映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

ドキュメンタリー映画『キエフ裁判』 現在のウクライナとロシアを考えると〝正義〟という本当に恐ろしい言葉として聞こえる

2023-08-30 | ネタバレあり

キエフ裁判(2022年製作の映画)The Kiev Trial
上映日:2023年08月12日
製作国:ウクライナ オランダ
上映時間:106分ジ
ャンル:ドキュメンタリー
監督セルゲイ・ロズニツァ
脚本セルゲイ・ロズニツァ







ナチスだけを断罪していれぼ映画として成立する時代はとっくに終わっていました。


とくにソ連、ウクライナの話ですからね、この映画は。。

もう〝正義〟という言葉が怖すぎる。。
(同時期上映の同監督の『破壊の自然史』と併せてドキュメンタリー二選として『戦争と正義』というイベントタイトルがついています)

**

キエフ会議とは


第二次大戦が1945年の9月に終戦し
翌1945年1月に
現在のウクライナ、
当時のウクライナ・ソビエト社会主義共和国の首都である
ウクライナ発音でのキーウ、
ロシア語の発音でのキエフにて行われた
ナチ・ドイツの戦犯を裁く軍法会議のこと。

ナチ関係者の15名を裁判にかけ、
被告人の論告と目撃者・被害者の証言を経て
12名の絞首刑が執行されるまでを
アーカイブ映像を編集して
効果音もつけて
ジリジリジリジリジリジリ見せていく。。

**

アーカイブ映像ってことは記録映像ってことでしょう。
「あとでドキュメンタリー映画作ろっ」と思って撮ってない
ニュース映像くらいの気持ちで撮られているはず。

なので映像はものすごい淡々としている。
悪いけど前半は眠かった。。。

ただ、被告人(ナチ関係者)と通訳者を丁寧に行き来する当時のカメラマンのカメラの動きはその心情が伝わってくるのが面白かった。

ナチ関係者はドイツ語なのでロシア語話者であろうソ連のカメラマンには、いつが話の終わりなのかがわからない。
たまに「あ、まだ証言終わってなかった?」って感じでカメラがサッと戻ったりするのが、
77年前のカメラマンの「あ、やべ」みたいな気持ちがカメラワークから伝わってきて、人間味があって面白い。

**

ナチ関係者の証言がまるで他人事のようだったのも印象的。


アドルフ・アイヒマンの裁判の様子も観たことありますけど、
高校の職員会議みたいな顔して座ってたんですよね。

「命令されたからやりました」「私は下っ端です」っていう。
やらなかったら自分が殺されていたし
自分がやらなくても誰かがやったし
自分よりもっと上手く(早く多く)やっていたかもしれないという謎の言い訳さえ出てくる。

「ホントにこの人たちが何万人も何千にも殺したの?」と信じられないくらい凡庸な男たち。

映画観てて眠くなるんですよ。。
話の内容は凄惨なんだけどあまりにも本人たちに実感がないから。。

**

後半、
目撃者や被害者(逃げることに成功した人)の証言になると突然眠気が吹っ飛ぶ。


『サウルの息子』とか『サラの鍵』とか『戦場のピアニスト』とか『ヒトラーと戦った22日間』とか『シンドラーのリスト』とかたくさん観てきてますが、
それでも本物の被害者や目撃者の証言の衝撃が強すぎる。。

大きな穴の淵に立たされて銃で撃たれる前に穴に飛び降りして
死体の山に着地して死んだふりをして
生きたまま土を盛られて埋められて
息が苦しくなって
息が苦しくて死ぬより撃たれて死んだ方がマシと思って
土から這い出たらもう夜になっていたから
うまくやれば逃げられるかもってことで
ナチに見つからないように土から這い出たけど
照明が当てられて動いてる体は銃撃を受けていて
その銃撃を避けてなんとか逃げた女性の証言とか本当に凄惨。。。

彼女がどれほどの勇気や使命感で証言したか。
思い出したくも語りたくもないはず。
もしかしたら「しゃべりやがって!」と恨みを買うかもしれないし。

その覚悟と話の内容がもう衝撃すぎて。

**

ナチのジェノサイドはユダヤ人だけではない。


混血や精神病者、今作では語られなかったが同性愛者も。

銃殺して穴に放り込む。
まだ動いている場合にはそこに手榴弾を投げ入れる。

その時ナチたちは酒に酔っていたらしい。
そういう時に酒を飲んでいたってのは他の映画でも描かれていた。

逆に酔っ払ってなきゃできないこと。
変な話たけど、ジェノサイドを執行するドイツ軍人の精神的負担も課題だったらしい。

**

そして「裁判最終日」というテロップ。

あ、この映画終わるんだ。
ずっと彼・彼女らの証言を聞きながら俺は死んでいくのかと思ったら、そうか映画なんだから終映の時間が来るわけだ。

当時のウクライナはソ連の一部。
ソ連が正義顔でナチ・ドイツを断罪する。
15名中12名を絞首刑に。

執行当日。
20万人と言われる群衆が見物に集まっている。



ラストネタバレ(?)は以下に。






人が死ぬ映像って初めて観たかも。
戦争のドキュメンタリー映画とか記録映像とかで 銃で撃たれたとか爆撃を受けたとか断崖から飛び降りたとかは観たことあるけど、 銃で撃たれたからって即死してるかどうかはわからないし、 爆撃では光や煙で内部は見えないし 飛び降りた先まで映像で見せられることもなかった。
今作では絞首刑の記録映像を見せられた。
作劇では観たことあるけど、、 これは事実。
さっきまでのらりくらりと言い訳や仲間への押し付けを喋っていた男たちが、自分の首を縄にかけて足を外され、寸前まで生きていたのに死んだ。

**

死刑が執行された瞬間歓声があがる。
そして、20万人の観客が吊られたナチ関係者たちを間近で見ようと集まってくる。
誰か死んでんじゃないかって思うくらいのぎゅうぎゅう詰めの群衆。
ナチに対する恨みもあるでしょう。
キエフの町は建物がいくつも破壊されたままになっているし。
仲間や友達や親戚や家族や恋人が殺された人もたくさんいるでしょう。
「当然死刑だ!」と心から願った人もいるだろうし その人の話を詳しく聞いたら きっと僕も近い気持ちになるのでしょう。
でも、この群衆は不気味に見えました。
戦争を経験して嫌でもたくさんの死体を見てきたからちょっとおかしくなっていたりもしたのでしょう。
それも含めて、やはり不気味でした。

**

「戦争と正義」
ナチだけを断罪しておけば成立する時代は終わっている。
戦争自体を改めて強く否定したい。
そして正義もまた危険。
正義側としてナチ・ドイツを断罪したソ連。
現在のウクライナとロシアを考えると〝正義〟という本当に恐ろしい言葉として聞こえる。


田辺・弁慶映画祭審査員特別賞/俳優賞受賞 映画『夢見るペトロ』(32分)

2023-08-16 | 映画感想

夢見るペトロ(2022年製作の映画)上映日:2023年08月12日 製作国:日本 上映時間:32分
監督 田中さくら
脚本 田中さくら
プロデューサー 田中さくら 熊谷宏彰 山口宇彦 山口泰佑
出演者 紗葉 千田丈博 雪乃


田辺・弁慶映画祭 は和歌山県田辺市で毎年開催される新人監督作の映画祭で、
その受賞作を上映するのが 田辺・弁慶映画祭セレクション 。

テアトル新宿 では今年は8/4~ 8/24まで開催。
シネ・リーブル梅田では9月1日(金)~ 9月7日(木)まで開催。

好きなんですよ、田辺・弁慶映画祭セレクション。
毎年楽しみ。
新人監督作ならではの原初的な情熱が強く感じられるし
ある種の歪さもすごく魅力的。

**

今作は審査員特別賞/俳優賞を受賞した『夢見るペトロ』(32分)。
監督・脚本の田中さくらはなんと24歳。

正直いうと僕には純粋でまっすぐすぎて優しすぎて温かすぎて、、、
自分の映画として観ることはできませんでした。。
でもそれが田辺・弁慶映画祭セレクション(略して弁セレ)を観る楽しみの一つです。

僕は嫌だけどやっぱおっさんなんですよ。。。
嫌だけど体も心もおっさんで、、目も脳もおっさん。。。
この若い、ビッグバンみたいな映画を観ている時でさえ
「あ〜説明台詞」
「こんな動きする?」
「で、どう展開する?」
とツッコミながら観てしまった。。。
もう全然ダメ、、、おっさん。。。
***
見終わってトークを聴いて、全然自分がこの映画をキャッチできていなかったことに唖然。。
優しさ、純粋さ、温かさを受け取れば良かったのに。
何をやってるんだ俺は。
***
『夢見るペトロ』の映像で語ろうとする姿勢はすごく好きですし、見ていて好感を持っていました。
実際映像や音のこだわりが伝わってきました。
主人公が何に苦しんでいるのかがミステリーのように観れました。
それが吸引力になって32分間、惹きつけられました。
そしてちゃんと映像でいろんなものが描かれていました。

***

そもそも「からの〜?」が32分間で描けるわけもなかったし。
独特でありつつ、違和感なくスッと理解できる世界観が魅力的。
あと、マンションなどの人工物を映してる時も、アングルなどすごくこだわっていて、この世なのかどこなのかわからない雰囲気になっているのも面白かったです。

映画『いつもうしろに』バンバン世界に出て活躍してほしい 

2023-08-16 | 映画感想

いつもうしろに(2023年製作の映画)上映日:2023年08月12日製作国:日本 上映時間:36分
監督 田中さくら
脚本 田中さくら 石井夏実
プロデューサー 山口泰佑 山口宇彦 熊谷宏彰
出演者 大下ヒロト 佐藤京 在原貴生

田辺・弁慶映画祭 は和歌山県田辺市で毎年開催される新人監督作の映画祭で、
その受賞作を上映するのが 田辺・弁慶映画祭セレクション 。

テアトル新宿 では今年は8/4~ 8/24まで開催。
シネ・リーブル梅田では9月1日(金)~ 9月7日(木)まで開催。

好きなんですよ、田辺・弁慶映画祭セレクション。
毎年楽しみ。
新人監督作ならではの原初的な情熱が強く感じられるし
ある種の歪さもすごく魅力的。

**

今作は審査員特別賞/俳優賞を受賞した『夢見るペトロ』(32分)。
監督・脚本の田中さくらはなんと24歳。

今作『いつもうしろに』は『夢見るペトロ』と併映作品。

『夢見るペトロ』が受賞し、テアトル新宿での上映が決まって、32分じゃちょっと集客むずいかも的なことで、撮った作品が今作。

***

『夢見るペトロ』と内容が似ている。
併映で見れたのは面白かった。

パンダの着ぐるみの可愛さとか
コメディシーンとか、
説明台詞の多さとか
ちゃんとした映画になっている分、『夢見るペトロ』の純粋荒削り感が薄まっていて、
僕は『夢見るペトロ』の方が好きだったな。

***

でもやはり24歳という若さで、これだけ内省できて、物語が書けて、映像にできるという、なんなのこの才能と努力と人間関係の構築力。

前日に『バービー』観たところだったから。
田中監督本人は言われて嬉しくないような気もするけど、
この若さで、女性で、映画監督として、クラウドファンディングなどもしながら、宣伝なども頑張りながら、めちゃくちゃ自分で道を切り開いている様子が素晴らしかった。

バンバン世界に出て活躍してほしい。

映画『バービー』バービー人形誕生の前にあった西ドイツのビルド・リリ ラストネタバレあり

2023-08-15 | ネタバレあり
バービー(2023年製作の映画) Barbie  上映日:2023年08月11日
 監督 グレタ・ガーウィグ
 脚本 ノア・バームバック グレタ・ガーウィグ 
出演者 マーゴット・ロビー ライアン・ゴズリング



まず僕はマーゴット・ロビーの喋ってない時の演技が本当に好きなんです。本当に表情が素晴らしい。毎回泣きそうになっちゃう。

***


あと僕はとんでもない映画を観るという覚悟で臨んでいたので、実際予想を超えるとんでもない映画だったことは予想していました。

なので『バービー』楽しそう!っつって観に行った方においては、心中お察ししますっていうか、お疲れ様ですっていうか。

でも
『バービー 〜女性差別の過去、現在そして未来、さらに男性差別について〜』っていう日本語タイトルだったら炎上するもんね。。。


◼️「女性が主人公ならラストは結婚させるか、しなせろ」


ピンクの服着て映画館に行ったくらいにグレタ・ガーウィグ&マーゴット・ロビーで『バービー』撮るってニュースを聞いたときから期待しかなかった。


どんなパワフルな映画が観れるんだろう!と?同監督の『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』ではラストの編集長のセリフ「女性が主人公ならラストは結婚させるか、しなせろ」からの鬼展開が楽しかったし。


グレタ・ガーウィグ&マーゴット・ロビーとバービーってのが正反対だと思っていたのでどんなエクストリームな展開と結末にするのか、きっと僕には考えつかないレベルのことをしてくるのだろうと。
6時間かと思ったら114分。
そりゃ濃密ですよ。
濃厚&鬼展開。
なのにケンの歌の長いこと長いこと(←いいですよねぇわざとうんざりする程長いんだもん…)。。


物凄くわかりやすい。
終盤なんか説明台詞オンリーですからね。そこがマイナスなくらい。でもここまでわかりやすく噛み砕いて話さなきゃいけないって判断したんでしょうね。


成功かと。現時点で10億ドルのヒット。
そして拒否反応もわんさか!それは〝伝わった〟からこそ。


正直今までの映画たちだってこれくらいのこと言ってきたんですよ。でも『バービー』の直球さ&濃度は異常事態!


痛快!痛&快!今の所〝痛〟が勝ってるけど。




◼️バービーだったマーゴット・ロビー



古い話ですけど、「アリーmyラブ」という海外ドラマがありまして、、、
その中にジョージアという女性キャラがおりました。
彼女はブロンドで高身長で超絶美女で「バービー」とあだ名をつけられていました。
それは誇らしい感じではなく、悪口的なニュアンスで。


ハリウッド映画には”ブロンド役"という役柄があって、それは主役の男性に添えられるセクシー美女のこと。


高身長の美形女優はほぼそのセクシーなブロンド役を登竜門にするしかなく、
その後なんとかして演技に転向しないとキャリアがうまくいかない。


マーゴット・ロビーもブレイク作『 ウルフ・オブ・ウォールストリート』ではブロンド役だった。
しかし女優としてのキャリアを積みながらも、さっさと映画プロデューサーとして自分が主役の(アカデミー賞取る気満々の)『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』を製作。
そして演技が絶賛。


そんで演技賞の常連になりつつも、
自分が出ない『プロミシング・ヤング・ウーマン』の製作製作に入ったり、
ハーレイ・クイン役が当たって単独映画の話が来ても
「スピンオフ映画はハーレイ・クインの単独主演作ではなく、クイン以外の女性キャラクターも複数登場させて欲しい」
っつって実はBIRDS PF PREYというチームの映画で女性キャラの活躍の場も増やした。


『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』もめっちゃ面白かったし。


マーゴット・ロビー大好き。
ノーベル賞あげてほしい。


でそのマーゴットが『バービー』でバービーやるっていう。ブロンド美女役をやるっていう。そりゃ一筋縄でいく映画になるわけないのさ。




◼️「ポリコレ映画め!」と言われているが


まず出だしでギョッとしませんでしたか?
幼女たちが赤ちゃん人形を破壊していくシーンありましたよ。ショックを受ける人多そう(赤ちゃんとは遠い存在の僕でさえちょっと引いた)なシーン。
ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。


ケンやマテル社を中心とした「男性の描き方」もかなり一面的で「そりゃ反感買うわ」っていうシーンが多いし長いしホントに長かった。。
ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。


アジア系、イスラム系の女優をそんなに見かけなかった。ポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。


冒頭の赤ちゃん人形破壊のシーンについては「この映画はブラックコメディですよ。
こういう感じで行きますよ。ていうか所詮人形ですよ」というメッセージだと思いました。


男性の描き方については「今まで散々女性を一面的に描いてきて時代が変わって女性を多面的に描き始めたらポリコレだ!ポリコレだ!って騒いで、男性が一面的に描かれると怒り出すってナニソレ?」ってことかと。


アジア系、イスラム系女優少なかったことについては、確かに男性キャストより少なめだったと思う。
同時に「はいはいアジア人も入れときましたよ…」的な表面的なポリコレ配慮にもウンザリしているし、つまりはポリコレめっちゃ気にしてる映画とは思いませんでした。




◼️バービーを描くことは人間を描くこと


「バービーを描くことは人間を描くことになるだろう」とグレダ監督は制作前から思っていたとのこと。


バービーというものを必要とし愛し嫌悪もしてきた人間を描いたのですね。


この映画の冒頭で「女児には赤ちゃん人形しか与えられなかった」と言っていたように、女性と生まれたからには一本道に「お母さん」に向かうものだと刷り込まれていた。


のが、17歳のバービー人形の登場で「自由で楽しい女性としての人生があるんだ」ときっと女児たちはテンションぶち上げだったことでしょう。


とはいえバービー人形誕生の前に「ウーマンリブ」が起きたのだろうと思ったらバービー誕生は1958年でウーマンリブは1960年代後半からってことなのでウーマンリブよりも10年くらい前にバービーは誕生してたんですね。




◼️1955年 西ドイツ ビルド・リリ


さらにそれより早く、1955年の西ドイツのグライナー & ハウサー社がファッションドールとしてのビルド・リリを発売。


ビルドというタブロイド誌で連載されていた漫画『リリ』の主役リリを人形化した商品。
ファッショナブルで見た目はバービー人形と見分けがつかないし、すでに特許を3つ取ったくらいに高性能。


価格は2万円くらいかと(平均月給が200~400マルクの時代に12マルク)。
最初はジョークとして男性向けに販売されていたのが、次第に子供達にも人気になったと。


その頃、
自分の娘バーバラが自分よりも年上の女性になりきって紙人形で遊んでいる姿を見たりして
「それまでは10代や大人になるという基本的な考え方を理解できる女の子向けの人形が欠けていた
」としてバービーの生みの親ルース・ハンドラーはビルド・リリを買ってきた。
ビルド・リリはルースが作ろうとしていた人形と同じコンセプトだった、と。
で夫との会社"Mattel"で製造販売&大ヒット。




◼️今までの映画でも同じメッセージは繰り返し語られてきた


男性社会の歪さとか女性活躍促進会議に女性がいないとか女性にはあらゆるものが押し付けられているとかマチズモうざいとか「あなたであればそれでいい」とか。


ラストでいちいち男女が恋に落ちなくてもいい(落ちてもいい)とか女性差別の裏には男性差別もあるとか


上映時間144分の中でいろんな〜〜〜〜〜〜(ドリカムの「めまい」)〜〜〜〜〜〜メッセージを言ってて、受け取るのも大変だし、
新しいメッセージがあったのかもしれないけど特に新しいのはなかったようにも思うし。。


ただ、
これだけの量と密度と勢いでこれらのメッセージをぶつけてきた映画は初めてなんだと思います。
爆誕です。


「届いた」からこその10億ドルの大ヒットだし、
「届いた」からこその反感の嵐もものすごいことになってる。


◼️わかりやすい。終盤はほとんど説明セリフ


画面が楽しい映画ですけど、説明セリフが多い。
終盤の大事なメッセージとかは全部セリフ。
ある老女との会話のず〜っと説明セリフ。


↑こんなワケないのよ。グレダ&マーゴットの映画で。もっとサラッと映画的な表現で伝えることができるはずなんよ。


でもそうじゃなくて、つらつらつらつらつらべらべらべらべら喋るわけ、特に終盤。


なんでか。そうしないと伝わんないと思ったんでしょうよ。
アメリカ・フェレーラさんがほぼカメラ目線みたいな感じであれだけ捲し立てないとダメだって思ったんでしょうね。


で、やっと伝わった。伝わった証拠としての反感の嵐。


「映画を観たい」と僕は思いましたけど、
そういう映画を観たいならそういう映画を見ればいいだけのことです。
そんなことよりももっと大事な大事な映画です『バービー』は。


この映画を観てあらゆる年代の女性たちがどう感じたのか、パワーをもらったのかを僕が語る資格はありません。


きっと励まされた気持ちになるのではと想像はしますし、僕はとてもうらやましかったです。


僕たちについてもド全力で励ましてくれる傑作&大ヒット映画があったらいいなと。

ラストネタバレは以下に


バービーは人間になりましたね。
まさか人間になるとは。。
『トイストーリー4』では野良おもちゃになってましたが
まさかの人間化。。
グレダ監督は「バービーを描くことは人間を人間を描くことになるだろう」と言ってましたね。
バービーは人形を卒業して人間の女性になりました。
バービーは人形なんだよ、と。
人形はおもちゃなんだよ。
卒業するものなんだよ、と。
冒頭で女児たちが赤ちゃん人形を破壊するシーンを思い出します。
あれは赤ちゃんではなく人形。
人形だし、所詮おもちゃの話だよ、と。
その後婦人科で行くのはまぁブラックジョークでしょうね。。



第16回田辺・弁慶映画祭 グランプリ 映画『はこぶね』

2023-08-12 | 映画感想
はこぶね(2022年製作の映画) 上映日:2023年08月04日製作国:日本
監督 大西諒 
脚本 大西諒 
出演者 木村知貴 高見こころ


田辺・弁慶映画祭 は和歌山県田辺市で毎年開催される新人監督作の映画祭で、
その受賞作を上映するのが 田辺・弁慶映画祭セレクション 。
テアトル新宿 にて今年は8/4~ 8/24まで開催。



まずはグランプリの 『はこぶね 』が上映中。
続いて各賞受賞作も上映。


好きなんですよね、田辺・弁慶映画祭セレクション。
毎年楽しみ。
新人監督作ならではの原初的な情熱が強く感じられるし
ある種の歪さもすごく魅力的。


**


事前に何にも情報を入れずに観ました。
白杖をついている男性が出てるっぽい、くらい。
目の見えない方の映画なのかな、と。


観ている間ずっと『はこぶね』というタイトルがどういう意味なのか、
どういう展開になっていくのか、そっちを考えすぎてしまいました。


もっと没頭すれば良かった。。


**


主人公は目の見えない男なので、勝手に「人生ハードモードなんだろうな」と決めつけてしまってました。


そりゃハードモードな側面もたくさんあるのは事実でしょうけど、
この主人公は荒波のような出来事も、飄々と強かに時に狂気で、荒波を凪へと鎮めていける人でした。


単純に我慢するとか諦めるとか足るを知るなどの対処療法的なことじゃなくて
根本的に〝生きる〟ということの捉え方が変わってしまった印象。


僕なんかだったら「詰んだ」と思ってしまいそうなシチュエーションでも
ゆるやかに正解を弾き出して淡々と遂行していく。


**


その時に、天啓を受けるかのような、宇宙こら何かを受信するかのようなシーンがたまにあるのが面白かった。


**


何といっても主演の木村貴知の存在感と素晴らしい演技ですね!


あの飄々感、浮遊感が作ったものに見えたらあざとくてしんどかったはずですが、
あの雰囲気で映画のど真ん中で存在していたのが凄かった。。


視力を失うイメージシーンがあるのですが
CG使ったのか、もしくはほんとに視力無くしたのかと思うほどの目の表情でした。
あんなことできるんですね。。


半2階のベランダに座ってる姿良かったなぁ。


あともちろん運転シーン。
『団地妻・昼下りの情事』(1971)のラストとのドライブを想起しました。


**


人物は割と多くてそれぞれ面白いんですが、
「2人で喋る」シーンが多くて
2人の会話なのに観客への説明臭が強いものが多くてちょっと気になりました。


痴呆症なのにめちゃくちゃ明快なセリフを明瞭な滑舌で話していたのもちょっと。。


映画『CLOSE/クロース』ネタバレあり 実際にたくさんいる若者たちへの視線 

2023-08-07 | ネタバレあり
CLOSE/クロース(2022年製作の映画) Close 上映日:2023年07月14日製作国:ベルギーオランダフランス上映時間:104分
監督 ルーカス・ドン
脚本 ルーカス・ドン アンジェロ・タイセンス
 出演者 エデン・ダンブリン グスタフ・ドゥ・ワエル



男らしさへの期待」

是枝監督の『怪物』的なものかと思って、好評は聞いていたものの、二の足を踏んでおりました。
LGBTQ+イシューというよりは
〝男性性〟の方がテーマのようですね。

以下のインタビューで監督は「男らしさへの期待」という言葉を使っておられます。
「男は男らしく!」って言われた時に、
女子同士でなら許される同性同士の距離感が男子だと許されなくなってくる。
(そこにはもちろん同性愛嫌悪という下地があるからこそなのでセクマイイシューでもある)
そうじゃないと輪から外されてしまう。

この映画だと本当に〝輪〟を形成してました。
校庭で喋ってるだけでもいちいち〝輪〟。
ボール遊びでも〝輪〟。

必死にその〝輪〟の円周にいようとするレオの姿が辛いんだけど、
確かにああいう場面は学生生活の中ではマジでたくさんありましたね。。。
一方、レミはその謎の〝輪〟に入るか入らないかについては気にしていないようでした。

ただレオからの拒絶が悲しかったのでしょう。
レミもなぜレオが自分と距離を置こうとしているのかはわかっていたと思うんです。
レミは「期待される男性性」に応えようとする男の子ではなかったようですが、世の中には「期待される男性性」ってものがありそれに応えられないとハブられるっていうのは、レミも気づいてはいたと思います。

「それを理由に僕を拒絶するの…??今までのは何だったの??」という悲しさだったのかなと。

***


映画は現実社会の鏡でして。

女性やセクシュアルマイノリティの権利の平等化が進む中で
ヘテロ男性が「自分を省みる」という作業を現実社会で行われていると思います。

脚本家の坂元 裕二が『怪物』で、
ルーカス・ドンが『CLOSE/クロース』で、過去の自分を省みる作品を作っている。

ちょっと毛色は違うけど『パリタクシー』もそうだと思っていて、
女の〝長い〟話をおじさんが聞き続けるという構造で最初から最後まで貫いた映画はとても珍しいし、
その女性の話っていうのも「有害な男性性に苦しめられた半生」な訳で、それをおじさんがずっと聞き続けるってのはやはりそこには「男の反省」があるだろうし、そもそもこのタクシー運転手(ダニー・ブーン)は有害な男性性はあまり感じられない人物像になっていた。

で、話ちょっとそれますけど、

2020年のドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』では、ゲイ男性も批判の対象になっています。
ゲイっつっても所詮は男。
ヘテロ男性が社会の変化の中で反省すべきターンに来ているなら、ゲイ男性も同じ。

ネットフリックスの『シングル・アゲイン』では、ゲイの中年男性とシニア女性が友人になって
お互い似たような境遇であると笑い合うけど
シニア女性はゲイ中年男性に「でもあなたは男よ」と釘を刺す。


***

ラストネタバレは以下に。。






おそらく自殺ですよね。。
ご両親辛いですね。。
レミをいじっていたクラスメイトたちが
「まるで被害者かのように」グループセラピーを受けていました。
いじめてた張本人たちが
「レミはいつも笑顔だった。レミはいいやつだった」と2行ずつくらい順番に話していくのを睨むレオ。
レオはおそらく「自分のせいだ」と自分を責めたり
「いや、クラスメイトのいじめのせいだ」と他人を責めたり
もしかしたら言語化できていなくても何となく社会(世間、空気)に責任を押し付けようとしたり
グルグルグルグル頭の中で考えていたはず。
それなのにクラスメイトはのうのうと
まるで自分が心に傷を負ったかのようにペラペラとなんか喋ってる。
せめては自分だけは自分のせいだって思わなきゃって思ったのでしょうか。
レミの母に「僕が追い詰めた」と告白。
「でも仕方なかったんだ!」と言い訳しないレオ。
レオだけのせいではないことは観客は重々承知。
レミの母「降りて」。
息子の親友の成長を息子同様に見届けることを少しの楽しみにしようとしていたかもしれない。
そんな中、「え、コイツのせいなの?」とレミの母はパニックになり森にレオを放置してしまう。
レミの母「やべえ」と思って、すぐにレオを捜索。
昼間で良かったですよね。夕方以降だったらもうレオ遭難してましたよ。
無事にレオ発見。
レオは木の棒を持ってます。
自傷行為なのかレミの母を攻撃するつもりなのか。
僕は自傷行為かなと思いました、最初は。
自分を殴ったりするのかな、と。
でもちょっとレミ母に向けるような感じもあったような。
つまりもどっちもですよね。
レミが死んでからずっと孤独で1人で戦っていて
やっとレミ母に告白(カミングアウト)することで苦しいし賭けだけど世界が開けるかもと思ったのに
「降りて」って言われて、まるで世界から降りろって言われたかのような衝撃。
もちろんレミ母の気持ちもわかりますよ。
「全方位僕の敵かよ」とレオは木の棒を持っていたんでしょうね。
で、レミ母はレオを抱きしめる。
後日(だいぶ経ってから)レミの両親は引っ越ししていた。
産院を訪ねたらもしかしたら引っ越し先を知れるかもしれないけど、レオはそうはしなさそう。
レオの家業である花栽培が佳境。
花畑の中をかけっこする相手はレミではなく兄。
振り返るレオ。
追いかけてくるレミはいない。
けど、いるよね。
いるんよ。
こういう死に方をした若者がたくさん。
レオはその子たちを見たんよ。
たっっっっっくさん実際にいるんよ、こういう死に方をした若者が。
いじられて、いじめられて、明るい未来なんてないって思わされた若者が、ひっそり隠れて大人しく真っ当な幸せなんて求めたらいけないと思わされてる若者がたくさんいるんよ。


映画『この空の花長岡花火物語』原爆投下本番前に 模擬原子爆弾 が30都市49本投下された

2023-08-06 | 映画イラスト
映画 
この空の花長岡花火物語
 製作国:日本 / 上映時間:160分 
 監督 大林宣彦  脚本 長谷川孝治  出演者 松雪泰子 髙嶋政宏



原爆投下本番前に(本番の原爆の弾道と慣性能率などのデータ取得のために) 模擬原子爆弾 が30都市49本投下された。
 原爆投下予定地では「原爆の正確な威力を測定するため」に事前の空襲が禁止されていた。  



 映画『七人の侍』ネタバレあり 農民が怖くて怖くて・・

2023-08-06 | 映画イラスト
 七人の侍(1954年製作の映画)上映日:1954年04月26日 上映時間:207分
監督 黒澤明
脚本 黒澤明 橋本忍 小国英雄
出演者 三船敏郎 志村喬 津島恵子 藤原釜足 加東大介 木村功 千秋実 宮口精二 小杉義男 左卜全


恥ずかしながら初めて見ました。

めちゃくちゃ面白いですね。
何がって、ほぼ全要素が。

箇条書きにしていくと
⚫︎農民の怖さ
⚫︎各キャラの奥行き、面白さ
⚫︎アクションの凄さ(何人か骨折してるはず)
⚫︎画面の面白さ
⚫︎話の面白さ
⚫︎サスペンス
⚫︎どんどん死んでく悲しさ
⚫︎そして、やはり農民の怖さ


下足の男(多々良純)の感動セリフ

「お侍、これ見てくれ、こいつぁお前さんたちの食い分だ。 ところがこの抜作どもはヒエ食ってんだ。 自分たちはヒエ食って、お前さんたちには白いめしを喰わせてんだ!」

多々良純演じる下足の男は、それまで、護衛のために侍を雇おうとしている農民たちを馬鹿にしてきた。
気位の高い武士たちが、以下に浪人になろうとも、白米を恵んでくれるからって百姓に雇われるなんてそんなこと受けるはずがないと。

しかし実際に侍である官兵衛が「やっぱ微妙だなぁ」みたいな空気出してきたら、一転!
上記のセリフですよ。農民の苦しさを涙ながらに代弁してくれる。
ストレートに感動しましたし、話が上手い。うますぎる。。


【宣伝】

サンエイムックス『映画大解剖シリーズ』Vol.7 アクション映画大解剖 にて七人の侍の 映画イラスト描かせていただきました。よろしければどうか。。
https://www.blogger.com/blog/post/edit/8596378005524649551/7565900008755784596




◾️日本語字幕版をぜひ


三船敏郎が大声で話すとほとんど何喋ってんのかわかんないし、、左卜全は普通に喋ってても全部何言ってんのかわかんない。。

『七人の侍』噂通り聞き取りにくいけど暫くすると慣れてくる。
しかしそれでも三船敏郎の叫び声はどんなに頑張っても何回巻き戻しても聞き取れないよ。。ちきしょー。。ちきしよー!! pic.twitter.com/6vbWyN1mKC


— フクイヒロシ (@fukui164) June 22, 2023

勢いやリアルさを優先したんだろうし実際聞き取れなくても話はわかるので、字幕なくても大丈夫です。
ただ、聞きたいのに聞き取れないってのは結構なストレスなのでレンタルDVDなどで日本語字幕がついているバージョンを観れるのならそれをオススメします。
(僕は後日ツタヤで字幕ついてる版をレンタルしました)
あとは『七人の侍』の名台詞集がweb上にあるので、それを見れば「あ〜こう言ってたのか」と知ることができますよ。



農民の怖さ

『七人の侍』について今更あそこが良かったとかを僕なんかがダラダラと書く気にはならないんですけど、やっぱ書きたいのは「農民の怖さ」。




ネタバレは以下に






志村喬演じる官兵衛がラストで
「勝ったのは百姓たちだ。ワシたちではない…」と言います。
このセリフは知っていましたが、もっとスカッとしたセリフなのかと思っていました。
侍たちが農民を讃えるような意味合いで言っているセリフかと。
違いましたね。
まぁはっきり言って農民たちはずるいというか、
うまく侍たちを雇って侍のほとんどが死んで、
野武士は40人全部退治できたから
あ〜良かったなぁて感じでノリノリで田植えして映画終わり。
「あ〜全部農民たちの思い通りだったなぁ…」みたいな意味での
「勝ったのは百姓たちだ。ワシたちではない…」だったんですね。
「弱者でございますぅ」みたいな雰囲気(実際弱者だし大変だんけど)バリバリ出してるけど、
実は野武士を殺したり、その鎧などを隠し持っていたり、
半殺しの野武士をおばあちゃんが鍬でトドメを刺したりと
映画の前半でも農民たちの不気味な怖さは描かれていました。
愚直という言葉は農民にぴったりだけど、
愚直という言葉には末恐ろしさもありますよね。。
結局はこの農民像を描きたかったのでは?と思いました。
もちろん話の大筋は活劇なんだけど、
ただの素直で弱い農民でも良かったはずなのに、
この恐ろしい農民像。。
これがいいですよね。
これは傑作映画だ!(←みんな知ってる)