映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『大怪獣のあとしまつ』 ラストネタバレあり 

2022-07-20 | ネタバレあり
大怪獣のあとしまつ(2022年製作の映画)
上映日:2022年02月04日製作国:日本上映時間:115分
監督 三木聡
脚本 三木聡




長い。

こういうカルトコメディは90分以内にして。
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言いたいことは色々あるけど、
まずは
「これくらいつまんなくて、めちゃくちゃな邦画いっぱいあるのになんでこの映画だけ死ぬほどイジメられたんだろう…」
とは思いました。
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僕は三木聡監督に対しては甘いと思います。
『いい感じに電気が消える家』←名作っ
『亀は意外と早く泳ぐ』
『時効警察』(2006年版)
とか好きです。
三木聡組の岩松了やふせえり、村松利史らが楽しそうにしてる(どうせ誰も笑わないんだろうなと思いながら勝手やってる)のを見るのは好きです。
トンボや、中華のかぶりものした水着女性が水辺を走ってる映像などはお馴染みのネタなのです。
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どう考えてもそんなに笑わすつもりはないと思うんです。
たまにプッと吹き出したらラッキーくらいの。
ずっとこうですからね、三木聡は。。
良い悪い好き嫌い合う合わないはどうしようもないので
この映画に憎しみを持つ人を責めるつもりはないですよ。
(あ、僕も西田敏行はハマってなかったしすごく寒かったと思います)
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全体的には僕はそんなに嫌いじゃないけど、やっぱり何をしたいのかがよくわからないし、
それは計算されたものではなく
「さすがにもうちょっと面白くなるかと思ったんだけど、………ならなかった…」ってことだと思います。

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怪獣の死体をどうするか。
死体は一級河川上に横たわってるので国交相の管轄だ。
放射能が検出されてないなら地方自治体が処理すべき。
生ゴミなら厚労省だ(なんで)。
文科省が標本保存したら?
動物の死体処理は保健所では?
怪獣を観光資源にすればインバウンド需要で12兆円が期待できる!
怪獣の死体の安全性が証明されると
隣国から「怪獣は我が国の領土から発生したもの」として返却を要求される。
などなど。
↑この辺りは面白かった。
このあたりをリアルに追求する様子が見たかったよね。

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とくに終盤が何やってるのかが分かりにくかったですね。
何のために何をして一回やめたあの作戦を復活させてそのために何をしてそれにどんな危険があるのか、とか。
話が意外と複雑だしちゃんと説明されないしそもそもそんなに真剣に観てないので、よくわからない。
そんな状況で笑うわけないギャグをやるなで、イラッとする人も多かったのでしょう。
(そりゃそうだ)

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ま、一番の問題はオチですよね。

ちゃぶ台ひっくり返すようなオチ。
多分ギャグのつもりなんですよ。
上映時間90分以内にしてもっとソリッドでサクサク進む話なら、もしかしたら面白かったかも。
え、結局……みたいな。。

ネタバレは以下に




で、
ラストは山田さんがウルトラマン的なものだったというオチ。
山田さんが怪獣を持ち上げて、宇宙に廃棄してくれた模様。
終わり。
日本人の奮闘を見たかったよね。
縦割り行政の事勿れ主義の日本人による「大怪獣のあとしまつ」を観たかったのに。。
「結局ウルトラマンかいっ!!」っていうギャグだったのかもしれないけど、それまでがうまくいってないのでやはり笑えないし、愛しさを感じることもできなかった。

四コマ映画250本目っ!!! ここでホン・サンス! 映画『イントロダクション』

2022-07-18 | 映画イラスト
イントロダクション(2020年製作の映画)
인트로덕션/Introduction
上映日:2022年06月24日製作国:韓国上映時間:66分
監督 ホン・サンス
脚本 ホン・サンス
出演者 シン・ソクホ パク・ミソ キム・ヨンホ


ホン・サンスを観ると(っつっても『逃げた女』しか観てないけど…)血が綺麗になるような、
小さな瘤がちょっとした痛みと共に流されていくような、
軽く生まれ変わった感を得られるのが不思議。


***


『逃げた女』もすごかったんですが、『逃げた女』はまだ何が何だかわかったんです(多分、一応)。


この『イントロダクション』は、、、、解説読まないと、どこなのか何なのかがわからない。。
読んだとて、いつの出来事なのかわからない。。


だけど全体としての流れはなんとなくわかるし、
「何者でもなくて焦ったり先延ばししたりしていたあの頃の自分」を見ているようで、愛しくなったり恥ずかしくなったり。。




***




四コマ映画『イントロダクション』→https://note.com/fukuihiroshi/n/n0ca886607a7b





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『ドライブ・マイ・カー』系です。


素晴らしい映画なんだけど何が素晴らしいのか、もはや僕にはわからない。


次元の違う何かを見せられてる感じ。




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IMDb(インターネットモービーデータベース)によるとこの映画のあらすじは、


「若い男がガールフレンドを驚かせるために韓国からベルリンに旅行します。(A young man travels from South Korea to Berlin to surprise his girlfriend.)」




とのこと。。。
IMDbもヤケクソなあらすじ。。


この映画見た人なら「あらすじ、そこ?」って思うことでしょう。。
でも、確かにこの映画のあらすじって言われてもね。。


***


真っ直ぐにシンプルにこの映画を受け取るならば、
青年ヨンホが自分の「何もなさ」「何者でもなさ」に怯えながらも親離れの一歩を踏み出す、
話かな。


映画『C.R.A.Z.Y.』 宗教によって守られるもの、排除されるもの

2022-07-17 | 映画イラスト
C.R.A.Z.Y. 上映日:2022年07月29日製作国:カナダモロッコ上映時間:129分
監督 ジャン=マルク・ヴァレ
脚本 フランコイズ・ボウレイ ジャン=マルク・ヴァレ
出演者 ミシェル・コテ マルク=アンドレ・グロンダン ダニエル・プロル マイケル・ゴードン


目次

  1. 急逝されたジャン=マルク・ヴァレ監督
  2. クリスマスに生まれたゲイの少年
  3. この映画の面白さ、魅力
  4. 男ばかり5人兄弟
  5. 1960~70年代のカナダ・ケベックの文化風土
  6. 宗教によって守られるもの、排除されるもの
  7. あくまでもカメラは客観的


急逝されたジャン=マルク・ヴァレ監督

オスカー受賞作『ダラス・バイヤーズクラブ』や『わたしに会うまでの1600キロ』、『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』などの映画監督ジャン=マルク・ヴァレは、2021年12月25日に亡くなりました。享年58歳でした。
12日25日、クリスマスに。

そのジャン=マルク・ヴァレがクリスマスに生まれた少年を描いた『C.R.A.Z.Y』(2005)がついに日本で劇場公開されます。


クリスマスに生まれたゲイの少年


この『C.R.A.Z.Y』では、毎年自分の誕生日を祝う前にキリストの生誕を祝うために家族で教会へ行き、
キリストの分まで?と思うほどに大量で大きなプレゼントをもらう誕生日のシーンが何度も描かれます。
その少年ザックはどうやらゲイです。

幼い頃から女の子が好きとされるものを好み、母はそれを与えようとしますが、保守的で厳格な父は自分の理想の「男らしい」息子に育てようと企てます。

キリスト教を厳格に信仰する保守的な家族(両親と男ばかりの5人兄弟!)の中で、自分の性的嗜好は間違ったもので父の期待に背くものであると幼い頃から植え付けられたザックは、少年期を迷いに迷いながらサバイブします。


この映画の面白さ、魅力

この映画の面白さ、魅力は「性的指向に悩む少年」問題にだけスポットを当てているわけではないところです。
これだけでももちろん重要で何度も語り直すべきテーマではあるんですが、
よくあるっちゃあよくある映画なので。。




男ばかり5人兄弟

まず男ばかり5人兄弟なんです。
多いんですよ、5人もいなくていい。。
基本的には脚本家フランコイズ・ボウレイの自伝とのことですので、フランコイズ・ボウレイさんが男ばかり5人兄弟だったのでしょうか。

別にそうじゃなくてもいい要素が映画の中に入り込んでいるのは、とても映画を豊かにします。
(下手な作り手だったら邪魔なだけですが、この映画では魅力になっている)

5人兄弟(しかも全員男)の中にいることで自分が埋没してしまうことを表してんのかな、とも思うんですが、、、別に少年ザックは5人の中の埋没もしてないし、、「5人もいるなんて多い!」とか「しかも全員男!!」という悩み・不満もザックにはなさそう。。

もちろん5人兄弟(しかも全員男)の影響はあっただろうけど、
たとえば一人っ子だったり姉や妹がいる設定であってもザックの根源的には悩みや問題が解決されやすい状態になるわけでもないでしょう。

これが面白い点ですね。


1960~70年代のカナダ・ケベックの文化風土

監督ジャン=マルク・ヴァレが過ごした1960~70年代のカナダ・ケベックの文化風土が背景として描かれています。
ファッションや音楽、子供たちの遊び場、キリスト教会などタイムスリップしたかのように当時の雰囲気を味わえます。

美術や音楽が素晴らしい。

時代によってザックのファッションはガラリと変わっていく。
けど、保守的な大人たちは何も変わらない。
同じ服装で同じ歌を歌う。


宗教によって守られるもの、排除されるもの

ザックの母もキリスト教を厚く信仰していますが、その前にまずは自分の息子たちを受け入れて愛することができる人。

父の方は、男は男らしくあらねばならないし、自分の息子であるならば尚更。
自分の息子がゲイだなんてあり得ないあり得ない。
父は、自分の家族よりも前に信じて優先するものがある人。

てことで父も苦しむ。

自分の子供を受け入れられないんだもん、自分が信じているもののせいで。
子供よりも大事なものがあるなんて苦しいでしょうよ

さらに、「実はそんな父も過去には…」というのを母からサラッと暴露されてしまう。
この映画はほんとこういうとこが面白いですね。。


あくまでもカメラは客観的

主人公はザックだけど、この映画はザックの内面にググッと寄ったりもしない。
ザックがどういう状況、心情で何に迷い何にトライしようとしているのかはハッキリとはわからない。

おそらく少年ザックにもわかっていないんだろうから。
そのリアリティが面白い。

大人になって思い返してみて
「あの頃は父の期待に応えるために男らしくなろうとトライしてたなぁ」
「自分がゲイじゃないことを証明しようとしてたなぁ」
など、当時は言語化できずにやっていたことが後からきっとそうだったなぁとカテゴライズする。
(それが正しいかどうかはわかんないけど)

決めつけず、描きすぎない、いいバランスの個性のある映画だと思います。


映画『愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像』 まんまヒース・レジャー 版のジョーカー!ノーラン監督のジョーカーのアイデアの一つがフランシス・ベイコンだったのですってよ

2022-07-08 | 映画感想
愛の悪魔/フランシス・ベイコンの歪んだ肖像(1998年製作の映画)
LOVE IS THE DEVIL: STUDY FOR A PORTRAIT OF FRANCIS BACON
監督 ジョン・メイバリー
脚本 ジョン・メイバリー
出演者 デレク・ジャコビ ダニエル・クレイグ ティルダ・スウィントン


「こんなに乾いたセックスシーンは他にはない。是非観て欲しい」と勧められまして(どんな勧められ方よ)、観ました。




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すごく面白かったです。


フランシス・ベーコンという20世紀を代表する画家と彼の男性の恋人の話。
ゲイなわけですね。


主役のフランシスを演じるのはイギリスでナイトの叙勲を持つデレク・ジャコビ。
その恋人を演じるのが若きダイエル・クレイグ。


2人の演技はどちらも素晴らしく、とくにダニエル・クレイグは今作で高く評価されてハリウッドに進出しました、と。




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特に冒頭のアート映画にありがちな断片的なモンタージュの連続はさすがにしんどいんですが、、
中盤以降、ちゃんと物語が動いて人物の描きも深くなっていってからはかなり良い。


フランシス・ベーコンが面白いんですよ。
デレクの演技の素晴らしさもあるんですが。


ヤク中でボロボロになっていく恋人を「めんどくせぇなぁ…」って思ってるのを全然隠さない。。


全然いい人ぶらない。
支えるとか救うとかそばに寄り添うみたいなのがない。


かと言って切り捨てもしない。
家には住まわせ続ける。
でも「何コイツ…」とずっと思ってそうな感じ。


それが面白い。




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だからこそのラストシーンで俯くフランシスが切ないわけよね。。


きっと心の底では……と。
でもやっぱ「ふぅ、これで楽になった」とも思ってそう、というのがやはり面白い。




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ちなみに乾いたセックスシーンについては、確かに愛情とか人格みたいなものを感じさせる愛の営みという感じはなかったですね。


どこを映してんのかもよくわかんないくらいのアップで、体の部位を映していく。
顔なんて全然映らないので誰であってもいいし、体のどこであってもいい、みたいな、なんか信頼関係とか心の交流なんかしようもないセックスシーンだと思いました。




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あ、あと


デレクジャコビ の演技が、まんまヒースレジャー 版のジョーカーの演技でした。
ちょっとトカゲっぽい。


と思って調べてみたら、
ノーラン監督のジョーカーのアイデアの一つがフランシス・ベイコンだったのですってよ。