映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

映画『否定と肯定』実際に起きたホロコースト否認論を巡る裁判描く

2019-03-31 | 映画イラスト





2000年に実際に起きた、ホロコースト否認論を巡る裁判描く映画『否定と肯定』(2016年)。


「何でも述べる自由はあっても、嘘と説明責任の放棄は許されない」

意外と映画的な楽しみに満ちた映画でした。
よくこんな地味な題材でここまでのエンタメにできたな、と。
しかも厭らしさもなく。

その理由の一つは役者が素晴らしいこと。
レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール 。
この3人の対決が出色。

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ティモシー・スポールの怪物感、というか妖怪感、というかもっと言っちゃえばアホ感漂う演技がものすごい。

アイヒマンっぽいんですよね。怪物で悪魔で妖怪なんだけど、実はただのうっとおしいオヤジ。そこまで憎めないし、逆にちょっと人気も得ちゃうような。
結局ホントの悪って町内に数人いそうな程度の、ハッキリとした罪状がつかない程度の悪が一番タチが悪い。

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トム・ウィルキンソンがまたいつものごとく素晴らしい。
威厳とユーモアと信頼感。
しかも抑えきれずにイラッとしてる瞬間も出すことで人間味がプラスされてる。

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この名優2人を脇に置いて、ちゃんと主役として中心に立っていたレイチェル・ワイズのすごさよ、結局。

だってレイチェル・ワイズ後半ほとんど関係ないんだもん。。
ほとんど裁判シーンなのに裁判で喋っちゃいけないんだもん。

レイチェル・ワイズの役は一匹狼で生きてきたちょっと人からあまり好かれないタイプ。
なのに、この人が狂言回しで難しい裁判の内容を観客に伝える、観客目線にもならなきゃいけない。
美人女優の得意なとこかも知んないけど、レイチェル・ワイズの演技力の賜物。

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ナチス系の映画をよく見るのでそれに合わせて色々ネットで調べたりすると、確かに出てきますね。ホロコーストなかった説。
1日に何千人も焼ける焼却炉が当時あるわけない、とか。

この一文だけ読むとちょっと「あ、そうかも」と思ってしまう。
※ただ『サウルの息子』を観ると焼却炉がキャパオーバーになると外に大きな穴掘って生きたまま何百人も穴に落として上から火炎放射器で焼いてたみたいです。どんより。。

正確な根拠がないのに「ホロコーストはなかった」という言葉が流れると、なんの事実もなかったのに、「ホロコーストはなかったと言っている人がいる」という新しい事実が生まれてしまう。
で、そういうのが好きな人がまた精査せずに「ホロコースはなかったらしい」という話を広めてしまう。

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まだまだ人間は成長していかなきゃいけないんだなと思いました。

表現の自由や自分の意見を言う自由と、
事実を捻じ曲げちゃいけないということのバランス取るのが難しい。

「何でも述べる自由はあっても、嘘と説明責任の放棄は許されない」

国のリーダーが事実じゃないことを平然と言っちゃう現代。
国粋主義の人はすぐにそれを支持する。
原作者は「健康的な疑念」が必要だと言ってます。
ホントかな?と疑うこと。

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映画『ザ・プレイス 運命の交差点』人は願望が叶うとわかったらどこまでできるのか

2019-03-31 | ネタバレあり






The Place
上映日:2019年04月05日

自分の願いが叶うとわかったら人間はどこまでやるのだろうか。
それが他人の運命を狂わすことだと知っていても。

というテーマの映画です。

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僕が大大大好きな『おとなの事情』のパオロ・ジェノベーゼ監督の新作です。

人間の奥底の真理をえぐってえぐってえぐっておいて、「おとな」というベールに包んで笑顔で帰っていくという冷え冷えとした恐怖映画でした。。

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『おとなの事情』もある家の中のワンシチュエーションでしたが部屋の異動はありました。

『ザ・プレイス 運命の交差点』は完全にカフェだけ(ザ・プレイスという名のカフェ)。
しかもほとんどひとつのテーブルのみ。


『おとなの事情』同様、キャストは多いんですがあまり混乱はないですね。この辺りはうまいです、さすが。

知らないイタリア俳優さんたちがいっぱい出て来て、「この人誰だっけ?この人の願望なんだっけ!」って最初は焦るんですが、中盤からは自然とわかりますし、バラバラだった彼らが繋がっていくストーリーもうまい。


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謎の男を演じたヴァレリオ・マスタンドレアさんの演技が素晴らしい。
イタリアでは相当な名優のようですね。

いろんな相談者と対峙し続けるわけですが、ミステリアスだけど重すぎないので、あくまでもスポットライトは相談者に当たっています。

それでいて単なる狂言回しで終わってないわけですから、本当に素晴らしい。。

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第91回アカデミー賞作品賞&助演男優賞&脚本賞受賞!! 映画『グリーンブック』

2019-03-31 | 映画イラスト







第91回アカデミー賞作品賞&助演男優賞&脚本賞受賞!!

ベスト盤のよう。
ここ10年くらいやってた人種差別コメディドラマの蓄積と反省の結晶。
白人の救世主問題もクリア。

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『メリーに首ったけ』の監督なのでコメディもばっちり。
間とテンポがバッチリなので、滑り知らずでコメディポイントでは必ず笑える。

手紙漫才も最高でしたね。
オチを知ってる漫才を何回も見ても笑えるように、
「このオチ来てくれ!」と願ってたらその通りのが来て劇場大爆笑。さすが。

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映画の冒頭で出てくる
「inspired on a true story」の通りに実在の人物たちによる実際の話です。

やっていることは『栄光のランナー/1936ベルリン』『42 〜世界を変えた男』『ドリーム』『それでも夜は明ける』『ブラックパンサー』などで表現されて来たこと。

そりゃそうですよね、歴史的事実なんだから。
同じってことはこれが本当にあったことだという証明でもある。

で、これらの映画の映画的に失敗してたり(白人の救世主問題とか)、映画的に盛り上がらなかったり、衝撃的過ぎて客足が遠のいたりしたところを全〜〜〜〜部問題クリアにして、完成させたのがこの『グリーンブック』!よく出来てる!

「よく出来てる」という評はあまり褒め言葉ではないですね。

ただ、この映画のすごいとこはW主演(ですよね)の2人の演技が本当にものすごくものすごく素晴らしい点。

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だからちょうど心地いいテンポとちょうど良い刺激の中でも
この2人の重厚でもありライトでもある素晴らしい演技によってずっと引き込まれながら最後まで見れますよ。

2時間10分あるんですね。ちょっと長め。でも大丈夫。時間忘れる。ま、トイレは行っといた方が良いわな。

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人種差別コメディ映画のひとつの完成形。
多くの人に観てもらいたいなあ。『ドリーム』のように。
でも確か『ドリーム』の興行成績4億止まりだった気がする。
『ムーンライト』は3億。

7億くらいは行けるかなぁ。

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ちなみにグリーンブックってのは、
「黒人の利用OK」のホテルやレストランが載っているガイドブックのこと。
現代日本でも〝LGBTフレンドリーホテル〟っていうのをまとめてもらっている状況です。
おんなじ状況です。

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傑作アニメ誕生!おめでとう!『スパイダーマン スパイダーバース』

2019-03-31 | ネタバレあり



『スパイダーマン スパイダーバース』

四コマ映画『スパイダーマン スパイダーバース』
→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2235


映像も凄いし!物語も良いし!テーマも泣けるし!キャラも良いし!全要素最高!


スパイダーマン:スパイダーバース (字幕版)



世界興収記録『アクアマン』歴代ランク第20位に

2019-03-24 | 映画イラスト







映画『アクアマン』(2018年製作の映画)


面白かった!!!!
こんなに夢のある映画はひっっっっさしぶりに見た!

「ワイルド・スピードのジェームズ・ワン監督!」っていうのを推して宣伝していて
「それってそんなに推しポイントなのか??」と思っていたけど
確かにジェームズ・ワン最高!

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アクションが素晴らしい!
海だけでなく、シチリア編での屋根アクション!

アクアマンと同じくらい強い王女様と二手に別れて敵と戦うんだけど、
アクアマンが手前で戦ってる時に奥で王女様が戦ってるのも見えて、位置関係がハッキリする。

家の中に突然乱入して、住民がビックリ!っていうおきまりのもやってくれるし、
CGならではの自由自在のカメラワークでずっと楽しい。

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普段は僕はアクションシーン始まると寝ちゃうくらいに興味ないんですが。。

どんなスーパーパワーがあっても結局は「殴り合い」しかしないので「頭使えよ」と思って萎えるし、
味方が数人いても全然チームプレーしないから「頭使えよ」と思ってまた萎える。

しかし『アクアマン』のアクションは素晴らしい!

ただ、どれくらい体が丈夫なのかの説明がされないので、あんまハラハラしないってのはありますかね。。
セスナから砂漠に飛び降りても無傷でしたもんね。。

その割に、砂海王国で落下するときはスリリングに見せてたけど、どんな高さから落ちても多分あの二人は健康ですよ。

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海底世界のデザインがすごい!こんなに夢のある映画はひっっっっさしぶりに見た!

スケール感もディティールもものすごい。作り手が楽しんで作ったのがわかる感じ。
今までに描かれたことのない海底世界を俺らが作るんだ!俺らが基礎を作るんだ!
という気合を感じる。ものすごいもん。

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アクアマンと王女との淡いラブとコメディをちょくちょく挟んでくるのも、テンポがあっていい。

主演のジェイソン・モモアは超絶かっこいいんだけど、ちょっとフラがあるというか、ちょっと面白い。ずっとコメディ感を匂わせているので、本当にDCにとっては救世主ですね。

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「このシーン観ただけでお腹いっぱい!」っていうシーンが14分おきくらいに来るんだけど、
それでもラストのオーム王との戦いでは、そういうシーンだらけでその度拍手しそうになるほど。

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ただ、
海の中のシーンはものすごい気合い入ってるんだけど、
セットで外を撮ってるシーンではいきなりちゃっちい感じなっていたのも
ここまで来ると可愛いポイント。

ニコール・キッドマンが変な服着て頑張ってアトランティス帝国の女王になりきってるシーンもちょっと笑っちゃう。。
水に濡れたら服重くなるから大変だろうなとか、水が中に入っちゃったりするのかなとか心配になることも。。

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で、DCといえば、ラストバトルでは夜に広場で戦うという規則がありますので、今回もラストは「夜に広場で」です。

それを観たとき「うわ〜、夜に広場だぁ…」と一瞬落ち込んだんですが、、考えてみたら、これほどまでに「脱DC」を試みている映画でも
やっぱラストは「夜に広場で」を選んだってことは、今までのDCヒーロー映画に敬意を現しているんだなぁと思ったらちょっと泣けてきました。
(別に特にDC好きってわけじゃないんだけど)

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王女メラがめっちゃくちゃ強いし、頭がいいのも良かった。

なんかブラック・パンサーに似てましたね。

隠れた世界に科学技術が発達した国がある、とか。
情けない王子を導く強い女性たちがいる、とか。

撮影時期からしてマネしたとは思えないけど。

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2019年を描いたSF映画4本!的中かハズレか、映画の2019年はどうなってる?

2019-03-24 | 映画イラスト
近未来を描いたSF映画はたくさんありますね。2015年の世界を描いた名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(1989)は、実際に2015年の現実と共通することが多く、「予言していた」として話題になりました。

実は、ちょうど今年“2019年”を描いた映画もあるんです。今回は『AKIRA』『ブレードランナー』『アイランド』『デイブレイカー』の4本を紹介します! さて、それぞれの映画が描いた“2019年”はどんな世界なのでしょうか!


#AKIRA #Bladerunner #Daybreakers #基礎の充実の上に


本年度アカデミー賞作品賞候補&外国語映画賞受賞『ROMA/ローマ』

2019-03-24 | ネタバレあり




ROMA/ローマ [Blu-ray]


ROMAローマ 本年度アカデミー賞作品賞&外国語映画賞Wノミネート作。

四コマ映画『ROMA/ローマ』→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2203

#AlfonsoCuarón #YalitzaAparicio

彼女は有能な家政婦なのに(家政婦はもう1人いるしね)、アレがガレージに散乱し続けている。

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薄ら寒い映画。。。

ポスターの抱き合っているシーンは本当に薄ら寒い。怖い。

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話は淡々としているようで定期的にとんでもないことが起こるし、ラストへ向かってじりじりと上がっていく。

けど、この映画の描きたいことはたぶんこの映画で描かれてないこと、なんじゃないかな。

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監督の半自伝的な話だとのこと。

てことは、
この映画の主役は家政婦だけど監督の視点は家政婦じゃない。

たぶん家族の次男あたり。

この家族の異常性に気づいた頃の自分。

あの時ウチにいたあの家政婦さんはいったい自分たちをどう見ていたのだろうか、と。
自分たちはあの家政婦さんにずっと何をしてきたんだろう、と
振り返る映画ですかね。

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男たちが広場で空手やった時に
当然みんなメキシコ人なんですが、
(師匠は韓国人)
日本語で「じゅーなな!じゅーはち!じゅーく!」と掛け声を出す。

残念ながら「じゅーく」の次が「さんじゅー!」。。。

オーノー!日本語間違ってんじゃん。。無念。。
と思ったけど、これだけ緻密な映画なんだからこれも計算でしょうね。

言葉の意味もわからずに熱中してやってる滑稽さの表現でしょう。

****

人種差別と性差別。
こんな視点で描いた映画は観たことない。

****

なんの予備知識もなく観たので
途中までイタリアの話かと思ってました。。ローマだし。

イタリア語じゃなくてスペイン語喋ってるんですね。。

メキシコですね、舞台は。
ローマという地名のようです。

もう1人の家政婦が1971年と言ってた。
クレオの出産予定日は6月。
6月の軍隊と学生デモの衝突は「血の木曜日事件」。


四コマ映画『ROMA/ローマ』→ http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2203


以下ネタバレ











犬のフンは「差別」のメタファーかと。

家政婦クレオは若いけど優秀。もう1人の家政婦アデラもテキパキと仕事をこなす。

でもどういうわけだか駐車場は犬のフンだらけ。

大型犬だけどさすがに半日でもあんなにたくさんフンはしない。
あれはメタファー。

****

父親は犬のフンに気づいて、踏んでしまって「うええ、踏んでしまった!」というリアクションをとる。
そして、家を出ていく。

ほとんど存在しないけどこの父親はいい人間として描いたのでは。

犬のフンが見えてるし問題だと感じている人。
その人が捨てた家族。

****

父親がフンを踏んだことでやっと奥さんは「フンだらけじゃないの!掃除して!」と家政婦を怒鳴る。

しかしそれ以降、犬のフンについて語ることはない。
フンが見えてないし問題じゃないと思ってる。

****

この家族には民族差別が根付いてる。
家政婦の出自は先住民族。

家族はみんなクレオのことを「大好き大好き」と何度も言う。

しかしクレオは妊娠したことで解雇されるのではという恐怖を持っていた。
結構お腹大きくなっても普通に働かされ、
死産のあとにもノーテンキに海へ旅行に誘われて、
「休暇だから働かせないわ」と言いつつ結局カバンをいくつも持たされる。

祖母はクレオの希望もきかずにベビーベッドを〝値切って〟買って〝あげる〟し、
クレオのミドルネームも誕生日も保険についても知らない。

クレオは家族に対して自分の意見や考えなど一切言わない。

クレオを子供を産むつもりがなかったと言った。
こんな状況で子供を産んだらその子が不幸になると思ってたから。

父親になるべき男には逃げられ(木刀と銃を向けられた)、頼れるのはこの家族しかいないけどこの家族は自分を人間として見ていない。

こんな状況では子供は産めない。

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子供を産みたくなかったと、はじめて自分の気持ちを吐露したクレオを
家族たちは「わたしたちはクレオが大好きよ」と言って抱きしめる。

いやいや、原因お前らだから!

それがポスターの写真。

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帰りの車で下の子供2人は無垢な心でクレオに抱きつき眠る。

上の子供2人は全然窓の外をガン見したまま。

クレオによって兄妹の命が救われた直後だと言うのに。

****

家に帰ると休むことなくクレオは大量の洗濯をし始める。

今にも崩れ落ちそうな細い鉄の階段を登って屋上へひとりで向かう。

さっきクレオは兄妹の命を救った。
さっきクレオは初めて自分の気持ちを吐露した。
さっきクレオと家族たちは抱き合った。

なのに結局クレオはひとり。
誰の視界にも入らない場所へ行く。




ROMA/ローマ [Blu-ray]









『THE GUILTY/ギルティ』音だけで誘拐事件を解決!?

2019-03-24 | 映画イラスト


映画『THE GUILTY/ギルティ』(2018年製作の映画)

緊急ダイヤルにかかってきた電話からの音声だけで誘拐事件を解決するぞ!
という映画です。

画面は緊急ダイヤルの部屋のみです。
カメラは絶対に外を写しません。

電話の向こうの声の主がどんな人物なのか、
今どういう状況なのか、
どこへ向かっているか、
音の情報でしか予想できません。

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「聴覚から得られる情報はわずか11%」だそうです。

絶望的に情報が得られない中で一本の電話を頼りに誘拐事件を解決したい!と思っている男が主役です。

何を書いてもネタバレ感があるので、、あまり書けませんが。。

おもろしかったんですよ!!!
アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表作です。

「これだったらオスカー獲れるんじゃね?」ってことでデンマークの映画の中からこの一本が推されたわけです。

「ディスプレイだけで!」とか「音出しちゃだめ!」とか「見ちゃダメ!」など、強めの規制をすることでエンタメ性を増す映画が近年増えてきておりますが、
そのラインの映画たちよりはだいぶ踏み込んだところへ行っていると思います。

あぁネタバレ厳禁!

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