映画感想(ネタバレもあったり)

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映画『83歳のやさしいスパイ』ネタバレあり オスカー候補のドキュメンタリー 

2021-07-10 | ネタバレあり
83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
El agente topo/The Mole Agent 2021年07月09日製作国:チリアメリカドイツオランダスペイン上映時間:89分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督マイテ・アルベルディ
脚本マイテ・アルベルディ




面白かった。。。

おじいちゃんスパイが老人ホームに潜入するんだけど
ターゲットの入居者がわからない。
なぜなら「みんな同じ顔だ」から。。

確かに、みんなおんなじくらいに老けてるし、
おんなじくらいにちょっとぼ〜っとした表情をしてる。

「老人ホームに入ってる老人」としてしか認知できない。

しかしそれぞれの人生や今現在の苦悩を聞いていくうちに、顔と名前が繋がってくる。
「老人ホームに入ってる老人」が「80年90年生きてきた個性あふれる人」に見えてくる。
自分がいかにシニア層の人たちに対して関心がないか、知ろうとしないか、関わろうとしていないか、を思い知らされました。。

反省。。

****

どうやって撮影したのか(どういう手順を踏んだのか…)が気になってしょうがなかったけど、
おじいちゃんスパイのポンコツっぷりが面白くて何度も笑いました。



このスパイおじいちゃんは目立っちゃいけないはずなんだけど
スマートで優しくてユーモアもあるから女性入居者の多くからめちゃくちゃモテてしまって、ホームの中心的人物になってしまう。。
この辺りが本当に面白い。。



スパイ活動はちょっと停滞するんだけど、、
次第に入居者たちがその心のうちを明かし始めると、彼女・彼らの今までの人生やまさに今の気持ちなどが見えてくる。

ぼーっと庭を眺めて座っている姿を見て
「ほのぼのとした平和な気分でいらっしゃるんだろうな」と思っていた。
っていうか思いたかった。

そう思うことで罪悪感を感じたくない自分がいる。



そんな中、
このおじいちゃんスパイはある真実を探り当てます。
それは我々老人ホームの外にいる人間にとっては、グサリと刺さる真実。
ものすごくシンプルなことなんだけどこの真実はなかなか辿り着けなかったことだと思います。

このシンプルな真実をこんなにもグサリと深く突きつけられるってことは、
この映画はすごくよくできた素晴らしい映画なんだと思います。



*****


ネタバレは以下に。









施設側もこのおじいちゃんがスパイ活動をしてるってことは知らさせていなかったようです。

もちろん撮影隊は入っているわけですから、事前に施設側と入居者には入念な説明をして、「良いところも悪いところも全部撮る」ということで許可はもらっていたとのこと。

スタッフや入居者とカメラがあたたかい距離感であることがわかるので、事前の説明や納得がちゃんとなされていたんだろうなと思います。
撮影が終わって撮影隊が帰る時も入居者たちに「あなたたちと別れるのが寂しい」と言われたとのことですので、撮影中もあたたかい空気感があったのでしょう。

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日本だと探偵業を隠したり偽って探偵してはいけないという探偵業法があるらしいんですが
チリにはないんですかね。。

施設側はこのおじいちゃんがスパイだと知らなかったので。。

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流石に映画としてまとめるにあたって許可が必要だったと思うので、
施設側も撮影後に彼がスパイだと聞かされて驚いたでしょうけど、
撮影されたものを見ても問題ないと判断したんでしょうし、
セルヒオさん(スパイのおじいちゃん)が素晴らしい人格や
彼が施設にもたらしたことを考慮して許してくれたんでしょうね。
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おじいちゃんスパイのセルヒオさんが突き止めた真実はシンプルなものでした。
でも、それは施設外の人間からすると辛い真実。
だろうなと思ってはいたけど目を背けたかった真実。
彼女・彼らは「孤独」であるということ。

この施設はとても良い施設だったと思います。

楽しい時間もイベントも多くあると思います。

でもそれでは拭いきれない「孤独」「悲しみ」。
「泣いていいんですよ」と言われて「ほんと?」と泣く女性。

お母さんに「どうして迎えに来てくれないの?」と電話する女性。

もちろん彼女の母は亡くなっている。スタッフの女性がお母さんのふりをして電話対応してくれている。それを見るセルヒオさんの表情が切ない。

****

耳が痛い。

監督はこの映画を老人ホーム告発映画にするつもりで撮ったわけではない、と。
実際そうはなってないし。

「コミュニケーションさえ取れていれば起こらない問題」を取り上げた、と。
近しい関係だからこそ難しいのだろうとしつつも、
会って話したり電話で話すことで回避できる問題であって、
いちいち探偵に依頼しなくてもいいはずなのに、とのこと。

あ、「親が入居してる老人ホームを偵察してほしい」と探偵業者に依頼が実際によく来るそうです。

セルヒオさんも実際に「こんなことスパイを雇わなくても子供が会いにくればいいことじゃないか」と言いました。
耳が痛い。。。




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