数多くの写真を見てオビドスは花の街という印象を受けましたので
何も入っていなかった自転車の前カゴに花の鉢植えを追加します。
彩色1
最初に水彩で、壁の青い部分と自転車のみ軽く下塗りしてからパステルの彩色に入っています。
赤錆色に覆われたオブジェと、壁の青とのコントラストがこの作品の肝になると思います。
彩色2
現在思案していることは、青い壁を左に若干延長すべきか否か。
壁の右上にぶら下がる3連のカゴが必要か否か。
ロマネスクのレリーフはほぼモノクロですので
併行して明快な色のある作品を描くのは気分転換にも最適です。
----------------------------------------
付記
昨日(29日)は、冨田勲さんを偲ぶテレビ番組を2本観ましたので
今日は一日中トミタ・サウンドに浸りながら仕事をしています。
冨田さんの仕事場の様子は何度も映像で見ていますが
狭い空間にギッシリ積み重ねられた電子機器の数々にあっ!と息を呑んだものでした。
電話黎明期の交換台さながらに、多数のコードが蜘蛛の巣のように張り巡らされたアナログ・シンセサイザーは
スタジオと言うよりも町工場のような、奇々怪々かつファンタジックな空間を連想させ
これぞ”手作業の仕事場”という強烈な匂いをプンプンさせていました。
鉄腕アトムやエイトマンの、外観よりも内部の”機械”に強く憧れた元”空想科学少年”には
冨田さんの仕事場は一種の桃源郷のように感じられたものです。
-------------- Ichiro Futatsugi.■