映画感想(ネタバレもあったり)

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映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』ラストネタバレあり 「地球では檻に入らずに歌っていいのか?」 

2024-06-16 | 映画感想
不思議惑星キン・ザ・ザ(1986年製作の映画) Kin-dza-dza!
上映日:2016年08月20日
製作国:ソ連 ロシア
上映時間:135分 
監督 ゲオルギー・ダネリア
脚本 レヴァス・カブリアゼゲオルギー・ダネリア 
出演者 スタニスラフ・リュブシン エフゲニー・レオーノフ ユーリ・ヤコヴレフ レヴァン・ガブリアーゼ  




名作っ!


コメディの皮を被った政府批判!

いや、そもそもコメディとはそういう側面が強いものなはず。

低予算の雰囲気映画かと予想してたが、否っ!
映像も素晴らしく、なんと丁寧に考え抜かれて作った刺激的な作品か!

すぐ2回観ましたけど、2回目観ると演技の素晴らしさもわかりました。
1回目は話を追うので必死(しかもわからない…)でしたが
2回目心を落ち着けて観たらあらあら、抑えた演技の中で繊細な感情表がみなさん素晴らしかった。。

スパシーバっ!

**

SFコメディに仕立てることで検閲をスルリと抜けたとのこと。
なるほど、これがSFの効能の一つか!

中国でもBL映画を撮るために登場人物を人魚にしたりと、
作り手たちは閉じ込められている檻からなんとか両手を出して創造している!



**

『リバー、流れないでよ』に出てくるアレがキンザザ由来である、というのを知って
キンザザは興味はあったものの「眠そう」ということで避けてきたけど、
僕今週風邪で気管支炎で仕事以外ほぼベッドで倒れてて暇なので観ました。

**

1回目は、地球の未来の姿なのかな?と。
違いましたね。

キン・ザ・ザは当時のソビエト連邦の写し鏡だったんですね。

何の正当性もない階級社会。
そして階級社会を「生きる目標がある。上下がない世界では生きられない」と教え込まれている。

警察は暴力&賄賂。

表現活動はがんじがらめで、それはまるで檻に閉じ込められて歌を歌うことのよう。

規制や風潮の檻からなんとか両手を出して創造する様子は滑稽だけど愛おしい。

「地球では檻に入らずに歌っていいのか?」のセリフが切ない。

※地球でもほとんどの場合檻に入らないと歌ってはいけません



**


プリュク人はとにかく嘘をつくし、自己中心的で冷徹。
演じる彼らがキュートなので一見そうは見えないけど、酷いぜアイツら。

しかし厳しい社会構造の中で生きる彼らに、実際同じような社会構造に押し込められている地球人(観客も)は彼らの健気さを認めざるを得ない。



**

1回目観た時はずっと3割〜5割意味がわからず観てました。
それでもすごく面白かった。

だいたいの筋がわかって2回目観ると名作っっ!

省略がクール過ぎて。。
まず瞬間移動がほんとに瞬間。

何のエフェクトもなくパッと移動してるから観客はなんのことだかわからない。
それは主人公2人と同じ。

シーンのカットもクール。
バイオリンを割ったらマッチ棒を見つけた。
次の瞬間宇宙船が飛んでいる。
物語や設定が全部頭に入ってないと理解追いつかないですよ。。

だから後半どんどん、何をするために何をやってるのかが全然わからなくなる。
靴下の男も1回目はわかんなかった。
冒頭の地球に来ちゃってた男だったのね。

そして彼はマシコフとゲデバンが別の場所に移動しててもちゃんとそこに現れてくれる設定なのね。
知らないから、それは。。

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あ、そうだ。
丸っこいウエフが「うるさい」って言ったんですよ。日本語で。

https://x.com/fukui164/status/1802112775004824012?s=46&t=_F65pl4IWo6ngp0pQDRjZQ

パニクってるっていう演出かと思うんですけど、
「キンザザ 〝うるさい〟 〝日本語〟」で検索しても出てこない。。

ロシア語で音も意味も近しい言葉があんのかね。


**


「ママ ママ どうしよう 寒い冬が来るのに ショールもコートもないよ」
の歌が最初は時代錯誤のものだなぁと思っていた
(映画の中でも〝古い流行歌〟)けど

次第に緊迫感が強まってくると「ママ ママ どうしよう」が切実なものに聞こえてくる。

それはおそらく当時のソ連でもそうだったはず。
この歌は〝古い流行歌〟ではなく、まさに今!厳しい冬を前にあたたかいコードのない子供がいるという貧困問題が、ちゃんと目を向ければあるのに目を向けていない。

それは日本も同じ!
20代や女性を含めた数百もの人が食事を求めて都庁の下に毎週集まっている。

その頭上では何十億もかけた(何十億もかかってるわけのないレベルの)プロジェクションマッピングが映されている。

ディストピア(反理想郷、暗黒世界)じゃんっっ!!
ファッッックっ!!
キューーーーーーー!!!!

**



ラストネタバレは以下に。




終盤、何度も嘘をついてきたプリュク人を救うために、
地球に戻るチャンスを捨てるシーンは泣けるし
プリュク人のふたりは結局マシコフとゲデバンの優しさにはピンと来てなかったっぽいとこも良い。 

ラスト。
 靴下男が瞬間移動を発動させる(地球人ふたりの許可も得ずに…)と
 次の瞬間冒頭のシーン。 
マシコフが帰宅するシーン。 

これもね、いちいち覚えてないですからね。。 
これが冒頭のシーンであることを。。 

場所だけじゃなく時間もちょっと戻ってるってことね。 
どうやら記憶も消えてるっぽい? 

パンとマカロニを買ってきてと頼まれたマシコフは外へ。

 ゲデバンから道を聞かれる。
 顔を見るが思い出さない。 

そこに清掃車。
車の上には黄色いランプが点灯している。

 PJ様かと即座に反応してクーするふたり。
当然街の人は誰もクーなどしない。

 ふたりが見つめ合う。
 「バイオリン弾き」 
「おじさん」

 名前は忘れちゃった??

 微笑んで空を見上げるマシコフ。
 宇宙のどこかで今もクーしているであろう彼らを思い出してたのかな。

おわり

映画『カラーパープル』 意外なビアン映画! 

2024-06-15 | 映画感想

カラーパープル(2023年製作の映画)The Color Purple
上映日:2024年02月09日
製作国:アメリカ
上映時間:141分
監督 ブリッツ・バザウレ
脚本 マーカス・ガードリー
原作 アリス・ウォーカー
出演者 ファンテイジア・バリーノ タラジ・P・ヘンソン ダニエル・ブルックス コールマン・ドミンゴ コーリー・ホーキンス H.E.R. ハリー・ベイリー


てか、H.E.R.で出たんだ!!

ジェフリー・ライト繋がりで『カラーパープル』。

ジェフリーは牧師役。
ジェフリーとタラジ姐さんは父娘役。
実際は2人は同い年。58歳!!

**

シュグ役のタラジ姐さんがやはり素敵すぎる。
面白すぎる。
さすがの素晴らしさ。

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タラジ姉さんとセリーとの愛のステージも、
終盤のセリーのソロ歌唱も
大っっっっっ変申し訳ないんだけど、、、
ちょっと安っぽく見えた。。

監督は42歳の新鋭ブリッツ・バザウーレ。
これからかな。

**

人種差別よりも性差別の方に比重が置かれていますね。
1985年版は観ていません。
こういう話だったとは。。

女性たちの連帯の物語。
そして、レズビアン要素もあったとは。

1983年の小説はどれほど衝撃を与えたのでしょうか。
ピューリッツァー賞受賞。

原作者のアリス・ウォーカーは
女性と同性婚をしてた経験もある方。

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ミュージカルらしく全体的に大味な印象が残念。

おそらく元の小説がそうなんだろうけど、キャラクターの書き分けが少ない。
登場人物は多いけど、強い男と弱い男と強い女と弱い女しか出てこない。

映画『ジョー・ベル ~心の旅~』 反省したんですよね 

2024-06-15 | 映画感想

ジョー・ベル ~心の旅~(2020年製作の映画)Joe Bell/Good Joe Bell
製作国:アメリカ
上映時間:94分
監督 ライナルド・マルクス・グリーン
脚本 ラリー・マクマートリーダイアナ・オサナ
出演者 マーク・ウォールバーグ リード・ミラー コニー・ブリットン




「ここはアメリカだ!自分の意見を言う権利がある!」

と差別主義者を擁護する父。
彼の息子はゲイ。

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この映画が無知で無教養な自分を反省するために作られたのならばいいけど
「反省してま〜す」と喧伝するために作られたのなら、
実話ベースのこの物語のご本人たちの人生を愚弄するものだと思う。

この映画を観て「絶対にそんなことない!」と擁護する自信はわかなかったな。


映画『素晴らしき、きのこの世界』キノコ教? 

2024-06-15 | 映画感想

素晴らしき、きのこの世界(2019年製作の映画)Fantastic Fungi
上映日:2021年09月24日
製作国:アメリカ
上映時間:81分
監督 ルイ・シュワルツバーグ
脚本 マーク・モンロー
ナレーション ブリー・ラーソン



ヒトの脳が巨大化したのは幻覚系のキノコを食べ続けたことも要因の一つという仮説。

キノコ教とでも言いたくなるような
ほぼ宗教みたいなキノコへの信仰。

映画の後半は
シロシビン(マジックマッシュルームの一種)の抗うつ剤としての有用性の話。

そして終盤はほんとに宗教の話。

映画『アメリカン・フィクション』 久しぶりに吸い込まれた 

2024-06-15 | 映画感想

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)American Fiction
製作国:アメリカ
上映時間:118分
監督 コード・ジェファーソン
脚本 コード・ジェファーソン
出演者 ジェフリー・ライト トレイシー・エリス・ロス ジョン・オーティス エリカ・アレクサンダー レスリー・アガムズ アダム・ブロディ キース・デヴィッド




好き!最高なんだけど。

久しぶりに吸い込まれた。
続けて2連続で観た。
「5」はさすがに高すぎかもしれないけど
今の気持ちとしては「5」だ!

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小説原作の映画らしい良さがありますね。


小説が原作の場合どういうわけだか話の展開が読みにくいものが多い。
横道のエピソードが盛りだくさんというか。
それがとても自然で、豊かで。
うますぎる映画脚本とは違った良さがあって好き。

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まず日本語吹き替えで観ました。


こういうオトナのコメディタッチの人間ドラマを演じる声優さんたちのアクトって素晴らしいですよね。
ちゃんと血の通った人間を愛おしく演じてくださってる。
声優さんの技能も込みでこの映画、まず大好きになりました。

2回目は字幕で。
ジェフリー・ライト、声全然ちがうじゃんっ!!

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〝アジア人差別。


差別も何もアジア人見えてない〟までも描いてくれてる。
「今こそ黒人の声を聞かなきゃいけないのよ」っつって多数決で黒人の声無視するの皮肉が最高。

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おそらく奴隷制の時代の黒人役を演じさせられている俳優と手を振り合うシーンも。

「まだやってんのか」
「白人がまだ観たいんだってよ」
とでも会話してそう。

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リューベン・オストルンド監督がこの映画を作ったら、もっと嫌でもっとブラックなコメディになったはず。

それはそれで良いだろうけど
この映画のライトさは本当に魅力的。

ジェフリー・ライトが良かったなぁ。
こういう演技が演技賞総ナメして欲しい。

**

主役であるモンク自身のの背景はあまり語られない。
結婚歴なども明確ではない。
父親は天才の産婦人科医で孤独で銃で自分の頭を撃ち抜いて自殺。
モンクの周りの出来事は語られる(し重い…)けど、モンク自身の過去はあまり描かれない。

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親の介護については本筋とそんなに関係ないと思う。


介護費用を稼がなきゃいけないという理由づけのためだけもの。
しかし、介護(老いた母)に時間を割いているし
演じたレスリー・アガムズの演技も素晴らしく存在感がある。
てことは、介護(母)はこの映画の中でも重要なものなのでしょう。
その意味は。

人生の冬。
自分たちの未来ですかね。

どんどん忘れていって、自分が自分じゃない時間が増えていく。

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原作小説も話はほとんど同じ。
小説の方がバッドエンドな印象かな。

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結婚式でブーケトスを受け取ったのはゲイの兄。

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「黒人は貧しい
黒人はラップを歌う
黒人は奴隷で
黒人は警察に殺される
英雄伝にもされる
悲惨な境遇の黒人が尊厳を守り抜いて死んでいく
作り話だとは言わないが
もっと他にもあるだろう」

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差別する者たちが
被差別者の〝差別されている様子〟を描いて
罪悪感を持つことで
「あぁリベラルっ♪」って思えて満足している現状をライトなコメディで描いています。

気をつけないとね。。。