夫は元官僚の85歳の男の車に跳ねられ死亡。
加害者の男は謝罪もせず逮捕もされなかった。
妻はコロナ禍で経営していたカフェも失う。
大事なものを次々に奪われた狂気とその先の希望を #尾野真千子 が〝怪演〟!
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同監督の前作『生きちゃった』
同監督の前作『生きちゃった』も、次々と大事なものを奪われていっても「しょうがないよ」っつってヘラヘラ笑ってる〝日本人〟が主役の映画でした。
『生きちゃった』は大好きな傑作ですけど、ブラックコメディ感が微妙で笑っていいんだか笑っちゃいけないんだかわかんなかったんだと思うんです。
僕が見た時は割と劇場の他の観客と笑いながら泣きながらまた笑って、みたいな感じで見ましたけど、
日本映画であんまブラックコメディがないですし、『生きちゃった』の絶妙な風刺がうまく広く伝わらなかったのかな、と無念に思っておりました。ファンとしては。
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今作『茜色に焼かれる』はかなりストレート。重量級のストレートパンチ。ほぼ砲撃ですね。ミサイル弾。
弾としてはストレートなんですけど、その一つ一つに付随してくる問題をどれも無視しないので、要素は多い。だから144分。
職場(ホームセンター)、息子の学校、主人公が勤めるピンサロ、ピンサロの同僚の女性、店長、亡くなった夫のバンド仲間、主人公が養育費を払っているある女性、施設に入っている夫の父…………
などなど自分と息子の生活だけでも大変だけど、生きるってことはやっぱ他人が関わってきちゃうものだし関わらないと生きられないし、関わることで苦しみもあるけど救われもするし、
ってことで、「2020年の夏」の短い話なんだけど、登場人物全員濃いし、それぞれのエピソードが濃い。
濃厚ミサイル弾。
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シスターフッド映画
シスターフッド映画と言ってもいいんじゃないでしょうか。
主人公とその同僚や、前田亜季演じるある女性とか。
特に前田亜季のシスターフッド感は、お互い遠い立場だけど、だからこそ、「がんばろうよ」というエールを送りたいっていうのが感動。
彼女たちが結びつき支え合う姿は美しいんだけど、男である僕が「感動」だの「美しい」だの思ってられない。。
この映画に出てくる男の多くはクソ。。
結構なクソなんだけど、これらは実生活では結構普通に行われていることだし、、それぞれのクソ出来事に対して一つ一つ怒っている女性がいたとしたら「そんなにイチイチ怒らなくても(笑)」とか「うまく受け流すのも女の度量だよ」とか言われていそうで、、とにかく申し訳ない気持ちに。。
こんなにもわかりやすいジェンダーについての映画、しかもめっっっちゃくちゃ怒ってくれる映画は日本では観たことないです(あったらごめんなさい…)。
海外の映画では多いですけどね。5年くらい前からですかね。やっと日本からもこんなにストレートに「誰が何に」怒っているのかが明快な映画が出てきましたね。
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良かったですよ、この役を尾野 真千子がやってくれて
俳優さんは全員素晴らしいのですが、そりゃあ尾野 真千子ですよ。
この人って不思議なんですよね。演技が上手いっていうイメージは正直あんまなくて、、技能や技術(絶対あるんですけど)を駆使してる感とかもないし、、隙がないわけでもないし、、割とどんな役でも「素の尾野真千子」が垣間見える瞬間も多くて(そこが面白いし)、
巧みな演技派!というイメージはないんだけど、毎回絶対に面白いし、好感度もあるし、スケールの大きさがもはや邦画のサイズじゃない。
今作でもちょっとしたゴジラ感ありますよ。「ゴ・ジ・ラ・覚・醒」みたいなシーンあるもん。怖いけど笑っちゃう。。
良かったですよ、この役を尾野 真千子がやってくれて。
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ネタバレは以下に。
父(オダギリジョー)は新興宗教にハマって家の金を全部使っちゃってた。
良子(尾野 真千子)/ 純粋な人だった。頑張って探せばいい神様もいるんだと思う。基本的には最悪なのばっかりがこびりついてるんだけど。ま、頑張りましょって話。母さん、お芝居しようと思って。お芝居だけが真実でしょ。タイトルは「神様」。
純平/父ちゃんも母ちゃんも難しいな。。
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ラブホにて。熊木と良子。
良子/ずっと隠しててごめん。私風俗で働いてた。辞めたけど。検査もした。病気はない。恥ずかしいことと思ってないの。熊木くんが嫌な思いするのが嫌で。。
熊木/知らない男とやって感じるの?
良子/決まってるじゃん。吐きそうだよ。殺されるような気がする。
熊木/恥ずかしいことじゃないって。。
良子/そう思い込まないと。。私熊木くんが好き。
熊木/そんなにそんなに真剣になんなくていいよ。風俗?いいじゃん。上手いんでしょ?俺、もっと軽い気持ちでやりたいんだけど、40近くになってないでしょ。なになになになに。俺結婚してるし。子供いるし。えーなになになに。なになになに〜。
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居酒屋。泣いてる良子。そこに偶然?ケイ。
ケイ/純平くんが大人だったら良かったなぁ。ああいう正義感の強い人がいい。良子さん大丈夫?精神とかお金とかギリギリでしょ。旦那さんがよそで作ったこに養育費って。子供そだれるの大変なのわかってるから養育費払ってるんですか?意地?なんですか?子供ってなんですか?
良子/旦那の愛人の子なの。女の子だって。大変高校生。嫌だけど逃げられない。
ケイ/あまりにも理不尽って怒らないの?
良子/好きになっちゃったから。あの人は平気な顔で空から見てて。カラダ売っても他の人好きになっても。
ケイ/子供おろしに病院に行きました。私、子宮癌でした。転移の検査は出てないんですけど、早期発見じゃないみたいです。嘘ーって感じです。父親はヒモみたいな男。ひたすら殴られました。嘘ーって感じです。でもいい人なんですけど。私、純平くんを傷つけたかもしれない。
良子/なんでケイちゃんがそんなにいくつもいくつも。そんなことある?
ケイ/わたし悔しい。
良子/潰れたけど私カフェやってたの。お金貯めてまた開こうと思うんだ。誰にも指図されずに好きなようにやるの。ケイちゃん良かったら一緒にやらない?
ケイ/嬉しい。でも死んじゃったらごめんなさい。
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公営団地。
不良たち(←マジで1ミリも擁護できないクソ不良たち)/純平くん、友達になろ〜よ。仲直りしにきたんだよ〜。
純平、顔を出す。
不良たち/うそー!お前、売春婦と一緒にいんのか?売春やってるやつが税金でやってる家に住んでいいの?
不良たち、純平の赤い自転車を壊す。
純平、ビニール傘で戦う。
不良/キモッ!
不良たち、ベランダに置いてる純平の父の本に火を付ける。本燃えていく。「知」の焼失。
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渋谷。自転車を止めてタバコを吸う男。
不意に思いたちその自転車をパクる良子。渋谷を走る。家に帰る。
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消防車。順平は火を消そうと努力したが。良子、唖然。
純平/僕たちは団地から出ていくことになった。他の住人に迷惑を書けないというルールに反したことが理由らしい。いつも僕たちはルールというルールに裏切られる。
***
赤いワンピースを着た良子。カバンに包丁を入れる。
良子/ちょっと出かけてくる
お寺。純平も心配で着いてきてる。
神お寺のトイレでべったりと赤い口紅を塗る良子。赤は良子の勝負の色。
純平、こっそり公衆電話をかける(助けを呼ぶ)。
良子/お母さんだとか何だってのは一旦忘れさせて。
熊木がお寺にやってきた。手を振ってる。
熊木/もう連絡くれないかと思ってたよ〜
良子/私、舐められたと思ってる。それについてどう思ってるっ!オイッ!
熊木/そういうのちょっと気持ち悪いよ。。
良子/オオオオオイッッッッッ!!!!
包丁を持って追いかける。熊木にげる。純平が包丁を奪い取って草むらに隠す。
純平、熊木に飛び蹴り。熊木倒れる。
熊木/誰だよ
良子、熊木にビンタ&蹴り
そこに純平に呼び出されたケイと店長(永瀬正敏)が登場。
店長、熊木を殴り、引きずっていく。
お寺のお坊さんたち/どうかしました?
店長/俺ヤクザ。こいつもヤクザだから。大丈夫。
ケイ/オイッ!お前良子さんに何かした?傷つけた?
ケイ、熊木に膝蹴り連発。
店長/おー!やれやれ!
熊木、ぼこぼこ。
***
ケイと良子と純平の食卓。テイクアウトの牛丼。
店長から電話/知り合いのヤクザがオレオレ詐欺の受け子探しててさ、こいつ脅して引き渡していい?
良子/後のことはお任せします。
店長/ヤクザの力使って解決したから。こっちのことは気にしなくていい。いい弁護士もいるから。成原さんと知り合いなんだって?
良子/私の旦那を殺した男の弁護士さんです
店長/らしいね。今度は味方だから。大丈夫。またこんなバカいたら連絡して。いくらか金になるから。じゃ。
純平/あのーケイさん、今日はありがとうございました。俺の力不足で迷惑かけちゃって。
ケイ/ほんといい男。良子さん、今度デートしていいですか
良子/。。。。。
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純平/それからすぐケイさんが死んだ。
***
ホームセンターに。
ホームセンターの店長とバイト(音大生)がイチャイチャしてる。
良子/いらない花をください。廃棄するもの。
店長/な、ないです
良子、店頭に並んでる花から廃棄されそうな花を選んで持って帰る。
***
葬儀。純平と良子と店長(永瀬正敏)。
ケイの父/娘と仲良くしていただきありがとうございました。こうして友人ができて幸せだったんじゃないかな。
この男はケイが8歳の時からケイをレイプしてきた男。
良子、花を棺桶に入れる。
***
夕焼け。茜色。
店長/ケイちゃん、ビルから転落して死んだって。強い薬飲んでたし事故じゃないかって。
純平/事故です。僕とデートするって言いましたから。
***
良子と店長。
ケイから良子に何十万か入った封筒。店長が渡す。
店長/良子さんと純平くんのために使ってって。その日死んだ。だから多分あいつ、自分で死んだ。生きる理由がなくなったんだろう。
***
良子が盗んだチャリを元のところに戻す。
***
赤い自転車を良子が運転して、後ろに純平が座ってる。
純平/母ちゃん、俺負けそうだ
良子/私も。でもなんでだろ。ずっと夜にならない。まだ空が真っ赤っか。
純平/母ちゃんが頑張るなら俺頑張る。母ちゃん、大好きだ!
良子/純平、もっかい言って。
純平/い、いやだ
良子/だよね
ハグ、涙。また自転車こぎだす。
***
赤い自転車、施設に返す。
***
タイトル「神様」
良子の芝居。良子はヒョウの姿。
本当はむずばれるべきではなかった。お前ガゼルとはな。シャー!私は女豹。メスの豹だ。シャー!
純平/母ちゃん、なんだこれ
お前は新興宗教にはまり、女癖も悪く、よそに子供まで作ってしまった。でも私はお前に恋をした。
(交通事故の音)
それでもお前との子供が私にはいる。なにが悪い。愛しちゃったんだよ。ていうか、神様!それ以上に私に生きる意味を問うのか!それでも私が生きる意義を試すのか!
(カメラを回している店長。「俺、カメラの才能あるかも!」みたいに気持ちが乗ってる)
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
走る。走る。走る。泣き叫びながら。
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純平/なんにせよ、この人こそが俺の自慢の母ちゃんだ。
タイトル「茜色に焼かれる」
エンドロール
GOING UNDER GROUNDの「ハートビート」がかかる
(ちょっとここ調べます)
石井監督の名前が出て曲がフェイドアウトして、終わり