映画感想(ネタバレもあったり)

映画コラム/映画イラスト

メアリーの総て(2017年製作の映画) Mary Shelley

2019-02-27 | 映画感想
メアリーの総て [Blu-ray]



映画の作りがなんだか歪(いびつ)でスマートじゃないのがこの映画の捨てがたい魅力。

もしももっともっと金かけて美術作り込んで、今っぽい作りの映画にしてたらアカデミー賞あたりに名前が挙がったであろう、ポテンシャルは感じる。


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200年くらい前の話だけど、現在でも国によってはもっとひどい性差別があるはずだし、先進国であっても立場や地域によってはそんなに差別の状況は変わらないのかも。


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彼女は18にして「フランケンシュタインの怪物」という怪物を作り出した。

しかし、怪物はもうすでにいた。
女性だからといって踏みつけてくる人間。

男が多いけど女性もそう。
自分がそうされてきたからと言って同じように女性を踏みつけて地べたに這いつくばらせる。

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性はもちろん重要。
性は無ではない。

でも、性から自由に生きることがこんっっっなにも難しいとは。
人間にとっての課題。

ドリームボート(2017年製作の映画) Dream Boat

2019-02-22 | 映画感想
冷やかしのつもりでなんとなく見始めたけど、
なんとも誠実な目線で撮られたNetflixのドキュメンタリー。

音楽も面白い。

ゲイ3000人を乗せた豪華客船の旅というかなり限定された世界なんだけど、
登場人物たちが吐露する言葉は、
大昔から現在まで毎度毎度映画で語られてきた言葉とまったく同じ。


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みんないろんな国からひとときのキラキラした夢を見るために参加している。

中にはかなり過酷な国から逃げ出すように船に乗った人も。

結構固いちゃんとした仕事をしてる人が多いんだけど、まぁかなり金のかかる船旅だろうからちゃんとした人じゃないと料金払えないし、長期休暇もとれないわな。


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毎晩華やかなパーティが繰り広げられていて、ハッピーな雰囲気ではあるんだけど、
やはり吐露されるのはその空虚感。

モテるためにルックスを磨いたんだけど
ルックス目当てで近寄られるのも飽きがくるし、本望ではない。

どんなに派手な格好をしていても、
「真実の愛」を渇望して涙して落ち込み体調が悪くなる姿は愛おしさすら感じる。

それはやはり人類共通の気持ち。


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「孤独を感じたことなんてなかった。この船に乗るまでは…」

などの心の底から出てきた名言もたくさん。


ライトにも観ることができるし、
それぞれの祖国の事情と彼らからこぼれる言葉を読み込んで深く味わうこともできる。

希望のかなた(2017年製作の映画) Toivon tuolla puolen/The Other Side of Hope

2019-02-21 | 映画感想
希望のかなた [DVD]



同監督の『ル・アーヴルの靴みがき』を観た時に
●全員無表情
●棒立ち
●簡素な背景
●淡々とした話運び
に驚いて、、
「本気でこれやってんの?」と心配しましたが、

途中から、どうやらこれは本気だ、と。
ここまで徹底してやってるってことは。
本気でこれをコメディとしてやってるんだと確信しました。


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で、この『希望のかなた』。
好評は聞きつつも、やはりそんなに手が伸びる作品でもなく。

やっと観ましたが、冒頭の淡々地獄で寝まして、一時停止。。
(話としてはずっと過酷なんですが…)


主人公の2人の男が交わり始めてから画期的に面白い。


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地理的に難民に慣れてるはずのヨーロッパでも、難民に対しての冷遇、もっとはっきりとした排斥が市民レベルでも国家レベルでも行われてるのか。。。


ほんと日本はどうするんだろ。。

現在でも飲食・サービス業は外国人に任せてるし、今後も増やしていくしかない。

なのに、日本人による外国人差別。
とくにアジア人差別問題は今後どうなるよ。。

差別してる場合じゃないのに。
コンビニで働くアジア人の何割かは英語ペラペラですよ。
自国語と英語を話せるのが普通の国から来てるんですよ。

ぼくも含めて英語話せない日本人がアジア人をひっくるめて差別してる現状。。

日本にも「フィンランド解放軍」的な外国人排斥グループいるしなぁ。。


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この映画、
残酷な現状を問題提起して終わりますが、
寛容とやさしさを静かにコメディ交えて、絵本のように伝えてくれましたね。


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この映画の途中に日本料理屋コントが入りますけど、あれ別に日本をいじってるわけじゃないですからね。

たぶん他国の文化を甘く見ると痛い目に遭うぞという示唆だと思いますよ。

クレイジー・リッチ!(2018年製作の映画) Crazy Rich Asians

2019-02-21 | 映画感想
クレイジー・リッチ! [DVD]


この素晴らしい演技でミシェル・ヨーが助演女優賞の候補にも上がらなかったのは無念。。

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前半1時間はハッキリ言ってつまらない。
(後半は全部ひっくり返して突然面白いけど)

メインキャストがアジア系俳優で埋められたハリウッドのラブコメ映画であり、なんとランキング一位を記録した記念碑的な映画であることは知っています。

後年語られ続ける映画なこともわかります。


が、
前半の「アジアにだってゴージャスリッチはあるんだぜ!」のアピールタイムが長い。。。


こんなにもしつこく繰り返しアピールしないと西洋人にはわかってもらえないの??
むなしいんだけど。。

しかも、ここで描かれる金持ち像って西洋文化じゃん。。
アジア人が無理して西洋と同等に並ぶために頑張ってるみたいで切ない気持ちになりました。。
アジアオリジナルのゴージャスリッチで圧倒して欲しかった。


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そんな中でも、彼氏の母を演じるミシェル・ヨーはさすが!!!

美しさと貫禄で自然にこのゴージャスな世界に溶け込んでる。
まったく頑張ってる感がない。

そして、ちょうど1時間が過ぎたあたりからミシェル・ヨーの時間のはじまりはじまり!!


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やっとここから面白くなります。

ミシェルのドレスは緑。
そしてでっかい指輪も緑。エメラルド。

ミシェルが主役のレイチェルを追い詰めるシーンでは、突然背景の階段が全部緑に!

ミシェルの素晴らしい説明台詞のみで彼女自身の歴史と苦しみ、そしてレイチェルを拒絶する理由、レイチェルの今後の運命すべてが表現される。

これだ!

前半の金持ちアジアなんかどうでもいい!
アジアにはこんな素晴らしいとんでもない女優がいるんだよ!
ここにこそグッとくる。泣きそう。
ありがとう、ミシェル!拍手!


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彼氏のゴージャスな実家で家族みんなで餃子を包むシーン。

自立した現代的な女性であるレイチェルは言う。
「うらやましいです。私はこういう集まりはなかった」

すると彼氏の母ミシェルが
「努力なしでは実現しないわ。家族を第一にしてきたからよ」


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このあたりから話がひっくり返って突然面白い!!
レイチェルの秘密も見つかって事態はめちゃくちゃに。。


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本当に面白い。

前半の古臭い価値観と安っぽい現代的な生き方を軽く踏みつけて提示するテーマ。

そしてラスト。
飛行機のエコノミークラスでのシーン。
そこで差し出される緑色!
泣けて泣けて。。。


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彼氏(王子様)のポンコツっぷりと
前半のノロノロした展開を忘れさせるくらいの、後半の盛り上がりとテーマ。


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超絶金持ちで仕事もできて超美人でスタイルもいいお姉さんも素敵で面白かった。


ぜひ続編を!

『サウルの息子』の監督ネメシュ・ラースローの新作『サンセット』

2019-02-14 | 映画イラスト


アウシュヴィッツの絶滅収容所の内部を詳細に描いた『サウルの息子』(2015)の監督ネメシュ・ラースローの新作『サンセット』

四コマ映画『サンセット』→http://4koma-eiga.jp/fourcell2/entry_detail.htm?id=2187

サウルの息子』では、FTS(ファーストパーソシューティングゲーム)のようにほとんどカメラは主人公の一人称視点です。
カメラが主人公サウルに近いので、観客はサウルが見たものと同じものを観ることになります。

体感ゲームのようにアウシュヴィッツ絶滅収容所の内部を動き回るので、それはそれは地獄のような時間なわけです。。
絶滅収容所で起こるあんなことやこんなことや、実際にあった集団蜂起の様子など生き残った証言者へのインタビューをもとに正確に再現しているので、客観的に「こんな大変なことがあったんだね」と教科書的に知るのではなく、体感してしまうのです。。

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新作『サンセット』でもカメラは主人公の女性イリスに近い近い。。また地獄へのジェットコースターに乗せられたような気分になります。

が、今回は1913年のブダペストの高級帽子店が主な舞台ですので、前作に比べたら相当にゴージャスな画面です。
しかもドキュメンタリー調だった前作より、かなりドラマが重視されてるし、人物も多いし、ストーリーも起伏が激しいです。

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しかしネメシュ・ラースロー監督はそんなに親切な人ではありませんよ。。
話がものすごくわかりにくい。。それは主人公イリスの状況と同じです。イリスには「兄を探す」というメインの目的があるんですが、事件に巻き込まれたり自分から事件の中心に行ったりして、、
いろんな人が出てきていろんな事件がおこりながらなんとなく「この人はこういう人、あの人はああいう人」と認識して行きます。イリスも同様に悪夢のような数日を生きていきます。

サッと画面に現れてなんか意味深な一言を言ってサッと画面から消えていく人ばかりで、何が起きているのか付いていくだけで必死。
でも美術が豪華で緻密なので、背景に写っているものの情報量はとても多いです。
どういう対立構造なのかがわかってきたところで、さすが『サウルの息子』の監督!と恐れおののく展開が。。

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舞台は1913年のブダペスト。第一次世界大戦の寸前。戦争が勃発して社会が混乱しているってことは、人の心も混乱しているということがわかってきます。
この映画では高級帽子店が舞台となっていますし、イリスも帽子をかぶっています。
人は高級でゴージャスな帽子をかぶることで「都会的な洗練された平静さを保っているように見せている」。
しかしその帽子の下には、「統制しきれない力がうごめいて闇と破滅へ連れていく」と監督は〝帽子〟というメタファーについて説明しています。

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監督は、『サウルの息子』を撮る前から「女性についての映画を作りたい」と考えていたとのこと。
ラストシーンでイリスがある場所にいるのですが、その場所のことを考えると、この映画が凡庸な「女性映画」などではないことがわかります。

『サウルの息子』が戦争の行き着いた先、であるなら、『サンセット』は戦争・文明破壊への入り口。

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めまい(1958年製作の映画) VERTIGO

2019-02-14 | ネタバレあり
めまい (字幕版)


古い映画でも「今見ても普通に面白い!」ってのもあるし、
映画史的なことを知らなくても「面白い!」ってこともある。

この『めまい』はこれらの点からするとちょっとつらいのでは。。

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どうみてもテンポが悪いし、
色へのこだわりもあざとくてうっとおしい。。

アニメが入ったりして撮影技術も当時は斬新なんだろうけど、
今から見ると「頑張ってるね」としか。。

登場人物が少ない割にそれぞれが表面的。
男性性と女性性の対比なんだろうけど、今からすると表層的。

キム・ノヴァクがあまりにも美しいし、オッパイボインでウェストキュキュッなので、
「女性はここまで美しくしないといけないのか…」と女性の生きづらさは強く感じました。


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事件の真相が見えてきてからもまた長くて。。

ラストのラストはビックリした(ていうか笑った…)けど、それまでは予想つく展開だし、テンポがやはり遅い。


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あの塔は男根のメタファーかと(すみません、いきなり)。

で、〝高所恐怖症〟などという女々しい弱点(映画内でも言ってる)を持った主人公の男は塔の先っちょまではいけない。

高いとこ怖いから塔の先っちょまで行けずに、事件の真相を知らない。

(歪んだ)男性性を取り戻した男は階段をザンザン登って行って、塔の先っちょまでたどり着く。


ネタバレは以下














で、男女で愛してるだなんだって揉めあったあと突然お婆ちゃん出てきて萎えて終わり



愛の渦(2013年製作の映画

2019-02-13 | 映画感想
愛の渦

こんなに良い映画だったのか。。
もっと早く見ればよかった。

なんかエログロな映画だと予測しててなんとなく観ずにいたけど、
さわやかな一編を見たような気分。

でも、これを見終えて家の外に出た時の恥ずかしさたるや。。

もう自分があのマンションの一室にいた感じになっちゃってるから、
服着てる自分を人に見られるのもちょっと恥ずかしいし、
なんか普通に街に溶け込んでる風の人間を演じてるのも恥ずかしい。

「お前さっきまであんなことやってたじゃねぇかよ」
と誰かに思われてそうでドキドキ。。

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池松壮亮のセリフ
「僕はあそこにいた僕もほんとうの僕ですけどね」

最後の「ね」がちょっとヤダなと思ってました。

この「ね」が
なんか
「あそこにいた私は本当の私じゃない」
って言った門脇麦を攻めてるような、見下してるように感じて、ヤな気持ちになりました。

でも、
この「ね」はこの池松壮亮演じる男のダメなところであり、
この時期のこの男の核となる部分なのだろうと思えて、

業の肯定ではないけど、
人間の全然倫理的ではない、動かしようのない部分を
「だよね〜」と肩を抱いてくれるような気持ちに。


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まぁとにかく、こんなに良い映画だったのか。。

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男(2017年製作の映画) Darkest Hour

2019-02-13 | 映画感想
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男(吹替版)


「彼は言葉という武器を戦場に送り込んだ」

チャーチルが演説の旨さで民衆と議会を一致妥結させていくんだけど、
なんか怖いんよね。。

人間味も出しつつも強い言葉でワーッと演説すれば、周りもコロッと翻意し、みんな一方向へ向かってく。

この感じ怖いなぁ。。
良いことみたいに描いてるのも怖い。

国民皆兵!玉砕!みたいなことを言ってますからね、チャーチルは。

まぁ戦時中だからしゃーないのかな。

ほんと戦争ってやだなと思いました。

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史実と違う箇所もいくつかあるらしく。
地下鉄のは完全フィクションとのこと。

しかし
『ダンケルク』の裏側や
『英国王のスピーチ』のジョージ6世が出てきたりと
歴史がつながる面白さは十分あった。

サバイバルファミリー(2017年製作の映画)

2019-02-08 | 映画感想
サバイバルファミリー


面白かったっっ!
期待してなかったけど。
全然眠くならないし、ずっと興奮しながらラストまで観れた。

藤原紀香の「風が気持ちいい」だけでも笑える。。


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冒頭の電気たっぷり使った生活っぷりを描いておいて、
電気のなくなった生活との対比をしていくんだけど、
それがうまい。

電気ないとあれもこれもダメなのか。
そしてアレは飲めるのか!とか
アレはまずいのか!とか

ホラーでもありサスペンスでもあり
あるあるネタもありでなかなかずっと面白い。



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みんな芝居がうまい。
顔がものすごくいい。

深津絵里はほんとうに素晴らしい女優だなぁ。



ひとつの価値観を押し付ける映画じゃないから、しみじみとした感動が残って、素晴らしい。



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大事なシーンでのカツラギャグも良い。
あれのおかげで余計なお涙シーンにならなかった。

でもあの家族にとっては強烈なターニングポイント。


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で、そしてそしてそして、
ラストに登場する最強移動手段のカッコよさたるや!
カッコいいの代名詞のようなアイツの登場!興奮!

はじまりのうた(2013年製作の映画) Begin Again

2019-02-07 | 映画感想
はじまりのうた BEGIN AGAIN(字幕版)



低予算のデビュー作(?)『ONCE ダブリンの街角で』をスターで撮り直した感じ。

何がすごいってそれでも素晴らしいってとこ。

まぁやっぱ曲は最高ですよ。
ジョン・カーニー監督はいつも歌が素晴らしい。

『歌』がもたらすすべての幸せ感を信じてるし、それを表現できている。

同じようなことをしようとして全然できてない作品も多いのに、この監督はなぜこれができるんでしょうか!


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マーク・ラファロとキーラ・ナイトレイもとても良くて。

脇役がもうちょい面白かったらとんでもない名作だったと思いますが、
でも全然全然いい作品だと思います!